新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ

第1部 婚約に至る道

第20話 仮初めの婚約


アスカは、シンジがトウジにプロポーズのことを話したことを知り、猛烈に怒っていた。

「ねえ、アスカ。機嫌直してよ。お願いだよ。」

シンジは、泣きそうな顔をしてアスカに懇願した。
だが、アスカは冷たく首を振った。

「ねえ、アスカ。ごめんよ。何でも言う事聞くから。お願いだよ。」

シンジの顔は、蒼白になっていた。

そんなシンジを見て、アスカは険しい顔つきで言った。

「何でも言う事聞くの?」

「う、うん。」

「じゃあ、こうしなさい。」

アスカは、シンジの耳元で何かを囁いた。すると、シンジの耳は真っ赤になった。

「そ、そんなこと、出来ないよ。」

「シンジはさっき、何でも言う事聞くって言ったのに、嘘だったのね。
もう、二度とシンジから指輪なんて受け取らないわ。」

「う、嘘じゃないよ。わ、分かったよ。」

シンジは観念したように、携帯電話を取り出して、電話をかけた。

「あ、トウジ。残念ながら、駄目だったよ。ちょっと早すぎたみたいだ。
アスカに結婚してくれっていきなり言ったら、バチーンと一発食らっておしまいだったよ。
だから、今日は残念会になっちゃったよ。」

シンジは、とっても悲しそうな声で言った。


***


家に帰ると、皆がパーティーの準備をしていた。

「えっ、なあに、どうしたの。」
アスカは驚いた。
シンジのプロポーズを断ったので、パ−ティーがあるなんて思ってもいなかったのだ。
だが、ヒカリがやって来てにこりと笑って言った。

「加持さんが来るのよ。だから、みんなでお祝いするの。」

「えーっ、ホント。良いわね、お祝いしましょ。」

アスカもにっこりと笑った。そんなアスカを見て、ヒカリはおそるおそる聞いてきた。

「ねえ、アスカ。碇君のプロポーズを断ったって本当なの。」

「えっ。何で知ってんのよ。まあ、いいけど、そういうことよ。」

「何で断ったのよ。アスカは、最近素直になってきたと思っていたのに。
ちょっと意外だったわ。」

「じゃあ聞くけど、今、鈴原にいきなりプロポーズされたら、ヒカリはウンって言うの?
それが素直って言えるの?良く考えなさいよ。」

「うっ…。確かにアスカの言う通りかもね。私はまだ早いって思うもの。」

「でしょ。別に嫌いだから断ったんじゃないのよ。シンジもそれ位は分かっているわよ。」

「じゃあ、碇君も心配する必要は無いわね。」

「ええ。アタシとシンジは、恋人同士っていうのは変わらないし。
ただ、結婚なんていうのを考えるのは、まだ早いのよね。」
そう言うと、アスカはウインクしてみせた。

「そうね、アスカの言う通りだわ。」

ヒカリは、ほっとしたような顔をした。

そんなことを話しているうちに、ミサトと加持がやって来た。

「よう、アスカ、シンジ君。これで、俺も年貢の納め時だよ。」
笑顔の加持がいた。

「婚約おめでとう。」
「婚約おめでとう。」
「婚約おめでとう。」

皆で二人を祝福し、飲めや歌えやの大宴会となった。


***


夜12時を過ぎると、皆は次々と眠り始めた。
シンジは、またもや皆に毛布をかけていった。
だが、ケンスケの所に行くと、小声で囁いた。

「ケンスケ、お願いがあるんだけど…。」



シンジは全員に毛布をかけると、アスカに声をかけた。

「アスカ、ちょっと涼もうよ。」

アスカは頷くと、シンジと二人でバルコニーに出た。
そして、しばしの沈黙の後、静かにシンジが語りかけた。

「ねえ、アスカ。星は何で輝くと思う。」

「まあ、シンジったら、そんなことを言うために、アタシを連れ出したの。」
アスカは、にっこり微笑む。

「うん、そうだよアスカ。
僕は星を見ると、いつも何故星が輝くのか、疑問に思うんだ。
それで、アスカがどう思うのか、聞きたいんだ。」

「燃えているからかしら。燃えると言っても、核融合ね。」
アスカは首を傾げる。

「そうだよね。燃えているんだよね。
僕は思うんだ。
星は、燃えているから綺麗なんだって。
人も同じじゃないかな。
頑張って、燃えている人は、輝いて綺麗なんだよ。
いつか言ったかもしれないけど、僕は小さな頃から星が好きだった。
その理由が、やっと分かった
んだよ。」

「シンジは、星が好きだったの。」

「うん。僕は最近、やっと星が好きな理由に気付いたんだ。
でも、もう一つ気付いたことがあるんだ。
星と同じように、輝いている人が好きなんだって。
だから、僕はアスカのことが好きになったんだって。」

「な、なに言ってるのよ、急に。恥ずかしいじゃない。」
アスカの顔は、真っ赤になった。

「急にこんなことを言って驚くかもしれないけど、
僕はアスカと会わなければ、何も努力しないで、輝きを失うところだったと思うんだ。
でも、僕はアスカと出会って、輝きたいと思うようになった。
でも、情けないけど、アスカがいなきゃ駄目なんだ。
アスカが側に居ないと、僕はどうやって輝いたらいいのか、分からなくなるんだ。
僕には、アスカが必要なんだ。」

「シンジ…。」

「アスカ。僕は、アスカにドイツに行って欲しくない。
僕は、アスカのことが大好きなんだ。
僕は、アスカのために輝きたい。
だから、僕の側に居て欲しい。
アスカ。結婚して欲しい。」

「それは、さっき断ったでしょ。アタシ達にはまだ早いって。」

「もちろん、今すぐというのは、無理だって分かっている。
だから、今は何も言わずに、この指輪を受け取って欲しい。」

シンジは、いつの間にかダイヤの指輪を手にしていた。

「アスカ。頼む。これを受け取って欲しい。」

「駄目よ。受け取れないわ。」
アスカは、首を横に振る。

「アスカ。お願いだ。受け取って欲しい。好きなんだ。」

「ううん、アタシは、シンジの気持ちを受ける資格がないの。
アタシは、気が強いし、家事も出来ない女なの。
だから、シンジの気持ちは受けられないのよ。」

「それでもいい。正直に言ってくれてありがとう。
僕はそんなアスカが好きになっちゃったんだ。
だから、お願いだよ。受け取って。」

「アタシは、冷たい女なの。それでもいいの。」

「それでもいいよ。」

「アタシは、気が強くて、生意気な女なのよ。」

「それでもいいよ。」

「アタシは、シンジのことを好きじゃないかも知れないのよ。」

「それでもいいよ。」

「何で、何で…。何でシンジはそんなに優しいの。」

「決まっているじゃないか。アスカのことを…心から愛しているからだよ。」

「シンジ、本当にアタシでいいの…。
分かったわ。そこまで言うのなら、シンジの気持ちを受けることにするわ。」

そう言うと、アスカは少し俯きながら左手を差し出した。
その薬指に、シンジはゆっくりと指輪をはめた。

「アスカ、愛してる…。」
シンジの顔が、アスカに近づいていく。

「シンジ…。」
アスカは目を閉じた。



二人のキスが終わろうとした頃、不意に加持の声がした。

「よう、アスカ、シンジ君。婚約おめでとう。これで、俺達はお仲間だな。」
笑顔の加持がいた。

「婚約おめでとう。」
「婚約おめでとう。」
「婚約おめでとう。」

皆が、次々と祝福する。
ケンスケは、さきほどシンジに頼まれたたため、ビデオカメラを構えている。
もちろん、この告白のことは、ケンスケが皆に伝えたのだ。
だが、アスカは、わなわなと震えだした。

「シンジ、一体これはなあに。」
シンジを思い切り睨む。

「ア、アスカ。怒らないでよ。」

(えっ、アスカったら、何で怒るんだよ。)

シンジはうろたえた。

「だから、なあにって聞いてるんだけど。」
アスカは、思いっきり不機嫌そうな顔をする。

「ごめんよ。つい、ケンスケに告白することを喋っちゃったんだ。」
実際は、ビデオに撮るようにとも頼んだのだが。

「ふ〜ん、覚悟は良いわね。」
アスカの目がキラリと光った様な気がした。

それを聞いた皆は、アスカの次の行動を予測していた。

トウジ曰く、
(このバカシンジって言うて、シンジのこと、どつくやろうな。
シンジの奴も可哀相に。
シンジは、あの凶暴女の一体何処がええんやろ。
全く、シンジも分からんやっちゃな。)

ヒカリ曰く、
(まずいわ。アスカは怒っているわ。何かしでかしそう。ドキドキ。)

ケンスケ曰く、
(惣流は、怒っているぞ。シンジは、ただじゃ済まないな。
婚約した夜に、婚約破棄したりして。
惣流なら、十分あり得るな。わくわく。)

加持曰く、
(さ〜て、アスカはどう出るかな。
物凄く怒っていそうだけど。血を見るかな。)

ミサト及びリツコ
「?」

ユキ曰く、
(惣流さん、声も出ないほど、喜んでいるのかしら。良いわねえ〜。)

だが、アスカは誰もが予想しなかった行動に出た。

「良くもアタシに恥をかかしてくれたわね。覚悟はいいわねっ。」

「う、うんっ。」

(ううっ、何を、どう、覚悟するんだよ〜っ。)

シンジは、自分の顔に冷や汗が流れるのがはっきりと分かった。

「今から言う事を誓うのよっ。一つ、碇シンジは、アスカの言う事は何でも聞きます」

「碇シンジは、アスカの言う事は何でも聞きます。」

(げっ、まずいっ。でも、どうしようもないよ〜っ。)

シンジは、反射的に答えてしまった。

「二つ、碇シンジは、浮気をしません。」

「碇シンジは、浮気をしません。」

(あっ、また言っちゃった。)

「三つ、碇シンジは、アスカのものです。」

「碇シンジは、アスカのものです。」

(ええいっ、もうやけだっ!)

「よろしい。では、許してあげる。」

アスカは、そう言うなり、シンジにキスをした。
これにはシンジはもとより、他のみんなも驚いてあっけに取られていた。
唯一の例外は、ビデオカメラを回していたケンスケ位なものだろう。
だが、沈黙は長くは続かなかった。
祝福の声と拍手が二人を包んだ。
アスカもシンジも真っ赤だった。

拍手の後は、皆が二人をからかったが、アスカは開き直った。

「ふ〜んだ。羨ましいでしょ。悔しかったら、真似してご覧なさいよ。」
ニヤニヤしながら、シンジと腕を組んで、からかうトウジを挑発したのだ。
これには、さすがのトウジも沈黙を余儀なくされた。

今までのアスカだったら、照れて、
『こんな奴好きじゃないわよっ!可哀相だからウンって言ったのよっ!』
なんてことを言った筈だが、照れるのを通り越して開き直ってしまったようだ。

加持も、そんな様子を見て、アスカに感嘆していた。
少し前のアスカなら、過剰に反応していたに違いないのに、今は余裕をもってかわしている。
加持の予想に反して、シンジを責めたりしなかった。

(アスカも成長していたんだな…。それとも、本当にシンジ君に惚れたか。)
加持は、父親のような目でアスカをみつめていた。
だが、それも長くは続かなかった。
ミサトがアスカをからかったため、
『ミサトは、指輪も買ってもらえないの。可哀相ね〜。
アタシのシンジに頼んで、買ってあげようかしら。』などと反撃されたのだ。

「かじ〜っ。私も指輪欲しいよ〜。アスカのより、大きいのがいいよ〜。」
酔ったミサトが絡んできたため、あまり蓄えの無い加持は、青ざめることになった。

こうして、その日の夜、皆はミサト達とアスカ達を肴に、再び騒ぎまくった。


***


皆が寝静まった頃、シンジとアスカは、バルコニーで酔いを覚ますために、涼んでいた。
そこで、アスカはニンマリとしていた。
実は、バルコニーでシンジに告白させたのは、アスカの考えだったのだ。
アスカは、皆の前で告白させることによって、シンジに罰を与えたのだ。

シンジは、バルコニーで公園でのプロポーズを再現することを強要された。
但し、アスカはシンジにそっと耳打ちして、アスカがさっきと違うことを言っても慌てないように、
そして、仮初めという部分は言わないようにと言い含めた。
そして、公園でのシーンが、ほぼ再現されたのだった。

しかも、ケンスケにビデオカメラを回させるように仕向けてある。
そのうえで、シンジに3つの誓いを立てさせることに成功したのだ。
シンジの完全敗北?いや、アスカの完全勝利である。

アスカは、今日ケンスケが撮った映像を文化祭の映画に使うつもりなのだ。
真実の記録として。そうすれば、シンジに変な虫が寄って来ないと考えたのだ。
もちろん、シンジはそんなことになるとは思いも寄らない。

第三者から見ると、仮の婚約と言いながら、婚約者を縛るのだ。
好きかどうか分からないシンジを独占するというのは、誰がどう考えても、
アスカのわがままなのだが、こういう所は、サードインパクトの後でも変わっていない。

だが、シンジも悪いことばかりではない。
アスカが婚約者となれば、アスカに近づく悪い虫を堂々と払いのけることが出来るのだ。
しかも、以前よりもさらに親密な仲になるチャンスが増えるのは間違いない。
例えば、二人だけで旅行なんてことも可能になるし、二人だけで暮らすことも不可能ではないだろう。

他人の前でも、前よりは堂々とイチャイチャ出来るだろうし、アスカが拒むことも少なくなるだろう。
少なくとも、堂々と手をつなぐことが出来るようになるだろうし、
もしかしたら、人前で堂々とキス出来る様になるかもしれないのだ。

(恥ずかしかったけど、アスカともっと親密になれるチャンスなんだ。
だから、良いことなんだ、そうい思わなきゃ。)

シンジは、さきほどまで落ち込んでいたが、ようやく復活した。
もっとも、アスカはこのことに全く気付いていないようたが。


さて、しばらく二人は黙っていたが、アスカが口を開いた。

「アタシ達、婚約したんだね。何か、信じられないわね。」

「そんなことないよ。だけど、僕らにとっては、これが第一歩なんだ。」
(そうだね、結婚するまでは、安心出来ないや。)

「アタシ、本当にシンジと結婚することになるのかな。」

「うん、きっと僕とアスカは結婚するよ。」
(そうだ、絶対にしてみせるよ。)

「まあ、いい男になっていたら、考えてやってもいいわ。」

「なってみせるさ。そして、僕はアスカを幸せにしてみせるよ。」
(絶対に幸せにしてみせる。)

「ふふふっ。今日のシンジは、自信満々ね。」

「僕は、星を見ると、人生って本当にはかないものだと思うんだ。

だからこそ、人間は精一杯生きていくと思うんだ。

星はいつかは燃え尽きるよね。人間も同じだよ。

燃え尽きるまでどれだけ輝けるかが大事だと思うんだ。

これからもアスカは輝いていくと思うし、僕もアスカと一緒に輝いていこうと思っている。

二人で頑張れば、きっと幸せになれるさ。」

「何よ、もう。アタシの気が変わるかもしれないって言ったでしょ。」

「変えさせないさ。僕は頑張って、アスカにふさわしい男になるんだ。」

「おおっ、言ったわね。この、にわか自信家がっ。」

そう言いながらも、アスカは笑ってシンジの肩に自分の頭を預けた。
そんなアスカの頭をシンジは優しく撫で続けた。
アスカは、しばしの間良い気分でいたが、そのうち、静かに寝息を立てだした。
シンジはそんなアスカの寝顔を優しく見つめるのだった。

(アスカ、とても綺麗だよ。僕は、君を愛している。きっと幸せにしてみせるよ。)

今、この瞬間、二人の心は間違いなく繋がっていた。
アスカはシンジを必要とし、シンジもアスカを必要としていた…。
多分…。



これからも、二人には辛いこと、悲しいことが起きるだろう。
喧嘩もするだろうし、意地を張り合ったりもするだろう。
だが、今日の気持ちを忘れなければ、きっとどんな障害をも乗り越えていくに違いない。

夜空の星は、綺麗に輝いていた。婚約した二人を祝福するように。



第一部完
 
 
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あとがき


ようやく、シンジとアスカは婚約します。
最後の詰めが甘いシンジですが、結局はOKがでました。
アスカは、シンジのことが好きだとは思っているけれど、自分の気持ちに対して自信が無いのです。
だから、中途半端な行動になってしまいます。
アスカが本当にシンジのことを好きと認識するのは、まだ先の話のようです。


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written by red-x
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