新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第1部 婚約に至る道

第8話 恋人−その2−


「一緒に寝てくれたら、アタシ、シンジのこと…す、少しだけど、す、好きになってあげる。
そして、シンジが望むなら、シンジの恋人になってもいいわよ。」
アスカは、俯いたまま言った。

「えっ!」

シンジは驚愕した。
アスカが色仕掛けで来ること思っていたため、予想外のアスカの言葉に、シンジは直ぐには返事が出来なかった。

(ま、まさか、アスカは本気で言っているんじゃないだろうね。
そ、そんなはずないよ。
あのアスカが、こんなことを言うなんて、おかしいじゃないか。
僕のことを好きになるなんて、有り得ないよ。
でも、本気だったらどうしよう。
もし、今言ったことが、本当だったら!)

シンジは、あせった。
てっきり、アスカがシンジのことをからかっていると思い込んでいたが、どうも、そんな雰囲気ではなさそうだ。
それに、アスカは、確かにシンジの恋人になってもいいと言った。
これは、後で誤魔化しがきかないことだ。シンジの頭は混乱し、体の動きが止まってしまった。

傍目には黙り込んでいるように見えたのだろう。
そんなシンジを見かねたように、アスカは口を開いた。

「シンジ、やっぱりアタシのこと、嫌いなの?」
アスカは、悲しそうな目をしていた。瞳も潤んでいる。

(え、何でそうなるの。僕がアスカのことを嫌いになるはずがないじゃないか。
アスカは誤解しているよ。でも、まずいよ。もし、アスカが本気で言っていたら。
アスカの誤解を解かなきゃ、最悪の事態になっちゃうよ。
どうしよう。アスカが僕のことをからかっている可能性も、まだあるし。
一体、僕はどうしたらいいんだ。)

シンジは、何を言ったらいいのか迷い、様々な考えが浮かんでは消えていった。

そんなシンジを見て、アスカはため息をついた後に、こう言った。

「もういいわ。アタシ、シンジがアタシのこと好きかもしれないって思っていたの。
だから、わがままばかり言っていたの。
いつかシンジがアタシのこと好きだって言ってくれたら、
アタシ達は恋人同士になるのかなあなんて思ったりもしていたの。」
アスカは声を落としながらそう言うと、一筋の涙を流した。

(ア、アスカが涙を流すなんて!)

シンジの知る限り、アスカは泣くのが嫌いで、嘘泣きはもっと大嫌いだった。
アスカは、本気なのかもしれないと、シンジは思い始めた。

「でも、アタシ、思いっきり勘違いしてたのね。
アタシったら本当に馬鹿よね。
でも、もういいの。シンジの気持ちが分かったから。
シンジはいやいやアタシの相手をしているって分かったから。
アタシ、シンジよりも素敵な人を探すから。
だから、こんなこと、もう二度と言わないわ。
もう、二度と…。ううっ…。」
アスカは顔を手で覆い、嗚咽をもらした。

(アスカは、本気だったんだ!)

シンジは、そう思った瞬間に決断した。
もし、この機会を逃したら、アスカとの間に深い溝が出来るだろう。
そして、もう二度とこんな機会は無いかもしれない。
騙されても良い、アスカのことを信じてみようと。

「違う!」
シンジは唐突に、しかし、力強く言った。

「え…。」
その瞬間、アスカの顔が上がった。アスカの頬には、いく筋もの涙が流れていた。

(アスカは本当に泣いていた!やっぱり、本気だったんだ!)

シンジは、もう迷わなかった。

「違う!勘違いじゃない!
僕は、アスカのことが大好きだ。
だから、勘違いじゃない!」
シンジの声は震えていた。

「えっ、ホント。本当なの。
アタシみたいなわがままな女のことが本当に好きなの?
アタシのことが嫌いじゃないの。
アタシのことをからかっているんじゃないの。」
アスカは、不安げな顔をして聞いてきた。

「う、うん。本当だよ。信じてアスカ。僕は、アスカが大好きだ。」
シンジの顔は、真剣だった。

「じゃあ、アタシと一緒に寝てくれるのね?」
アスカの顔は、まだ不安そうだ。

「う、うん。でも、今朝みたいなことにはならないって約束してくれる。」
シンジは頷いたが、やはり、今朝のことは気になっている。

「も、もちろんよ。」
アスカは強く頷く。心なしか、アスカの顔が、少し明るくなったような気がした。

「アスカ。」

「な、なあに。」

「今言ったこと、本当なの。僕のこと、嫌いじゃないの。信じていいの。」
シンジは澄んだ目で、アスカのことを見つめた。
今までの経験から、やはり少し不安になったので、思わず聞いてしまっていた。

アスカは少し考えていたが、急に行動を起こした。

「アタシは、嫌いな人とは喋りたくないし、一緒に住まないし、そしてこんなことは絶対にしないわ。」

言うが早いか、アスカはシンジを抱きしめて、キスをした。

「!」

シンジは、最初は反射的に離れようとしたが、アスカが舌を絡めてきた時点で諦めた。

(ア、アスカからキスしてくるなんて。
昨日はアスカの頭が混乱していたから、ラッキーだと思っていたけど、今日は違う。
アスカは、自分の意思で僕にキスしているんだ。
だったらアスカの思いに応えなきゃ。
アスカ、やっぱり僕は、アスカのことが大好きだよ。)

シンジは意を決して、アスカの背中に手を回し、そのまま、熱い抱擁を続けた。

長いキスの後、ようやく二人は顔を離したが、二人の顔は真っ赤だった。
しばらく、二人は黙っていたが、アスカが沈黙を破った。

「シンジ。これで信じてくれた?」
アスカは、ほんのりと頬を染め、小首をかしげてシンジのことを見る。可愛い笑顔だ。

「う、うん。」
シンジの頬も紅くなっている。

(これで信じなきゃ、バカだよ。いくら僕でも、そこまでバカじゃないよ。)

「じゃあ、アタシに何か言うことあるんじゃない?」

「ア、アスカ、僕はアスカが大好きだ。だから、僕の、こ…恋人になって欲しい。」

(い、言っちゃったよ。
アスカ、どうか、舌を出さないで。
からかっているなんて言わないで。
嘘だなんて言わないで。
僕は、なけなしの勇気を振り絞ったんだから。)

シンジは、内心では大きな不安を抱えながら、恥ずかしそうに、しかし、いつになくはっきりと言った。
そして、その結果は直ぐにアスカの口からもたらされた。

「うん、いいわよシンジ。アタシ達今から恋人同士ね。これからも、優しくしてね。」
アスカも頬を真っ赤に染めた。

「う、うん。もちろんだよ、アスカ。」

(やった〜!嘘じゃないよね。アスカは確かに恋人になってくれるって言ったよね。)

シンジは感激した。苦節14年の彼女いない歴にして、初めて恋人が出来たのだ。
しかも相手は、人がうらやむような、とびっきりの美人であるアスカなのだ。

(嬉しい。夢みたいだ。
でも、ここでほっぺたをつねったら、思い切りアスカにバカにされそうだから、やめておこう。
でも、本当に夢みたいだ。)

シンジは、さすがにほっぺたをつねるのはやめた。
今の雰囲気がぶち壊しになることが間違いないからだ。
そんなとき、アスカは甘えた声で、こう言った。

「じゃあ、アタシ、シンジの恋人だから、今まで以上に甘えてもいいわよね。」

「う、うんいいよ。」

シンジは恥ずかしそうに応えた。
舞い上がっていたので気付かなかったが、アスカは密かに『今まで以上に甘える=今まで以上にこき使う』という図式を考えていた。
が、シンジは、アスカの企みまでは気付かないようだ。
やはり、アスカの方が2枚も3枚も上手である。
シンジは、アスカの嘘泣きにも気付かないのだから。
だが、シンジにとっては、一層こき使われることになっても、アスカに甘えられる方が良いだろう。

「シンジ、嬉しい。」
アスカは、まるで天使のような優しい笑顔を浮かべた。

実は、これがアスカの最終兵器なのだ。
毎日鏡の前で練習している、とびっきりの笑顔なのだ。
これで落ちない男は滅多にいないだろう。
普段のきつい顔のアスカとの落差が激しいため、シンジに対しては、一層効果があったようだ。
シンジはその笑顔を見て、メロメロになった。

「アスカ、綺麗だよ。アスカってこんなに可愛かったんだね。」

シンジは、アスカの顔に見とれてしまった。

「あ〜ら、シンジったら、アタシのこと、可愛いって思っていなかったの。」

「う〜ん、何て言ったらいいのかわからないけど、僕がアスカの事を好きになったのは、外見じゃないんだ。
アスカは他の人と違って、僕に構ってくれたし。
悪い所も教えてくれたし、ぐいぐい引っ張ってくれたし。
それに、アスカって凄く輝いて見えたんだ。
いつも明るくて、行動力があって、僕にないものを一杯持っていたんだ。
こんなんじゃ、理由にならないかな。」

「ううん、いいの。それだけ分かれば充分よ。」

「アスカ、大好きだよ。」
(これは、本当だよ。)

「うん、ありがとう。あたしも、まだ少しだけど、好きよ。」

「少しだけ?」
(えっ、そんな〜。)

「だから、さっき言ったでしょ。一緒に寝てくれれば、少しだけ好きになるって。」

「少しだけか。でも、今はそれで充分かな。」
(そうだよね。恋人になってくれるだけでも良しとしなきゃ。)

「シンジが優しくしてくれたら、もっと好きになるかもよ。シンジ次第よ。」
そう言って、アスカはもう一度にっこり笑った。

「うん、分かったよ。」
シンジも微笑んだ。

「とりあえず、今は夕食かな。ちょっとお腹空いちゃった。」

「あ、ごめん。もうこんな時間か。急いで夕食を作るね。」

「ねえ、シンジ。今日は、一緒にお風呂入ろうよ。」

「え〜っ。それはちょっと…。」

「やっぱりアタシのこと、好きじゃないんだ。」
アスカは落ち込むような仕草を見せた。

「ううん、そんなことないよ。わ、分かった。一緒に入ろう。」
シンジは慌てて言った。今更恥ずかしがってもしょうがないと思ったからだ。

「アタシの体を洗ってね。正直言って、昨日は自分で洗うのが辛かったの。
左手だけしかうまく動かなくて、アタシ、泣きたくなる位大変だったんだ。」
そう言うと、アスカは舌をペロリと出した。

「うん、分かったよ。じゃあ、ちょっと待っててね。」
(そうか。気付かなくて、ごめんね。)

そう言うとシンジはアスカを持ち上げて、リビングへ運んで行った。


 今日の夕食は、時間が無かったこともあり、チャーハンになった。
アスカは昨日と同じくシンジに食べるのを手伝ってもらった。
もちろん、昨日以上に甘えてである。
その結果、シンジの顔がにやけっぱなしだったのは言うまでもない。

アスカは、食べ終わると、シンジに『耳を貸して。』と頼んだ。
シンジは、不思議に思いながらも、アスカに耳を貸した。そうしたら…

「ちゅっ。」

シンジの頬で音がした。シンジが驚いてアスカを見ると、アスカは笑っていた。

「食べるのを手伝ってもらったお礼よ。」

「え、えええええ!」
(い、今のって、キスだよね。ど、どうして。)

「ごめん、嫌だった?」
アスカの顔が少し暗くなった。

「そ、そ、そ、そんなことないよっ。う、嬉しいよ。」
シンジは思い切り動揺した。

「シンジ、嬉しいの?良かった。またこれからもしてあげるね。
だって、アタシ達、恋人同士だもの。これ位は…ね。」
そう言って、アスカは少し頬を染める。

「う、うん。」
シンジは満面の笑みを浮かべる。シンジの心は、かなりハイになっていた。

「じゃあ、次はお風呂ね。よろしくね、シンジ。」

「う、うん。ちょっと待ってて。タオル持って来る。」

「ちょっと待った!今日は、小さいタオルはいらないからね。」

「ええっ!じゃあ、アスカは裸じゃないの。それってまずくない。」

「もう!どうせ最後には全部見るんだから、同じでしょ。
もう、勘弁してよね。アタシが風邪ひいちゃうじゃない。」

「あ、ご、ごめん。」

「分かればいいのよ。」

シンジは、アスカに促され、バスタオル用意して、戻ってきた。

「じゃあ、シンジ、よろしくね。」

「えっと、何をすればいいのかな。」

「はあ?アタシを裸にして、とっととお風呂に運ぶのよ。おわかり。」

「そ、そうだね。」
(あれ、いつものアスカに戻ったのかなあ。)

シンジは頭をひねりながらも頷くと、アスカの服を脱がして、お風呂に運んだ。


***


「ああ、いい湯だわ。やっぱり、お風呂はいいわね。ちょっと狭いけど。」

「ご、ごめんね。」

アスカの後ろでシンジが謝る。今は、湯船に二人で浸かっているのだ。

「シンジは悪くないわよ。アタシが一緒に入るよう頼んだんだもん。変なシンジ。」

「ははは。」
(でも、狭いって言われたら、謝るしかないじゃないか。)

「それよりも、マッサ−ジお願いね。シ・ン・ジ。」
そう言うと、アスカはシンジにもたれかかった。

「どこをマッサージすればいいの。」

「胸。」

「えええええええええええええええええええええっ。」
シンジは思わず大きな声を出す。

「冗談よ。左手をお願い。今日は使いすぎちゃったの。」
どうも、シンジはからかわれたようだ。

「そうだよね、じょ、冗談だよね。びっくりした。」
(何だ、冗談か。本気にするところだったよ。)

「シンジが望むなら、ホントにしてもいいわよ。」
アスカは甘えた声で言う。

「あ、あまり変な冗談を言わないでよ。」
(もう、アスカったら。そんなこと言うと、エッチな気持ちになっちゃうよ。)

「シンジがアタシの腕をちゃんとマッサ−ジしてくれたらね。その時のご褒美よ。」

「えっ。」
(まさか、本気かなあ。)

「ん、もう。いいから、左手。」

「う、うん。」
そう言うと、シンジは、アスカの左手を丁寧にマッサ−ジし始めた。

「あ、いいわね。気持ちいいわ。そう、そこそこ。」
アスカは心地良さそうな声を出した。

しばらくマッサージをしたシンジだったが、アスカの反応が無くなったのに気付いた。

「アスカ、返事してよ。」
シンジが呼んでもアスカは返事をしない。
シンジは、アスカがまたからかっていると思い、反撃することにした。

「返事が無いなら、ご褒美をもらうよ。」
シンジはそう言って、アスカの胸を揉みだした。
アスカの胸は柔らかくて、弾力性があって、とても揉み心地が良かった。
シンジはとっても幸せな気分になった。

「アスカ、起きてよ。起きないともっとエッチなことするよ。」

しかし、返事は無かった。アスカは、本当に眠ってしまったのだ。


次話に続く

 
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あとがき

 やっぱりシンジです。有利な立場になったかと思いきや、やはり最後にはアスカの思い
通りになってしまいます。でも、最後に良い思いをして、めでたし、めでたし。

written by red-x
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