新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS 第1部 婚約に至る道 第2話補完 冬月の頼み チルドレン達が解散した後、シンジはマヤの所へ行ったため、アスカは一人休憩室でシンジを待っていた。 そこに、冬月がやって来た。 「あ、副司令。どうしたんですか。」 アスカが尋ねると、冬月は優しい笑みを浮かべて言った。 「実は、アスカ君にお願いがあってね。シンジ君のことなんだが。」 「碇シンジですか。」 アスカは何のことかと頭を捻った。 「シンジ君の精神状態は、今は極めて不安定な状態なんだよ。 だから、アスカ君に側に付いていて欲しいんだ。」 「精神状態が不安定?彼がですか。」 アスカはまたもや頭を捻った。 「そうか、アスカ君は知らなかったね。」 冬月は、そう言ってシンジに最近起きた出来事を語りだした。 アスカが使徒の精神攻撃を受けた時、シンジが出撃を願い出たが却下されたこと。 綾波レイのクローンがリツコに破壊されるのを見て強いショックを受けたこと。 アスカが行方不明になって心配したこと。 フィフスチルドレン=最後の使徒と仲良くなったこと。 その使徒を握りつぶして倒したが強いショックを受けたこと。 シンジを助けてミサトが死んだらしいこと。 ズタズタにされた弐号機を見て気が狂いそうになったこと。 サードインパクトが起きた時カヲルやレイに別れを告げて戻ってきたこと。 アスカに嫌われているかもしれないと思い込んでいること、などであった。 「私の知らない間に、彼にはそんな事があったんですか。」 アスカはあまりにもショッキングな出来事がシンジに起こったことに、驚きを感じた。 「ああ、大人でもあれだけのことがあれば、普通ではいられないだろう。 ましてや、あのシンジ君だ。精神的にかなり参っていて、不安定なはずだ。」 「でも、私の前では、そんな素振りは見えませんでしたが。」 「逆に言えば、アスカ君の前では精神が安定しているということだよ。」 「にわかには信じにくいのですが。」 「シンジ君はアスカ君のことを愛している。それが理由だ。」 「は?彼は、私のことが好きではありません。 私は彼に厳しく接して来ました。 ですからそのような感情が生じることは有り得ません。」 アスカはそう言いながら、今までシンジに対して行ってきた仕打ちを思い出していた。 機嫌の良い時はこき使い、機嫌の悪い時は八つ当たりをし、当たり散らし、酷いことばかりしてきたと自覚していた。 「シンジ君は、サードインパクトが起きた時、天国とも言える場所に辿り着いた。 誰もシンジ君を傷付けず、他人を傷付けることのない、シンジ君にとっては、正に天国と言っても良い所だった。 しかも、レイ君やカヲル君がいた。 しかし、シンジ君は自分にとって、地獄とも言えるここに戻ってきた。 他人に傷つけられ、他人を傷つける可能性があるここに。 他人の恐怖があるここに。何故だかわかるかね。」 「いえ…全くわかりません。 もし、そのような世界があって、ファーストがいたなら、彼にはこちらに戻って来る理由は無いと思います。」 アスカには本当に分からなかった。 「本当に分からないのかね。」 「はい…。」 「では、言おう。その天国には、アスカ君がいなかった。それが全てだよ。」 「う、嘘…。それじゃあ、彼は…。ま、まさか、そんなこと…。有り得ません。 私は、彼に酷いことばかり言ってきました。ですから、そんなことは…。」 「無いと言うのかね。 では、サードインパクト後、シンジ君が目覚めた時に、アスカ君が側に居た。 これをどう説明するのだね。」 「えっ!」 アスカにとって、それは初耳だった。 アスカには、サ−ドインパクト後の記憶は、病院から始まっているからだ。 「信じられないかもしれない。だが、事実だ。」 「で、でも…。」 「シンジ君は、天国からいわば地獄に戻ってきた。 戻った時に、アスカ君が側にいた。 そして、シンジ君は今もアスカ君の側にいようとしている。 分かるね。」 アスカは、自分が目覚めた時のシンジの顔を思い出した。シンジは涙を流して笑っていた。 「そのことは否定出来ませんが、 しかし、彼は私を家族のように思っているだけで、私を愛しているとまでは言えないと思いますが…。」 冬月は、アスカの言葉に苦笑した。二人揃って何て鈍いのだろうと頭を抱えた。 そして、色々な言葉を駆使して、アスカを説得にかかったが、アスカはなかなか納得しなかった。 そこで、冬月は、シンジから聞き出した言葉を伝えることにした。 「ここだけの話だが、私はシンジ君に、アスカ君を好きなら、はっきり伝えなさいと言ったんだよ。 そうしたら、シンジ君は何て言ったと思う。」 アスカは少し考えてから答えた。 「『誤解ですよ』とでも言ったんではないでしょうか。」 「いや、シンジ君は、 『僕はアスカに好きなんて言う資格なんか無いんです。』そう言って泣いたんだ。」 「えっ、な、何で…。」 「シンジ君は、アスカ君に酷いことばかりしてきたと思っているんだよ。 だから、嫌われていると思い込んでいるんだ。アスカ君と同じだよ。」 「そんな、馬鹿な。彼は、私に酷いことなんてしていません。」 「でも、シンジ君はそう思っているよ。実際、私にはそう言っていた。」 「そんな…。」 「シンジ君の思っていることは、誤解かね。」 「ええ、そうです。大きな誤解です。」 「では、アスカ君の思っていることも、誤解かもしれない。違うかね。」 「否定は…、出来ません。」 「アスカ君、この際だから、教えて欲しい。 シンジ君のことが好きかね。それとも嫌いかね。」 アスカは少し考えたが、ゆっくりと答えた。 「嫌いじゃありません。 ですが、好きと言い切れるかどうかは分かりません。 すごく気になる存在ではありますが。 でも、私は彼に本当に嫌われていないんでしょうか。 私は、言いにくいのですが、彼の優しさに甘えて、わがままばかり言って、彼を困らしてばかりいました。 自分のプライドを守るため、彼に八つ当たりをしたのも、一度や二度ではありません。 それなのに、彼は許してくれるのでしょうか。」 「それは私が保証しよう。アスカ君もそうだが、嫌いな人間と一緒に住みたいと思うかね。 嫌いな人間のために料理なんか作るかね。良く考えれば分かることだよ。 アスカ君が分からないということは、それだけ気持ちに余裕が無かったということかもしれないが。」 「そうですか。良かった。」 アスカはそう言うと胸をなで下ろした。 冬月はそれを了解と解釈し、言葉を続けた。 「分かってくれたかね。シンジ君にとって、アスカ君は特別なんだよ。 だからといって、アスカ君にシンジ君を愛するようにとは強制出来ない。 ただ、シンジ君の精神が安定するまで側に付いていて欲しいんだ。 そして、出来ることなら、少しでいいから優しくしてあげて欲しい。頼む。」 そう言うと、冬月は頭を下げた。 「副司令、そんな、やめてください。 私と彼は、血が繋がっていなくても家族です。 彼が否定しない限り、側にいます。 それに二人で約束したんです。 ミサトさんの帰りを待とうって。 ですから、頭を上げて下さい。」 そう言うと、アスカはにっこりと笑った。 冬月はその言葉を聞いて、顔に安堵の色が浮かんだ。 「アスカ君、勝手なお願いで申し訳ないが、本当に頼む。 彼は、本当につらい経験をした。 彼が経験したことは、君の言う『生き地獄』よりも、さらに過酷なものだったんだ。 それを分かってやって欲しい。」 「分かりました。でも、私は自分の意思で彼の側にいるつもりです。安心して下さい。」 「そうか。安心したよ。」 冬月はにこりと笑った。 次話に続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― キャラ設定:冬月 コウゾウ ネルフ副司令。1958年 8月15日生まれ。 大学助教授時代に碇ユイとめぐり合い、それが縁で碇ゲンドウと知り合う。 南極にセカンドインパクトの調査に出たとき、同行したゲンドウからユイと結婚したと知らされ驚く。 顔や態度にこそ出さないが、アスカやシンジのことを常に気にかけている。 written by red-x