新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS 第2部 ゼーレとの戦い 第21話 紅いドレス プロポーズした翌日の朝、シンジは、アスカの優しいキスで目が覚めた。 「んんんっ…。」 (アスカがおはようのキスをしてくれるなんて、嬉しいな。) シンジは、朝から良い気分になった。そして、起きたと同時にアスカに声を掛けた。 「アスカ、おはよう。」 「ええ、シンジ、おはよう。」 アスカも明るく返事をする。 すると、シンジはアスカを腕に抱えたままくるりと半回転し、アスカの上に覆い被さった。 「アスカ、大好きだよ。」 今度は、シンジの方からアスカにキスをした。 最初は口、そして頬…と、次々に場所を変えてキスをした。 (あれ。アスカったら、あんまり嫌がらないや。これはチャンスかもしれない。) シンジは調子に乗って、どんどんエスカレートしていった。 「はい、シンジ、今日はそこまでよ。」 だが、世の中そんなに甘くはない。 アスカは、にっこりと笑いながらシンジの頭を両手で掴み、優しく引き離した。 (あ〜あ、もうちょっとでいいから、続きをしていたかったな。) シンジは心の中でぼやいたが、顔はにっこりとしていた。 *** 今回も何とか、運良く誰にも見つかることなく、シンジ達は起きることが出来た。 そして素早く二人は着替えた。そろそろユキが来る時間だからだ。 「おはようございま〜す。」 案の定、ユキは元気な声でアスカの部屋に入ってきた。間一髪である。 「おはよう、森川さん。」 「おはよう、ユキ。」 シンジとアスカは、二人同時に返事をする。 「まあ、朝っぱらから仲のよろしいようで。」 ユキはウインクする。 「ん、もう。今、シンジが起こしに来てくれたのよ。」 アスカは言い訳するが、今回は通じなかったようだ。 「あっ、惣流さん、下着が脱ぎっぱなしですよ。床に落ちてますよ。」 ユキの言葉にアスカは平然としていたが、シンジは大慌てとなった。 (えっ、まずいよ。一緒に寝ているのがばれちゃうよ。) 「えっ、どこにあるの。どこどこ、教えて。」 そう言って、シンジはおろおろした。 アスカは頭を抱えそうになったが、ユキはにっこりして言った。 「冗談ですよ。」 それを聞いたシンジは、頭の中が真っ白になった。 (し、しまった。後でアスカに怒られちゃうよ。トホホ…。) シンジは、目の前が真っ暗になった。 「大丈夫ですよ。みんなには黙っていますから。」 ユキは再び微笑んだ。 「ちょ、ちょっと、何誤解してるのよ。ユキが考えるようなことはしてないからね。」 アスカは、慌てて言った。 (そうだよ。アスカとは何もしてないのに。) そうだ。シンジは、アスカに腕枕をしていただけなのだ。 変な誤解をされてはたまらない。 アスカとの間でも、結婚するまでは最後の一線は超えないことを昨夜約束した、 いや、させられたばかりなのだ。 まあ、シンジはかなり不満ではあったが。 シンジはそれまで、心の中では淡い期待を抱いていたのだが、 『アタシ、結婚するまでは綺麗な体でいたいの。アタシのことが好きなら、もちろんOKよね。』 とアスカがニッコリ笑って言ったものだから、抗える筈が無かった。 それも、シンジからはエッチなことはしてはいけないが、アスカからならば何でもOKというものだった。 一緒に寝るのも、本来はエッチなことと言えなくもないのだが、 アスカが望んだから問題無いということなのだ。 シンジからすると蛇の生殺しなのだが、男のことを良く知らないアスカだからこそ成せるのだろう。 しかも、シンジがいつ結婚するのかと聞くと、 『アタシは、ミサトやリツコと同じ歳になるまで結婚しないかもね。 アタシが好きなら、それまで待ってくれるわよね。』 と言って、からかうのだ。 (アスカったら、ずるいや。) シンジは、落ちこんだ。 シンジと結婚するからそれまで待ってと言うのなら、まだ納得出来る。 だが、アスカは誰と結婚するのか分からないけど、結婚する時期まで待てと言うのだ。 とてもじゃないが、やってられない。 だが、うやむやのうちに、中学生のうちはキス止まりということになってしまったのだ。 シンジは反論しようかと思ったが、思い止まった。 アスカが眠っているときに、シンジは暴発したり色々あるからだ。 それをアスカは責めたりしないが、下手に反論するとそのことを持ち出されるかもしれないからだ。 (アスカの意地悪。こうなったら、一杯キスしてやるんだっ。ふんっだ。) シンジは憤慨したが、アスカに言えるはずもなかった。 こうして、シンジはかなり長い間、お預けを食らうことになったのである。 だから、ユキの誤解はシンジにとっては、迷惑以外の何者でもなかった。だが…。 「はいはい、分かっていますよ。」 ユキは笑顔のままである。 どう考えても、信じていないように見える。 シンジはむくれるしかなかった。 「それじゃあ、朝ご飯を作ろうか。」 シンジは、その場を誤魔化す様に立ち上がろうとした。 「もう、出来てますよ。」 ユキは再びウインクする。 「ホント。じゃあ、食べましょう。」 アスカは、シンジと一緒にリビングへ移動した。 「おっはよ〜。」 「おはようございます。」 アスカとシンジは同時に朝のあいさつをする。 これに対して、みんなは気のないあいさつを返してきた。みんな、まだ眠いようだ。 「は〜い、みなさん、起きてくださいね。 今朝は、おにぎりですよ。早い者勝ちですからね〜。」 そう言って、ユキはみんなを急かした。 テーブルの上には、色々な種類のおにぎりが並べてあり、味噌汁も人数分あった。 コーヒーと紅茶も、各自が自由に飲めるよう用意がしてあった。 みんな、眠そうな顔をしながら、おにぎりを次々と口に放り込んでいった。 *** 朝食が終わり、コーヒータイムになっても、みんなの顔はまだ眠そうだった。 そのためか、シンジ達をからかう者はいなかったため、シンジは内心ホッとした。 今朝の話題も、これからどうするのかというものだったが、シンジとトウジはネルフで訓練を、 アスカと加持はネルフで仕事をする必要があり、リツコとミサトはアスカの手伝いをすることになった。 このため、残るケンスケ、ヒカリ、ユキの3人が映画の話を進めることになった。 なお、余談だが、トウジはチルドレンであるため、 シンジ達と同じコンフォート17に住むことになり、数日前に引っ越して来ていた。 ヒカリは妹と一緒に、ユキの所に当分の間住むことになった。 自然とユキの家には、ユキの妹達、ヒカリの妹、トウジの妹が集い、 一緒に勉強したり、遊んだりして、結構楽しく過ごしていたのだ。 ともあれ、ヒカリ達を残して、シンジ達はネルフへと向かった。 *** 「シンジ、最初に碇司令にあいさつしましょう。」 ネルフに着くなり、アスカが言った。 「ええっ、嫌だなあ。止めようよ。」 シンジは思い切り嫌な顔をしたが、アスカは有無を言わせなかった。 「あのねえ、アタシ達未成年なんだから、親が認めない婚約なんて意味ないのよ。 分かってるの。」 その言葉に、シンジは首を楯にするしかなかった。 二人してゲンドウに婚約を報告しに行ったところ、そこに居合わせた冬月とともに、 意外そうな顔をしていたが、特に反対は無かった。 「良かろう…。」 ゲンドウは、極めて無愛想ながらも了承した。 だが、冬月はゲンドウとは対照的に、話を聞くなりニコニコし、 『おめでとう。』と言って二人を励ました。 そして、『お祝いをしよう。』と言い出した。 冬月によると、加持の帰還とミサトとの婚約、アスカとシンジの婚約は、 ネルフ職員にとって、サードインパクト後に起こった数少ない明るいニュースなのだそうだ。 そして、職員の士気高揚に大いに貢献することから、 1週間後にネルフ関係者のみを集めて、婚約披露パーティーを開催したいと言うのだ。 「ええっ、婚約披露パーティー!」 シンジは、冬月からパーティーのことを聞いて驚いた。 アスカのことが気になったからだ。 最近のアスカは、短い時間なら歩くことが出来るようになったが、 長時間立ち続けることは、まだ出来なかったからだ。 それでは、パーティーの楽しみが半減してしまうのだ。 ドレスにしても、座ってばかりではあまり映えるものではない。 (アスカは、大丈夫かなあ。) シンジがアスカの方を見ると、案の定、アスカは渋い顔をしていた。 (それに、アスカはドレスなんて持っていたっけ。) シンジの記憶では、アスカはドレスを日本に持って来てなかった。 アスカは主役なのだから、良いドレスを着たいのだろうが、 今からだと気に入るドレスを選ぶのに、間に合わないかもしれない。 シンジはそこに思い当たった。 (もしかしたら…。ちょっと、アスカの機嫌をとろうかな。) シンジはそう思って、アスカに声をかけた。 「大丈夫だよ。アスカは何を着ても綺麗だから。」 シンジがにこやかに言うと、アスカの機嫌は少しは良くなったようだ。 「えへへへへ。まあね。アタシは何着ても似合うものね。」 「でしょ。だから、今日はドレスを選びに行こうよ。」 「選ぶって、何処へ行くの。」 「う〜ん、良く分からないけど、ドレスを売っている所。 デパート以外にはどこで売っているのかな。」 「まあ、いいわ。とにかく行きましょう。」 こうして、二人はドレスを買い出かけることになった。 *** ドレス選びは、かなり困難を極めた。 本来のアスカなら、何度も試着してから選ぶのだが、今回はそうそう試着も出来ないからだ。 結局、シンジがドレスをアスカに見せて、気に入ったものだけ試着するという方法にしたのだが、 なかなかアスカの気に入るドレスが見つからなかったのだ。 シンジは、疲れているだろうに、嫌な顔一つせずに付き合っている。 以前のシンジなら、考えられないことなのだが。 いったん試着すれば、シンジが褒めちぎれば、アスカも決心が付いたかもしれないが、 試着しないのではどうしようもない。 シンジ達は、何軒もお店を回ってへとへとになった。 二人が疲れ果てた頃、あるお店の前に飾ってあったドレスにアスカが目を止めた。 それは、アスカの好きな、紅い色を基調としたドレスだった。 肩が露出しており、ちょっと大胆かなと思ったが、どうやら、アスカは気に入った様子だ。 「ねえ、シンジ。これなんてどうかしら。」 アスカが尋ねてきた。シンジからも、なかなか良いドレスに見えた。 (アスカにとっても似合いそうだ。) 「ねえ、アスカ。試着してみようよ。」 そんなシンジの押しもあって、アスカはそのドレスを試着することにした。 運の良いことに、愛想の良い店員で、普通なら『子供に買えるのかしら。』 などと言われかねないのだが、その店員はニコニコしながら、試着を手伝ってくれた。 「どう、似合うかしら。」 アスカが試着した姿を見ても、シンジは何も言わなかった。 あまりの可愛さに、声を失っていたからだ。 (アスカがこんなに可愛いなんて。) シンジが黙っていたので、アスカは機嫌が悪くなったらしい。 「むうっ。何か言いなさいよ。」 アスカが怒ったような声を発すると、シンジは慌てて答えた。 「ご、ごめんよ、アスカ。あまりに綺麗なんで、声も出なかったんだ。」 その瞬間、ポッと音がしたかと思うほど、アスカの顔は真っ赤になった。 「そ、そんなのあったり前でしょ。アタシを誰だと思っているのよ。」 そんなことを言いつつも、アスカは嬉しそうだった。 結局、アスカは、そのドレスを買うことにした。 「あの、これ、いただきたいんですが。」 アスカが店員に言うと、びっくりした顔をしていた。 まさか、買うとは思っていなかったのだろう。 だが、さすがはプロである。 後は事務的にテキパキと進めていく。 「はい、お買い上げありがとうございます。お支払い方法は、いかがいたしましょう。」 「はい、カードでお願いします。」 そう言って、アスカはネルフ発行の写真入りのクレジットカードを差し出した。 店員は、『こんな子供が何故?』と言いたそうな顔を一瞬したが、 直ぐにカードを機械に通して支払いに問題が無いことを確認すると、一転してにこやかな顔になった。 おそらく、彼女のノルマにとって、大きなプラスになったのだろう。 そのドレスは、100万円もしたのだから。 シンジもそうだが、チルドレン達の本来の給料はミサトの半分位なのだが、 色々な危険手当によって、かなりの高額になっていた。 しかも、生活費はミサト持ちだったため、かなりの蓄えになっていたのだ。 アスカは、ネルフの在籍期間が長いため、優に1億円以上、 シンジも、エヴァの搭乗手当が、1日50万円と高額なため、 1年に満たないながらも、3千万円以上の給料が支給されていた。 シンジは、エヴァに取り込まれていた33日間だけで、1、650万円もの手当が支給されていたのだ。 もっとも、アスカの指輪を買ったため、シンジの蓄えは、何割かが減っていたのに対し、 アスカは投資によって、その額を10倍以上に増やしてはいたが。 こうして、アスカは紅いドレスを手に家に帰り、ミサトやリツコに見せびらかした。 これに対して、ミサトが歯噛みし、翌日には加持に泣きついたのは言うまでもない。 次話に続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― written by red-x