新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第1部 婚約に至る道

(アスカ。いくらなんでもまずいよ。僕は狼になっちゃうかもしれないんだ。)


第5話 悪夢


(あれ、ここはどこだ。)

シンジは、暗闇の中で、一人立ちすくんでいた。

「僕は何でこんなところにいるの。」

しかし、シンジの問いかけに、誰も答えない。

遠くに、何か白い物が見えた。シンジはそれに向かって歩いて行った。


***


シンジは白い物に近づいていく。

「一体あれは何なんだ。」

まだ遠くて分からない。

「あれは何だ。何か嫌な予感がする。」

しかし、まだ見えない。シンジは走り出す。

「あれは一体何だ。何で胸騒ぎがするんだ。誰か答えてよ。」

しかし、答えは返って来ない。

シンジは何故か恐怖を覚えた。

「誰か教えて。あれは何だ。」

すると、急に視界が開けてきた。
白い顔をした量産型のEvaがニヤッと不気味に笑っていた。
その口には、ちぎれた内臓がくわえられていた。

「まさか!」

シンジは駆け寄った。

「まさか!まさか!まさか!」

シンジは叫んだ。

だが、白いEvaは飛び去って行った。
後には、肉塊が残されていた。
その肉塊の中に、シンジは、見慣れた物を発見した。

「嘘だ!」

シンジは力なく膝から崩れ落ちた。
シンジは肉塊の中にボロボロになった赤いプラグスーツを発見したのだ。

「アスカァ!」

シンジは叫んだ。
だが、誰も返事をしない。
シンジはしばし呆然としていたが、やがて、ゆっくりと動き始めた。
その目には、悲しみと憎しみと狂気が宿っていた。

「僕は、人を傷付けるのが嫌だった。」

シンジはゆっくりと右足を前に出した。

「だが、それじゃあいけないんだ。」

シンジは立ち上がった。

「戦わなければ、守れないものがある。」

シンジは顔をあげた。

「戦わなければ、いけない時がある。」

シンジは右手を握りしめた。

「僕は、もう何も失いたくないんだ。」

シンジは左手も握りしめた。

「許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!」

シンジは白い奴が飛び去った方向を睨み付けた。

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」


いつの間にかシンジは初号機に乗っていた。そして、目の前にはさっきの白い奴がいた。

「よくもアスカを!お前は絶対に許さない!絶対に!」

シンジの顔は怒りと狂気に満ちていく。

「殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」

シンジは一気に白い奴を引き裂いた。

と、その時だった。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

遠くで叫び声がした。


***


「はっ!ここはどこ。」

シンジは急に目が覚めた。どうやら自分の部屋らしいことに気付いた。

(良かった。あれは夢だったんだ。)

シンジはほっとした。だが、その時、再びシンジの耳を絶叫が襲った。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

アスカの声だ。
シンジは飛び起きて、アスカの部屋に飛び込んだ。
アスカは寝ていたが、酷くうなされているようだ。
そして、苦悶の表情を浮かべている。
シンジはアスカの側に寄って、アスカの様子をうかがった。
その時、再びアスカが叫んだ。

「シンジ!」

その声にシンジは驚いて動けなくなった。

「シンジ!」

アスカは飛び起きて、シンジに抱きつく。

「シンジ!シンジ!シンジ!シンジ!シンジ!」

アスカは、シンジを強く抱きしめた。

そこで、アスカの目が覚めた。
目が覚めても、アスカはシンジに抱きついていた。
目からは大粒の涙を流していた。

「アスカ、どうしたんだよ。落ち着いて。大丈夫だから。」
シンジは優しく言う。

「うわぁ〜ん。シンジ〜、怖かったよ〜。うわぁ〜ん。」

アスカは泣きじゃくる。

「アスカ、怖い夢を見たんだね。でも、もう大丈夫だよ。安心して。いいよ。」
シンジは、『精神的にかなり不安定になっている。』という冬月の言葉を思い出した。

「シンジのバカ!何でもっと早く来ないのよ!
怖かったんだから、本当に怖かったんだから。もっと早く来なさいよ!」

「アスカ、ごめんね。怖い夢を見たんだね。でも、もう大丈夫だよ。」
シンジの優しい声にアスカは徐々に落ち着きを取り戻した。

「あのね、白い奴が襲ってきたの。
アタシ逃げたんだけど、追いつかれて。
怖かった、本当に怖かったの。本当に、死ぬかと思った。」

「そうか、でも大丈夫だよ。奴らはもういない。心配しなくていいよ。」
シンジはそう言って微笑む。

だが、アスカはまだ震えている。

「ねえ、シンジ〜、お願いがあるの。」
アスカは少し震える声で言う。

「どうしたの、アスカ。」
シンジもアスカの様子が変なのに気付き、優しく聞く。

「怖いから、一緒に寝て欲しいの。」

「ええっ!」
シンジは固まってしまった。

「ねえ、お願い。本当に怖いの。何でも言うこと聞くから、お願い。」
アスカも必死である。怖い夢を見た後なので、不安でたまらないのだ。

だが、シンジは考え込んでしまった。
つい先程まで、アスカの裸を思い出してニヤニヤしていたのだから無理はない。
今一緒に寝ると、シンジの理性が保たれるかどうか、自信が無かったのだ。

ためらうシンジを見て、アスカは驚くべき行動に出た。

アスカはシンジを布団の中に引きずり込むと、ためらわずにタンクトップを脱ぎ捨て、
下着1枚の姿になり、シンジに抱きついたのだ。

「シンジ、お願い、見捨てないで。」
アスカは涙を流して懇願した。
こうなると、シンジは断れない。
アスカの頼みに従い、シンジは、アスカを抱きしめた。
シンジは上半身に何も身に付けていなかったため、心地よい温もりが感じられ、
それがより一層アスカの心を和ませた。
いつの間にか、アスカの目が閉じられていて、シンジの顔の近くにあった。
シンジは、アスカを優しく抱き、そっとキスをした。
シンジの背中に回されたアスカの腕にも力がこもった。

5分にもなろうかという長いキスの後、名残惜しそうに二人の口は糸を引いて離れた。
二人とも舌を絡めるキスは、初めてだった。
既にシンジの頭は真っ白である。
アスカの頭もとろけそうになっていた。

「シンジ、お願いだから、後ろから抱きしめて。」
アスカの求めに応じて、シンジはアスカの後ろから抱きしめる形をとる。

「シンジって、あったかい。いつまでもこうしていたいな。」
アスカはそう呟いた。そして何気なくシンジの右手を取り、自分の左胸に当てる。
シンジの手のぬくもりに安心するアスカ。
だが、納まらないのはシンジである。
シンジの理性による歯止めにも限界はあるのだ。

「でも、アスカ。僕も男だから、アスカに襲いかかるかもしれないよ。それでもいいの。」
シンジが尋ねたが、アスカは微笑みながらこう答えた。

「アタシ、シンジのこと信じてるわ。だから、大丈夫よ。」

「でも、僕だって男なんだよ。どうなるか、わからないじゃないか。」
(アスカ。いくらなんでもまずいよ。僕は狼になっちゃうかもしれないんだ。)

「大丈夫よ。シンジは優しいもの。そんなことしないわ。アタシ、信じてるから。」
そう言うと、安心したようにアスカはすやすやと眠ってしまった。既に寝息も立てている。

(一体、なんなんだよ〜!)
シンジは叫びたかった。
いきなりいい雰囲気になったかと思えば、同じくいきなりアスカは寝てしまったのだ。
かといって、先程のアスカの悲鳴を聞いたシンジには、アスカに襲いかかることは出来やしない。
ましてや、アスカはシンジのことを信じてると言ったのだ。
その期待を裏切りたくはなかった。
せっかく、今日はいい雰囲気になったのだから、今後もこの雰囲気を大切にしたかった。

(はああっ、僕は一体どうすりゃいいの。)
シンジの体の一部は熱を帯びていたが、シンジにはどうすることもできなかった。
今、左手はアスカの首の下を通しているため、動かしにくい。
はっきり言って、両手がふさがって、何も出来ない状態である。
アスカを起こす気ならともかく、せっかく、すやすや寝ているアスカを起こすような真似は、ためらわれたのだ。

(僕は、どうすりゃあ、いいんだよ〜。)
シンジの悲しい叫びが、心の中を木霊した。
ふと『無様ね。』と誰かが言ったような気がした。


次話に続く                
 
 
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