新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS


第6話 地獄を選びし者


(しまったあああああああああああああああああああああああ!)

 シンジは、一人頭を抱えていた。
実は、シンジは、一旦は眠りについたのだが、夜中に目を覚ましてしまったのだ。
そこで直ぐに眠れば良かったのだが、シンジの体の一部が熱くなり、
とうとう我慢の限界を超えてしまったのである。

その結果、シンジは、自分の煩悩を吐き出したのだが、シンジは、あろうことか、
アスカの下着を汚してしまったのである。

(まずい、これじゃあ、アスカに殺されるよ。)

 シンジは思い切り後悔したが、もう遅かった。

(はあ、しょうがない。
もう、どうにでもなれだ。明日は素直にアスカに謝ろう。
もしかしたら、許してくれるかもしれないし。
でも、多分駄目だろうな。)

 シンジはいきなり落ち込んでしまった。

(僕は、何てことをしてしまったんだ。
せっかく戻ってきたのに、アスカに嫌われてしまったら、何のために戻ってきたのか分からないよ。
いや、嫌われるならまだいい。
アスカが家を出るなんて言ったら、僕はどうすればいいの。)

だが、シンジは、以前のシンジとは少しだが違っていた。
今のシンジは、僅かでも希望を持つことができるのだ。
シンジは希望を持った。
アスカが気付かないかもしれないという希望を。
以前のシンジなら、希望を持つなど、考えられないのだが。

(気付かれてから謝ったとしても、許してくれないかもしれない。
でも、その時はその時だ。
今から恐れていてもしょうがないや。)

ともかく、シンジはアスカに言われるまで、黙っていることにした。
アスカに気付かれない、万に一つの可能性に賭けたのである。

(それに、僕は、天国を捨てて戻った来たんだ。
もう、僕には失う物は何も無い。
例え、アスカに嫌われても良い。アスカさえ生きていれば。
だから、嫌われることを恐れちゃいけないんだ。)

シンジは、自分の手を強く握りしめた。

(だから希望を持とう。
どんな僅かな希望でも、自分からあきらめたらおしまいだ。
心を強く持とう。あの時と同じ位強い心を。
僕は、アスカのためなら、地獄だって何だって、行くことが出来るんだ。
これ位のことで動揺するなんて、おかしいよ。)

シンジの心はいつの間にか落ち着きを取り戻していた。

こうして、シンジは、いつしかサードインパクトの時の夢を見ていた。


***


 いつの間にか、シンジの前にカヲルが立っていた。カヲルはシンジに言った。
「ここは、君にとって、天国なんだよ。それでも行くの。」

「ああ、僕は行く。」

「向こうは、君を傷付ける人が一杯いるよ。
それでもいいのかい。
君にとっては、地獄とも言うべき所だよ。
それでも行くのかい。」

「ああ、それでも行くよ。」

「君は、何故あえて地獄のような場所へ行くんだい。」

「僕は、行かなきゃならないから。」

「ここはは気持ちがいいよ。まさに天国だよ。君を傷付ける人はいないよ。」

「でも、ここにはアスカがいないんだ。」

「君は、天国よりもアスカ君を選ぶのかい。」

「そうだよ、カヲル君。僕は、アスカのことを心から愛している。
それに気付いたんだ。
だから、僕は『アスカのいない天国』よりも、『アスカのいる地獄』を選ぶ。
それが僕の本心だから。
僕は、そのことにやっと気付いたんだ。」

「向こうは苦しいよ。地獄よりも苦しいかもしれない。シンジ君に耐えられるのかい。」

「ああ、苦しいと思う。辛いと思う。でも、もう逃げちゃいけないんだ。
人に傷付けられるのはいやだけど、人を傷付けるのはもっと嫌だけど、逃げちゃいけないんだ。」

「君は本当に耐えられるのかい。」

「分からない。耐えられるかもしれない。耐えられないかもしれない。
でも、一つだけ、確かなことがある。
僕には、アスカが必要なんだ。
アスカさえいれば、僕はきっと何処でも、何にでも耐えられる気がする。
例え地獄でだって耐えてみせる。そう思うんだ。」

「アスカ君がそんなに好きなのかい。」

「そうだ。僕はアスカが大好きだ。」

「アスカ君に会うためなら、地獄でさえも行くのかい。」

「そうだよ。アスカに会うためなら、僕は地獄の果てまでも行ってやる!」

シンジが叫ぶと、カヲルはにっこり笑った。

「そうかい。シンジ君は、大切なものを見つけたんだね。良かった。僕は嬉しいよ。」
いつの間にかカヲルの姿は消えていた。

こうして、シンジの夢は終わった。


***


「ふぁあああ。」
翌朝、シンジは大きなあくびをしながら起きた。

「ああ、良く寝たな…。」

「アンタ、何でアタシの隣で寝ているのかしら。理由を聞きたいわね。」
おそろしく冷たい声がした。

「え、アスカ、おはよう。」
シンジからは、アスカの顔が見えないので、とりあえず無難な返事をした。

「シンジ、何でアタシと一緒に寝てんのよ。聞かせてもらおうじゃない。」

「覚えていないの。」
(ああっ、アスカったら、やっぱり忘れてるや。)

「覚えてない。」

「昨日の晩、僕が寝ていたら、アスカが急に悲鳴をあげたんだ。」
(でも、アノことには気付いていないみたいだ。)

「ほーっ、それで。」

「僕が近寄ったら、アスカが泣いてて、一緒に寝てくれって頼んだんだ。」
(ふう、良かった。安心した。)

「あっそ。それで。」

「『お願いだから、後ろから抱きしめて。』なんてアスカが言うから、言う通りにしたんだよ。」
(うまく切り抜けられるかもしれないな。)

「それで。」

「これで全部だけど。」
(ああ、嘘がばれませんように。)

「ふうん、アタシがそんな作り話を信じると思っているの。
正直に言えば、軽い罰で許してあげるかもしれないわよ。」

「ほ、本当だよ。アスカは本当に覚えてないの。」
(ここは、つっぱるしかないな。)

「記憶に無い。」

「そ、そんなあ…。」
(あれ。雲行きが怪しいぞ。)

「他に言う事はないのね。じゃあ、判決を言い渡すわよ。アンタ、死刑!」

「ええっ!そんなあ。」
(げっ。アスカったら、無茶苦茶だよ。)

「正直に言わなかったからよ。」

「そうか、信じてくれないんだね。いいよ、それなら。
でも、アスカがそこまで言うなら、僕にも考えがあるよ。」
(う〜ん、確かに正直じゃないけどね。)

「はん、なあに。言ってみなさいよ。」

「もう、いくら頼まれても、アスカとは寝ない。絶対だよ。それでいいね!」
(さあて、ここが勝負どころだ。)

「シンジ、アタシがそんなことで困るとでも思っているの。」

「思っているさ。
今晩もアスカは悪夢を見て、僕に助けを呼ぶよ。
でも、もう助けに行かないからね。全部アスカが悪いんだからね。」
(いいぞ。アスカったら、動揺しているぞ。)

アスカは、シンジにそこまで言われて考えこんだようだ。

「アタシ、本当に覚えていないのよ。
でも、少しだけアンタを信じてあげる。病院で看病してくれたしね。
だから、アタシが昨日のことを思い出すまでは、執行猶予にするわ。」

「え−っ、無罪じゃないの。」
(しめた!何とかなりそうだ。)

「どうしても無罪がいいなら、それでもいいけど、
そうすると、さっきからアタシの胸に触っているこの手は、言い訳の余地無く有罪よ。
それでもいいのね。」

「あっ!」
シンジは慌てて自分の手を引っ込めようとしたが、もう遅かった。
アスカにガッチリ手を掴まれてしまった。
したがって、シンジの両手は、アスカの胸に乗っかったままである。
シンジは自分の愚かさを悔やんだが、もう遅い。

「どうすんの!」
アスカが容赦なく言う。

「執行猶予でいいよ。」
シンジはアスカに力無く言った。

「じゃあ、アタシの言うことを何でも聞くのよ。聞かなかったら執行猶予は取り消し!」

「ええっ、そんなあ。」
(まあ、執行猶予でもいいか。)

「いいの、もう決まり!」

「とほほ。」
(落ち込んだ振りをすれば、追及されないだろう。)

「アタシに逆らうなんて、100万年早いのよ、シンジのくせに。」

「はあ…。アスカにはかなわないや。」
(アスカったら、結構単純だから、こう言えば大丈夫さ。)

「あれ、今何時。え、6時半。じゃあ、後30分したら起きるのよ。いいわね。」

「え、でも、このままでいいの。」
(え、僕の手はアスカの胸の上にあるんだよ。いいのかな。嬉しいけどね。)

「後30分よ。い・い・わ・ね!」

「うん、わかったよ。」
シンジの両手は、まだアスカの胸の上にあったが、シンジにとっては、とても嬉しいこと
だったので、逆らうのはやめた。

(やったあ〜。うまく切り抜けたぞ。
僕は賭けに勝ったんだ。
アスカが何か言ったら、執行猶予を理由にすればいいや。
でも、本当に助かった。良かった〜。)
シンジは安堵した。


***


結局、二人は7時まで、そのままの格好であった。
なお、起きた時にシンジが裸なのに気付いたアスカが、シンジを思い切り蹴りあげたのは言うまでもない。



次話に続く
 


written by red-x
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