新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS 第1部 婚約に至る道 シンジは考えた。 アスカは何を考えているのか。 どうすれば、アスカの心をつなぎ止められるのか。 そのためには、自分は何をすべきか。 シンジは自分なりの結論を見出すために思考する。 第9話 今は立ち止まって アスカがお風呂で寝てしまったので、シンジはアスカを起こそうと色々試してみたが、結局アスカは起きなかった。 そこで、シンジは止むなく、アスカを湯船から引っ張り出して、自分の膝の上に乗せ、アスカの体を拭くことにした。 まずアスカの右に位置し、左腕でアスカの頭を支えると、ゆっくりとアスカの体を拭いていった。 最初は背中から。次に肩、腕、胸、足先、太股の順番である。 太股まで拭き終わると、アスカの足を開き、さっと太股の内側を拭くと、バスタオルをアスカの体に掛け、アスカの体を持ち上げた。 そうして、アスカの部屋まで運んで行った。 シンジは、ベッドの上の先程敷いておいた新しいバスタオルの上にアスカをそっと置いた。 そして、もう一度体を丁寧に拭いていき、アスカの下着を出して、悪戦苦闘しながらも下着を着せた。 「ふ〜っ。」 シンジはやっと一息つくと、アスカの方を見た。 裸に下着を1枚付けただけの姿だった。 その姿を見て、シンジは思わず、アスカの上に覆い被さった。 そして、アスカが起きないようにと、自分の体重がかからないようにして、軽く抱きしめた。 暫く抱きしめた後、顔を上げて、アスカの顔を近くで見つめた。 良くみれば、見るほど可愛い寝顔だ。 「アスカって、こんなに可愛かったんだ。」 シンジは、思わずにっこりする。 普段はあまりアスカのことを見つめることが無いので、こんなにも可愛いとは、つい最近まで気付かなかったのだ。 シンジとて、普通の男の子だ。こんな美人が自分の恋人になって、嬉しくないはずがない。 「夢じゃあないよね。」 心配性のシンジは、ここに至っても、まだ不安なようだ。 「この唇が、僕の唇とくっついたんだよね。」 シンジは、アスカの形のいい唇をみつめる。 シンジは、アスカに軽くキスをした。 そして再びアスカを軽く抱きしめた。 アスカの温もりがシンジの心臓の鼓動を激しくさせる。 (どうしよう。このまま、アスカと…。いや、駄目だ。そんなことをしたら、嫌われるかもしれない。 今は、我慢しないと…。) シンジの心は激しく揺れた。 *** 1時間後、シンジは、今朝と同じ体勢になっていた。 アスカが好きな、後ろから包む形でアスカを抱きしめているのだ。 苦悩の結果、シンジは、アスカと最後の一線を超える選択はしなかった。 (僕らはまだ中学生だし、早すぎるよ。 それに、アスカは僕の恋人になってくれると言ってくれたんだし、僕のことを『信じてるから』とも言ってくれた。 それなのに、アスカを裏切るようなことはしちゃ駄目なんだ。 もっと、アスカと仲良くなって、アスカが僕のことを好きになってくれて、それからじゃなくちゃ。 確かに、アスカとそういうエッチなことはしたいけど、アスカに嫌われたりするのは、絶対に嫌だ。) シンジは、一瞬の快楽よりも、暖かな良い関係が続くことを選んだのだ。 それは、言うのはたやすいが、実行することは難しい。 例えるなら、14年間ずっと空腹でいたのに、急に目の前に現れたごちそうを我慢するようなものだ。 これには、アスカが恋人になったことが大きく関係していた。 ごちそうが、誰か他の人に食べられるかもしれないと思えば、急いで食べようとするのが普通であり、 いつかは食べられると思えば、がっつかないものだ。 しかも、シンジは好きなものは最後までとっておくタイプだったのだ。 イチゴのショートケーキのイチゴを最後に食べるのがシンジだった。 こうして、アスカの貞操は守られた。 だが、シンジはなかなか寝つけず、いつしか、アスカのことを考えていた。 (アスカは、まだ精神的に不安定なんだ。 僕と一緒に寝ないとあんな悪夢を見るなんて。 冬月さんがアスカの様子を見て欲しいって言っていたけど、聞いておいて良かった。 だけど、僕も悪夢を見るんだよね。 でも、アスカと一緒に寝ると大丈夫みたいだ。 これは、お互い様なのかな。 でも、アスカはいつまで悪夢に悩まされるんだろう。 早く治って欲しいけど、治ったら僕はお払い箱になるのかな。 でも、大丈夫だよね。 アスカが一緒に暮らそうって言ったのは、悪夢とは関係無いし。) そこでシンジはため息をついた。 (はああっ、今の僕って、いいとこ無いよね。 エヴァが無ければ、何もやること無いし。 それなのに、アスカは、マヤさんが驚くほど仕事が早いのに、僕はアスカがいなければ、何もやること無し。 何と言っても、アスカの体調が良くて、悪夢を見なかったら、どうなっていたんだろう。 きっと、アスカはネルフでバリバリ仕事をやっていたよね。 それに対して、僕は家で家事でもやっていたのかなあ。 これじゃあ、駄目だ。 アスカとの差が広がるばかりじゃないか。) シンジは頭を抱えた。 (このままじゃ駄目だ。 だけど、どうしていいのか分からない。 僕は一体どうしたらいいんだろう。 加持さんがいれば、何か言ってくれるかもしれないのに。 今のままの僕だと、アスカはいつか、離れてしまうかもしれない。 でも、待てよ。アスカは、一体僕のどこがいいんだろう。) シンジはしばらく考えていたが、これといったものは浮かばなかった。 (アスカは、今の僕でもいいのかな。 駄目な男に母性本能をくすぐられる女の人もいるっていうし、 だとしたら、無理に頑張っても、逆に嫌われちゃうかもしれない。 ああ、僕が鈍くなかったら、もうちょっと、何とかなったのに。一体僕はどうしたらいいの。) 結局、シンジはアスカの気持ちを分かっていないことを思い知らされた。 (アスカは、いつ精神的に立ち直るのかなあ。 あの悪夢はいつ見なくなるんだろう。 1週間かな、1か月かな、それとも…。その間は、アスカの世話が出来るけど、その後は…。 悔しいけど、どうしようもないね。 それより、アスカはいつまで一緒にいてくれるのかなあ。 治った後、アスカに逃げられたら最悪だね。 どんなことをしてもアスカの心を捕まえておかないと。 しばらくは、アスカの機嫌を取らないといけないね。 ああ、嫌だ。 アスカと離れるなんて、絶対に嫌だ。) シンジは厳しい顔をしたが、一瞬、良い考えが浮かんだ。 (そうだ!アスカをネルフから離れないようにすればいいんだ。 アスカの能力は折り紙付きだし、ネルフもアスカのことを必要としているし。 何と言っても、アスカのプライドが保たれるから、アスカの機嫌も良くなるだろうし。 ネルフのことなら、僕も手伝えることがあるはずだ。 マヤさんや日向さんに頼めば、アスカの手伝いをさせてもらえるかもしれない。 アスカと一緒に仕事をすれば、仲良くなれる機会も増えるし、僕自身も仕事を覚えれば、一石二鳥じゃないか。 僕は、今まで、何て後ろ向きに考えていたんだろう。 それじゃ駄目だ。前向きに考えないと。 それに、ネルフにいれば、アスカが同年代の他の男と知り合う機会も減るじゃないか。) シンジは、やっと安堵した。 (でも、それでいいのかな。 それに、アスカは僕のことを一体どう思っているんだろう。 もう一度冷静になって考えようかな。) シンジは、頭を切り換えて、アスカとの関係について、もう一度整理することにした。 (僕は、日中は全部アスカの手伝いをして、食事も全部作ってる。 お風呂もアスカと一緒で、着替えとかも全部僕がやっている。 しかも、夜は一緒に寝ているし。 う〜ん、これじゃあ、どう考えても恋人以上だなあ。 普通はここまでしないよね。 僕達は、いつの間にか、恋人みたいな、いや、それ以上の関係になっていたんだね。) シンジは苦笑した。これでは、アスカと恋人になっても、状況に大して変化はない。 (トウジによく夫婦ゲンカってからかわれたけど、そうだったのか。 冷静に振り返ると、僕とアスカは、周りから見ると、仲が良かったんだね。 僕は鈍いから、気付かなかったけど、アスカもそうだったのかなあ。) シンジは出会った頃からのシンジを思い出していた。 (アスカは、最初からわがままだった。 でも、僕はマグマの中に飛び込んで、アスカを助けてあげた。 毎日、おいしい食事を作ってあげた。 お弁当もいつも作ってあげた。 家事全般を殆どやってあげた。 こき使われてもあんまり文句を言わなかった。 わがままを言っても聞いてあげた。 アスカが何を言っても笑って許してあげた。 当たり散らしても受け止めてあげた。 何も悪くないのにアスカが怒ると謝ってあげた。 それに…アスカのために、僕とって地獄とも言うべき所に戻って来た…。) シンジは、いつしか苦笑していた。 (アスカは僕に対して、感謝してくれているのかなあ。 アスカは僕に酷いことばかりしてきた。 機嫌が良いときはこき使われた。 嫌がる僕をあちこちに引き回した。 つまらないことがあると僕に文句を言った。 嫌なことがあるといつも僕に当たり散らした。 気に入らないことがあると僕に怒った。 僕が困っても助けてくれなかった。 悪いことはみんな僕のせいにしていた。 シンクロ率で抜いた時も八つ当たりした。 僕は何も悪いことしていないのに。 アスカったら、何て酷いことばかりするんだろう。 それなのに何で僕はアスカのことが好きなんだろう。 何でアスカに優しくするんだろう。 何で、何で、何で…。 こんなアスカのことを好きになるなんて…。) シンジの目にはいつしか決意の色が浮かんでいた。 (でも確かなことがある。 僕は、アスカの外見に惚れたんじゃない。 僕は、アスカの体目当てじゃない。 アスカの良い所悪い所まとめて好きなんだ。 今まで誰も構ってくれなかった。 今まで誰も励ましてくれなかった。 今まで誰も怒ってくれなかった。 今まで誰も心配してくれなかった。 今まで誰も引っ張ってくれなかった。 でも… アスカは僕に構ってくれた。 アスカは僕を励ましてくれた。 アスカは僕を怒ってくれた。 アスカは僕を心配してくれた。 アスカは僕を引っ張ってくれた。 アスカだけが僕を変えようとしてくれた。 でも、アスカは僕に好かれて嬉しいの? アスカは僕のことが好きなの? 嫌いじゃないのは確かなようだけど。 分からない…。 アスカの気持ちが分からない…。 でも、これだけは言える。 今はアスカが必要。 アスカがいると心が安らぐ。 アスカがいないと不安が襲う。 アスカがいると笑顔が浮かぶ。 アスカがいないと笑顔が消える。 だけど、これ以上余計なことを考えるのはよそう。 今、大事なのは、アスカの側にいること。 アスカに笑顔を見せること。 アスカが笑顔を浮かべること。 今はそれが全て…。) シンジは、ため息をついた。 (やっぱり、考えすぎるのはだめだ。 不安ばかりが先に立つ。 深く考えるのはやめよう。 僕は自分の気持ちに素直になればいいんだ。 無理をする必要はない。 当分の間は、アスカと恋人でいて、その間にアスカの気持ちを理解しよう。 アスカが僕のことを好きになるのか、他の人を好きになるのか、まだ分からないけど、 やるだけやってみるしかないのだから。) そこで、シンジは『アスカ君には、精神的支えが必要だ。例えば、恋人がいるといいかもしれない。』 という冬月の言葉を思い出した。 (アスカは辛い思いをしてきたみたいだから、僕が一所懸命支えよう。 それ位は僕にも出来るはずだ。 冬月さんの言うことが本当なら、僕が支えれば、アスカの心は癒されるはずだ。 アスカのために、頑張るんだ。 アスカのことを大好きな僕なら出来るはずだ。) シンジは、アスカの笑顔を思い出した。 (今はそれでいい。 アスカの精神が立ち直るまで、僕は精一杯、アスカを支えていこう。 その上で、アスカに自分の気持ちを伝えていこう。 今はゆっくり考える時期だ。 今すぐ結論を出さなくてもいい。 時には立ち止まるのも必要だから。 急ぐ必要はないのだから。) 自分の気持ちに整理をつけたら、シンジの心は軽くなった。 いつしか、シンジは、寝息を立てていた。 次話に続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき 偉いのか、臆病なのか、シンジはアスカにエッチなことをやり放題だった絶好の機会を、 みすみす逃します。超ドスケベなシンジにとっては、苦渋の選択だったでしょう。でも、 後にそれが報われる日が来ます。もし、この時シンジが野獣になっていたら、アスカとは 離ればなれになっていたかもしれません。 written by red-x