新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第24話 休日の過ごし方


「ああっ、もう、つっかれたぁ〜。」

パーティーが終わり、家に辿り着いた時には、既に夜中の2時を過ぎていた。
アスカもシンジもミサトもリツコも皆へとへとになっていた。
とくにアスカは、物凄く疲れていたのだろう。声にでていた。

「じゃあな、葛城。今日はゆっくり休めよ。アスカもな。」

皆を送ってきた加持は、そう言いながらにっこり笑ってさきほど帰って行ったところだ。
何故か、足が痛そうな様子だったが。


「お風呂、どうしようか?」

ミサトもリツコも寝室に直行した後、シンジはアスカに聞いたが、
アスカはどうしようか迷った素振りをしていた。

「アタシ、もう寝る。シンジも寝ようよ。」

だが、結局そのまま寝ることにしたようだ。
今日のパーティーで疲れたのだろう。
そして、ドレスも何もかも脱いで、アスカはベッドで横になった。

「うん。」

シンジは、明るく返事をするとアスカの横に寝た。

「おやすみ。」

そう言うと、アスカはシンジにキスをしたきた。
そして、シンジに抱きついたまま、眠りについた。

「アスカって、本当に可愛いな。」

シンジはアスカの寝顔に見入っていたが、あまりの可愛さにキスをした。
だが、それだけでは済まずに、徐々にエスカレートし暴走していった。


***


「好きよ、シンジ…。」

シンジの暴走が止まらなくなりそうになったその時、アスカの小さな寝言が聞こえてきた。
その声にはっとしてシンジは思い止まった。

(はっ、まずい。起きちゃったかな。)

シンジは、動きを止めてアスカを見つめたが、アスカは静かに寝息を立てていた。
どうやら、今のは寝言らしい。

(あっ、僕は、いつの間にか暴走していたんだ。)

シンジは、ようやく我に返った。

(今朝もあんなことがあったのに。)

シンジは、今朝も暴走しかけたことを思い出した。

(アスカは、『アタシのことが好きなら、お願いだから分かって頂戴。』って言っていた。
僕がアスカのことを好きだから我慢するって、信じているんだ。
それなのに、僕はもう少しでアスカの信頼を裏切るところだった。)

シンジの心の中に強い後悔の念が渦巻いた。

(それに、アスカは、寝言とはいえ、好きって言ってくれたんだ。
ここであせって変なことをしたら全てぶち壊しだし、何と言ってもアスカの心を傷つけてしまう。
僕は、何てことをするところだったんだ。)

シンジは、アスカの顔を見た。とても安らかで可愛い寝顔だ。

「僕は、アスカのことを愛しているのに、何てことを…。
アスカ、ごめんね。もう、こんな卑怯な真似はしないね。」

シンジはそう呟くと、アスカに優しくキスをして抱きしめた。
そして、シンジも疲れていたのだろう。そのまま眠りについてしまった。


だが、シンジは気が付かなかったが、二人を見つめる目が4つあった。ミサトとリツコである。
ミサトは、今日はちょっと危ないと思っていたのだ。その感はズバリ当たったのだ
が、ミサトが飛び出して止めようかという寸前で、シンジは思い止まったのだ。

「今日は大丈夫そうね。」
ミサトが小声で言った。

「ええ。と、いうか、当分大丈夫そうね。」
今度はリツコである。

「でも、ちょっち、残念かも。」

「ミサト、あなたねえ。」

「へへっ。ゴミンゴミン。」

こうして、ミサトとリツコは、安心して自分の部屋へと向かった。


***


翌朝、シンジは目を覚まして、仰天した。
アスカと抱き合っており、アスカの頭をつかんでキスしたままの体勢で寝ていたからだ。
シンジは、アスカに気付かれないようにと、そっとアスカの唇から口を離した。

だが、その瞬間、アスカの目が大きく開かれた。

「おはよう、シンジ。」

(ま、まずいっ!)

シンジは、それを聞いて、真っ青になった。
もちろん、アスカが激怒していると思ったからだ。
シンジは、経験上、アスカが物凄く怒っているときは、冷静な口調になることを知っていた。

だが、アスカは更に冷静な口調で、続けて言った。

「シンジ、アタシ、この体勢のままだと苦しいんだけど。」

(あっ、アスカの上に乗っかったままじゃないか。)

そう言われて、シンジははっとした。
アスカは、シンジが上に乗っかっていたため、シンジの体重がかかっていた。
これでは、アスカは苦しいに違いない。

「ご、ごめんよ。」

シンジは大慌てで、アスカから体から離した。

「ふうっ。苦しかった。」

アスカはそう言ってため息をついた。

「アスカ、本当にごめんね。」

(まずいっ!アスカは激怒しているかも。)

「ううん、いいの。でも、何でこうなったのかは教えてくれるわよね。」

にっこりと微笑むアスカに、シンジは背筋が寒くなるのを感じた。

(まずい。アスカは本気で怒っているよ。)

シンジの心の中はパニックに陥っていた。
なぜなら、アスカは本気で怒るときはわめいたりせずに、底冷えがするような冷たい口調になるからだ。
今のアスカがまさにそう感じられた。だが、…。

「シンジ、勘違いしないで。怒っている訳じゃないのよ。
ただ、何があったのか、知りたいだけなの。
絶対に怒らないから、教えてちょうだい。」

シンジの怯えた顔を見たせいか、アスカは優しく話しかけてきた。
どうやら、本気で怒っているわけではないかもしれない。

(あれ、アスカは怒っていないのかな?)

このため、シンジも少し落ち着きを取り戻すことができ、正直に全てを打ち明けた。


シンジの話が終わった時、アスカは優しく言った。

「ふうん、そうだったの。正直に言ったから、今回は許してあげるわね。
でもアタシは、嘘をつかれたり、裏切られたりするのが、一番嫌いなの。
それだけは覚えておいてね。」

それを聞いたシンジは、放心状態になった。
恐ろしい罰があると覚悟していたのに、おとがめ無しだったので、
それまで極限まで張りつめていた気が、一気に抜けたからだ。

「あら、罰が無いのもまずいかしら。
やっぱり、シンジには罰を与えるわね。
アタシをお風呂に連れていって、シャワーを浴びるのを手伝うこと。
いいわね。」

それを聞いて、シンジは本当に安堵した。


***


シャワーを浴びて、髪が乾く頃には、もう9時過ぎになっていた。
今日は、まだユキは来ていない。アスカが呼んだら来る手筈になっていたからだ。
もっとも、さきほど呼んだので、もうすぐ来る筈だ。

「おはようございま〜す。」
今日も、ユキは元気な声で、入ってきた。

「おはよう、森川さん。」
「おはよう、ユキ。」

アスカとシンジは、二人同時に返事をする。

「まあ、今日も、ますます仲のよろしいようで。」
ユキはウインクする。

「あら、分かる〜。」
アスカも負けじと切り返す。どうやら、本当にシンジのことは怒っていないようだ。

「そうですよね。婚約したんですから、今更ですよね。」
さすがに、ユキは太刀打ち出来ないと分かったらしい。朝食の用意を始めた。


今日は、正月からちょっと日が経っているが、お雑煮である。
具だくさんの豚汁らしきものに、ちょっと小さめの食べ易い大きさに切ったお餅が、5個位入っていた。

「昨日は、あまり食べられないと思ったので、ボリュームのあるものにしたんです。」
ユキはそう言って、ハフハフしながらお餅を食べた。

「ふ〜ん、これがお餅なんだ。」
アスカは、お餅を食べるのは初めてなので、ちょっとおっかなびっくり食べていたが、
どうやら気に入ったようで、お代わりをしていた。

「どうです、惣流さん。」

「何か、体があったまるような感じがするわ。
それに、伸びるなんて、面白いわね。また、いつか作ってよ。」

「ええ、いいですよ。でも、気をつけて下さい。
お餅3個で、ご飯1杯のカロリーがありますから。」

それを聞いたアスカがむせる。
「ユ、ユキ〜。それを早く言いなさいよ。
まったく、もう〜。アタシは太りたくはないんだから。」

アスカはぷりぷりしたが、その仕草が可愛かったため、皆で大笑いした。


朝食の後、シンジはネルフへ軍事教練をしに出かけ、ミサトは加持のところへ、
リツコはアスカと一緒にネルフの仕事、ユキは炊事に掃除、洗濯などを行うことになった。
午後からは、ヒカリやケンスケがこの家に来ることになっていた。


***


ネルフに到着すると、シンジはトレーニングルームに直行した。
最初の1時間は、ランニングと腹筋、腕立て伏せを組み合わせたメニューをこなす。
シンジは、基礎的な筋力や体力が、まだまだ十分にはついていないからだ。

その後に本格的な訓練が始まる。
概ね30分交代で、柔道、合気道、逮捕術のそれぞれの講師から訓練を受けるのだ。

シンジの任務は、アスカの護衛であるため、空手やその他の格闘技を学ぶよりも、
相手の力を利用する合気道や、相手の力を封じ込める逮捕術などを採り入れることにしたのだ。


「先生っ!お願いしますっ!」

シンジは、柔道の講師に何度も掴みかかっては、軽くいなされて、床に叩きつけられる。
こうして、受け身を覚えていくのだ。
普通の人間なら、間違いなく飽きてしまうのだろうが、シンジは違った。
自分が気を抜けば、アスカに万一のことがあったときに、後悔することが分かっているからだ。

シンジは、毎日、毎日、30分もの間、繰り返し受け身を繰り返した。


柔道が終わると、次は合気道だ。合気道は、相手の力を利用して、技をかける。
柔道とはうって変わって、講師が攻めて、シンジが技をかけていく。
講師は、最初の数回、シンジに技をみせるのみで、後はシンジが技をかけるのだ。

最初は、講師は全く同じ動作で襲いかかり、シンジが技をかけるという繰り返しだ。
何十回何百回と、同じ技を繰り返して、シンジが技をモノにしたら、
講師は攻撃のパターンを少し変えて、襲いかかる。
シンジは、またもや同じ動作を何回も繰り返して、体で技を覚えるのだ。


最後の逮捕術は、襲いかかってる敵の動きを封じ込めるためのものだ。
これも同じように講師が−この講師のみネルフ職員ではなく現職警官が交代で担当するのだが−襲いかかり、
シンジがその動きを封じ込めるという動作が繰り返される。

講師は、最初の数回のお手本と、時折思い出したようにアドバイスする時以外は、技をかけて来ない。
シンジは、繰り返し技をかけ、時折講師のアドバイスを受けて、体で技を覚えていくのだ。


「ありがとうございましたっ!」

逮捕術の訓練が終わる頃には、シンジの息はあがっており、しゃべるのも一苦労なのだが、
最後のあいさつだけは、気力で声を振り絞って言うのだ。


だが、これで終わりではない。この後は、本来の軍事教練が待っている。
毎回メニューや講師が違うのだが、激しい訓練が続く。

(僕がアスカを守るんだっ!)

アスカに対する、一途な気持ちが、シンジの気力を支えていた。
そうでなければ、体力も運動神経も人並み以下のシンジが、このような訓練に耐えられようはずもない。
こうして、1日に3時間とはいえ、シンジは精根尽き果てた状態でお昼時を迎えるのだ。


***


「よお、センセ。調子はどうや。」

食堂でトウジが声をかけてきた。今日のお昼は、トウジと二人きりだ。
いつもは、アスカ、ミサト、リツコなどと一緒にわいわい賑やかに食べるのだが、
あいにく今日は、皆コンフォート17にいる。

「もう、へとへとで、声も出ないっていう感じだよ。」

そう言ってシンジは肩をすくめた。

「惣流がいないと、空元気も出ないっちゅうわけか。」

「トウジだって、そうだろう。洞木さんがいないと、元気ないじゃないか。」

シンジが口を少し尖らせて言うと、トウジは頭を掻いた。図星だからだろう。

「まあ、そんなことより、メシや。ワイにとって、この時だけが至福の時間やからな。」

トウジは、そう言いながら、親子丼を食べ始めた。
それ以外にも、野菜炒めにほっけ、お好み焼き−しかも関西風−まである。

「トウジは大食らいだからなあ。」

そう言うシンジも、ご飯が大盛りの肉じゃが定食に、野菜炒め、チキンカツと、
トウジほどではないが、かなりの量だ。
シンジも運動の後で、かなりお腹が空くのだろう。

「まっ、しっかり食おうやないか。」

「そうだね。」


こうして、シンジとトウジは、二人きりで、ちょっと寂しい昼食を摂った。
このあとは、シンジは昨日やらなかった分の訓練が待っており、
トウジも別メニューの訓練が待っているのだ。

「お互いに頑張ろうや。」

「お互いの彼女のためにね。」

シンジがにやけて言うと、トウジはウッと言って、喉にお好み焼きを詰まらせた。
それを見たシンジは、大笑いした。


***


こうして、休日返上で訓練に励むシンジには、さらなる試練が待ち構えていた。
アスカが久しぶりにシンジの手料理を食べたいと言うのだ。

アスカの頼みを断れるはずもないシンジは、帰りにトウジと二人でスーパーに寄って、
挽き肉をたくさん買っていった。
もちろん、今日はアスカの好きなハンバーグにするつもりなのだ。

もちろん、他の女性陣への配慮として、ケーキとハーゲンダッツのアイスを大量に買うのも忘れていなかった。

こうして、夜は久々にシンジの料理だったので、アスカはご満悦だったが、
シンジはへとへとになって、いつもよりも早く眠りについた。 


次話に続く 
 
 
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written by red-x
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