新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第1部 婚約に至る道

第19話補完 謎


加持とミサトが、揃ってゲンドウの所にあいさつをしに行ったとき、加持はミサトと婚約したことを報告した。

「…そうか。」

ゲンドウは、無愛想に応えたが、冬月は違った。

「そうか、おめでとう。良かった、良かった。」

そう言って、二人の肩を叩き、祝福した。
ミサトはもちろんのこと、加持までもが、感激のあまり、涙を流した。


あいさつが終わった後、二人はそれぞれの執務室に戻ったが、加持だけが呼び戻された。

「どうして、急に戻ってきたのだね。」

加持は冬月に聞かれ、自分の身に起きたことを全て話すことにした。


***


加持は、追い詰められて、拳銃に手をかけようとしたが、無駄だった。
ジャッジマンの、神業とも言える早撃ちによって、加持の拳銃は弾かれてしまった。
加持は丸腰になった。

「昔のよしみだ。遺言があれば、聞いてやる。」

加持は、万策尽きたことが分かったため、覚悟を決めた。

「…ある女性に、伝言して欲しい。」
加持は絞り出すように言った。

「ほう、何だ。」
ジャッジマンは、真剣な表情になっている。

「心から愛していた。すまない。そう伝えて欲しい。」

「ほう、お前にもそんな女がいたのか。で、その女は誰だ。」

「…葛城ミサト。ネルフの作戦部長だ。」
そう言うと、加持は死を覚悟して目を閉じた。

だが、しばらくの間静寂が辺りを支配した。
そして、ふいにジャッジマンが口を開いた。

「悪いが、お前の遺言は、彼女には伝えられそうにない。」

「どういうことだ。」

「彼女は今、危篤らしい。もって1日だそうだ。だから、俺では間に合わん。」

加持はそれを聞くと、がっくりと肩を落した。だが、ジャッジマンは続けて言った。

「俺も、鬼ではない。お前に選ばせてやろう。」

「なにっ。」
加持は、目を開いた。

「二つに一つだ。一つは、この場で俺に撃たれて死ぬ事。
もう一つは、お前の口から彼女に遺言を伝える事。どっちが良い。
運が良ければ、彼女の死に目に間に合うだろう。」

「お前が無条件でそんなことを言うのか。」
加持は、ジャッジマンを睨んだ。

「もちろん、条件はあるさ。
お前が結婚式やら婚約披露パーティーやらを開く時は、俺を招待する事。
これが絶対条件だ。」

「貴様、何を考えている。」

「それは言えないさ。俺はどちらでもいいが、どうする?」

「決まっているさ。彼女に会いたい。例え、どんな事があろうとも。」

「そうか、懸命な判断だ。生命を粗末にするもんじゃない。
じゃあ、一時休戦だ。
きっかり24時間後には彼女の所に送り届けるよう、手配しよう。
付いて来い。」

ジャッジマンは、そう言うと、背中を向けて歩きだした。

こうして、加持はミサトと再会することになったのである。


***


「これが、私が戻ってきた理由の全てです。」

加持が全てを話終わると、ゲンドウも冬月も、頭を抱え込んだ。
どう考えても、敵の目的が読めないのだ。

「加持君。
その、ジャッジマンという男は、君がネルフに所属していることを知らなかったのかね。」

「そんなことはないでしょう。
ただ、どちらかというと、ゼーレの手先だと思っていたかもしれません。
おそらく、そうでしょう。」

「そうなると、その男は敵ではないかもしれないな。」

すると、それまで黙っていたゲンドウが口を開いた。

「その男は、どこまで一緒だった?」

「病院の入口付近まで、一緒に付いてきました。それが何か。」

「最近、奇妙な事が多い。
この第3新東京市への潜入を図る工作員が、何故か妨害に遭っているらしいのだ。」

「だが、私は妨害に遭っていませんが。」
加持は、肩をすくめた。

「碇、まさか…。」

「ジャッジマンとその仲間が妨害しているっていうことですかい。」
加持が冬月の言い損なった言葉をつなぐ。

「そうとしか、考えられない。」

「だが、碇よ。誰が、何の目的でそんなことをする。」

「分からん。だが、我々にとって、悪い事ではない。
今、他国の組織に潜入されるのは、我々にとって、得策ではない。
しかも、我々に防ぐ手段は少ない。」

「まあ、我々にとっては、渡りに舟ってとこですね。」

「もう一つ、加持君に聞きたいことがある。アスカ君のことなんだが。」
冬月は、アスカの話題を持ち出した。
アスカと付き合いの長い加持の意見を聞きたいからだ。

「アスカが何か。」

「実は、彼女の行動に、不審な点があってね。
スパイではないかとの疑いがあるのだよ。
今、彼女には、ドイツから帰還指令が出ていると伝えてある。
もし、素直に帰るなら、彼女がスパイではないかと疑っているのだよ。」

そうして、冬月は、アスカの不審な点について、全て加持に語った。
加持は、しばらく考えた後、ゆっくりと答えた。

「アスカは、帰りませんよ。それに、スパイでもないでしょう。」

「ほう、何故かね。」

「アスカは、私の知らない所で、かなり酷い目に遭っていたようです。
ドイツを離れるときも『もう、二度と戻るもんか。』って寝言でも言っていた位ですよ。」

「本当かね。」

「それに、アスカは、私がガードしているとき以外は、常にドイツ支部の支配下にありました。
ですから、ドイツ支部のスパイ以外は、有り得ませんよ。
ですが、ドイツ支部のスパイかどうかについては、言わずもがなでしょう。
アスカは、あいつらの言うことは、絶対に聞きませんよ。
私に言わせりゃ、シンジ君の方が、よっぽど可能性がありますよ。」

「そうかね。」

「ただ、これからは違います。
もしかしたら、誰かに騙されてということも考えられなくもないでしょう。
今後は、十分気を付けた方がいいでしょうね。」

「そうか。ならば、アスカ君の監視を強化しよう。」
冬月は、加持の言葉を聞いて心が軽くなった。

だが、加持は反対に、アスカに対しての疑いを強めていた。
ジャッジマンの反応が早すぎるのだ。
これは、ネルフ内に内通者がいることを意味する。
しかも、加持とミサトの仲を知っていて、加持又はミサトに好意を持っている人間である可能性が高い。
該当するのは、アスカとシンジ位しか思い浮かばない。

加持の頭の中では、(1) シンジ単独,(2)シンジとアスカ共同、二つの可能性が浮かんだ。
アスカが加持を慕っているのは間違いないが、それはシンジも同じである。
一方で、加持とミサトの仲を知っていて、二人の仲を取り持つなんて、
シンジならやりそうだが、アスカがそんなことをするなんて考えられないのだ。

しかも今日見た限りでは、アスカは文化祭に向けて、かなり張り切っている。
新型兵器のパイロットの勧誘にせよ、周りの者を抱き込みつつあるのだ。
これは、いつ抜けても良いようにというスパイの手口ではない。

だが、一方で、アスカが開発者コードの件で、嘘を言っている可能性は高い。
その線からゲンドウに反発したシンジが、アスカを抱き込んだという図式が成り立つ。
ゲンドウも冬月も、シンジのことは、全く疑っていないようだが、
シンジの方が、アスカよりは、よっぽど他国の組織が接触する機会が多く、怪しいことこのうえない。

だが、加持の直感は、シンジが単なる気の弱い男の子だと告げていた。
スパイなんて、大それたことをするような子供とは考えられなかった。

だが、もっと分からないのが、ジャッジマン達の考えである。
加持を助けて、何のメリットがあるのか。
アスカとシンジがスパイだったとしても、それが加持を助ける理由にはならない。
何か別の理由がある筈なのだ。

幾ら考えても、加持には分からなかった。
まさかあのアスカが、謎の組織と対等に渡り合っているなどとは、大人達の想像を遥かに超えていたのだ。
加持は、幾ら考えても結論が出ないため、考えること自体が嫌になってしまった。

「ふう、嫌ですね。子供達を疑うなんて。」

加持の独り言に、冬月がしきりに頷いていた。

なお、加持は部屋を出るときに、一尉への昇進と諜報部部長代行を命じられた。



次話に続く
 
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キャラ設定:加持リョウジ

ネルフ諜報部所属。階級は一尉。1985年6月17日生まれ。
隠密行動をとっていたが、アスカに謀られ急遽ネルフに戻り、ミサトにプロポーズすることになる。
戻った後は、諜報部部長代行となる。
アスカとシンジの良き理解者であり、アスカとシンジから慕われている。

written by red-x
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