新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第23話補完 笑顔の理由


今日の婚約披露パーティーでのこと、ドイツから来たアスカの友人が、
口を揃えたように『良い人をつかまえて羨ましい。』というのだ。
アスカは、思わず『えっ、何で?』と、言いそうになったが、よくよく話を聞いてみると、
他の支部ではシンジの人気は物凄く高かったようだ。

本部でこそ情けない一面を良く知られていたシンジだったが、
他の支部では実績のみが知らされていたためらしい。

何の訓練も受けなかったにもかかわらず勇敢に使徒に立ち向かったこと、
不利な状況の元でも使徒との初戦に勝利したこと、
チルドレンの中で最も使徒殲滅の実績があること等々。
いずれも客観的に見ると、凄いことであった。

特に、実戦を経験した者ほどシンジに高い評価をしていた。
誰しも初めての実戦では小便をちびり、膝を震わせ、満足に戦えないのが普通だからだ。
厳しい訓練を重ねた大人でさえそうなのだから、何の訓練もしない中学生が、
想像を絶するバケモノ達に立ち向かうこと自体が称賛されるのだ。

例えるならば、銃を持ち、防弾チョッキを着た兵士の前に、
ナイフ1本で立ち向かうようなものだ。
しかも相手は殺意を持ち、実際に殺人を犯しているのだ。
余程訓練された兵士でも、初戦なら満足に戦うことが出来ないだろう。
実戦とは、そういうものなのだ。

だが、初戦に勝利したうえ、その後も敵の攻撃を受けて何度も死にかけたにもかかわらず、
シンジは戦い続け曲がりなりにも勝利を納めてきた。
男達はシンジのことを尊敬し、女達は英雄と称えていたのだ。

(ふうん、そうだったんだ。そうよねえ。
アタシは長い間、厳しい訓練を受けてきたけど、シンジは普通の中学生だったのよね。
普段はおどおどしていたし、ぼけぼけっとしているから分からなかったけど、
良く考えたら、シンジって、結構凄い男だったんだ。
アタシが負けたのは、シンジが凄すぎたせいなのね。)

今更ながら、シンジの凄さに気付くアスカだった。
そんなシンジと婚約したアスカを、友人達は社交辞令ではなく、本気で羨ましがっていた。

(今のうちに、唾をつけておいて、得をしたのはアタシだったりして。
思ったより、シンジって人気があったのね。
でも、何でシンジは、全然訓練をしていなかったんだろう。
あの髭親父、きっと何か隠しているに違いないわ。)

ふと、疑問が浮かぶアスカであったが、友人に話しかけられてそんな疑問はすぐに頭の中から消え去った。


実は、アスカは友人達を呼ぶのが嫌だった。
アスカの目から見たシンジは、優しいけれど頼り無い少年だった。
アスカは、常々、自分より優秀な男以外は好きにならないと公言していたが、
どう見てもシンジは普通の少年に見えた。
だから、友人達に馬鹿にされると恐れていたのだ。

だが、実際にふたを開けてみれば、アスカの恐れは杞憂にすぎなかった。
それどころか、誰もがシンジのことを褒めたたえた。
最初にシンジを見たとき、皆意外そうな顔をした。
シンジのことを筋肉モリモリ男だと思っていたらしい。
だが、実際には、線の細い優しそうな男だった。
そのことが、逆にこれからの将来性を感じさせていた。
あまり鍛えなくてもこれだけの成果をあげるのだ。
鍛えれば、もっと優秀な男になると。

シンジのことを褒めちぎる友人達のお蔭で、アスカは鼻高々だった。
久しぶりに、アスカの自尊心がくすぐられることとなり、アスカは自然と上機嫌になっていった。


「アスカ、お友達は僕のことを何か言っているの。」

アスカが友人と楽しげに話すのを見て、シンジも安心したのだろう。
自分が何て言われているのか、気になりだしたようだ。
もちろん、シンジはドイツ語が理解できないからだ。

アスカは、けなしてからかってやろうかなどと思ったが、
変なことを言うと、シンジの顔が歪むだろうと思いなおした。
自分の良い気分を少し分けてもいいかなと。

「勇敢なのに、優しそうで、良い男だって。皆、羨ましいって言ってるわよ。」

アスカはそう言うと、シンジは思いもかけないほめ言葉に、真っ赤になってしまった。
そんなシンジを見て、アスカはちょっとからかってみたくなった。
そして、シンジの耳元で小声で囁くいた。

「アタシ、シンジのこと、見直しちゃった。本気で好きに、な・り・そ・う。」

(ふふふっ。シンジのこと、見直しちゃったし、全くの嘘じゃないものね。)

「本当なの?」

そう言うと、シンジの顔は、パッと明るくなり、満面に笑顔を浮かべた。
今まで見た中で、一番優しくて、明るい笑顔だった。
それを見たアスカは、胸がドキッとした。

(な、なにあせっているの。シンジの顔なんて、見慣れているのに。
でも、いまのシンジの笑顔は、包み込むような優しい笑顔。
シンジったら、こんな顔も出来るんだ。
アタシ、本当にシンジのことを好きになっちゃうかも。
でも、やっぱり好かれた方が良いけどね。
おっと、アタシもお返ししなきゃ。)

「アタシの顔を見れば、分かるでしょ。」

そして、アスカは、シンジに対して2度目となる、最終兵器の笑顔を返した。
まるで、天使のような優しい笑顔。
今日は、さらに上機嫌と化粧とドレスが加わり、今まで最高の笑顔になったことだろう。
シンジの顔は、さらに明るくなった。


次話に続く 
 
 
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written by red-x

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