新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第24話補完 指輪


時は少し遡る。シンジが午後の訓練をしている頃のことだ。
ミサトが出かけた隙に、加持はアスカに電話をかけた。

「よお、アスカ。まずは、お礼を言うよ。」

「例のモノが届いたのね。」

「ああ。良くあんなものを集められたな。」

加持は舌を巻いていた。
アスカが加持に送ったのは、今まで加持が手を出してきた女性の一覧と、
加持と付き合ったことを示す証拠の数々であった。

女性の一覧には、『解決済』、『交渉中』、『交渉予定』などの文字が書き込まれていた。
『交渉中』、『交渉予定』と書かれている女性は、比較的大人しい性格の女性だったのだ。
『解決済』と書かれているのは、そうではない女性と、パーティーに来ていた女性達だった。
加持は、誰のお蔭で助かったのかを知った。

「まあね、苦労したのよ。お蔭で、パーティーの時は、急所蹴りや鳩尾打ちくらいで済んだでしょ。」

「おいおい、じゃあ、もっと酷いことになっていたっていうのかい。」

「加持さんも、あっまいわねえ〜。毒物や爆発物を用意していた人もいたのよ。
技術部門の女性には、手を出しちゃあ駄目なのよ。」

「う、嘘だろ。」
加持は、背筋に寒いものが走った。

「本当よ。お蔭で苦労したのよ。
まあ、お世話になった加持さんのためだから、どうってことないけどね。」

「アスカ。幾らかかった。」
加持は、聞くかどうか迷ったが、一応聞いてみた。

「知らない方がいいわ。」
だが、アスカの答えは、予想されたものだった。
おそらく、加持には返せないほどの額なのだろう。

「でも、アスカは、お母さんの遺産に手を付けられなかったよな。」

「ふっふっふっ。甘〜い。ママの遺産を担保にして、現金を高利貸しから借りたのよ。
失敗すれば、すっからかんだったけど、一か八かの賭けに勝って、
ママの遺産を100倍以上に増やしたのよ。」

「おっ、おい。お母さんの遺産て、百万ユーロはあったよなあ。」

「そうね。もう、1億ユーロ以上はあるわよ。」
実は、それ以外にも、ドルや円を持っているのだが…。

「ア、アスカって、そんなに金持ちだったんだ。」

「後悔しても遅いわよ。加持さんは、ミサトを選んだんだから。」

「後悔はしないさ。でも、困った時は、貸してくれよな。」

「良いわよ。ミサトには内緒でね。今回のことも、もちろんだけどね。」

「ああ。そう言えば、もう一つお礼を言わないといけないな。
指輪の件で、葛城は、涙を流して喜んでいたぞ。」

「そんな、良いのよ。
アタシは、まだまだ見せびらかす機会があるけど、ミサトはあれが最後だもの。」

「だが、まさか、シンジ君があんな大きな指輪を買うとはな。」

「あれ、一千万円はするわよ。
シンジったら、ミサトのことなんか全然考えないんだもの。
まあ、アタシのことを考えて、あんな大きなものを買ったんだろうから、
アタシとしては、嬉しくもあり、複雑な気分だけど。」

「シンジ君には、何て言ったんだい。」

「シンジには、パーティーに持っていくのを忘れたって言ったのよ。
実際に置いていったしね。」

「何か言っていたかい。」

「取りに戻るなんて言ってたのよ。もう、頭が痛くなったわ。
だから、アタシ、言ったの。
皆がダイヤばかり見て、アタシの美しさに目がいかなくなるから、いいんだって。」

「はははっ。アスカらしいな。」

「うん、でも、シンジったら、『そうだね。』って、真顔で言うのよ。
アタシ、真っ赤になっちゃった。」

「そうか。アスカも、良い男をつかんだな。
シンジ君は、ひ弱そうに見えるが、芯はしっかりしてるし、優しいぞ。
男の強さっていうのは、心の強さと優しさがなければ駄目だ。
腕力が強いのは、本当の強さじゃない。
アスカの思いやりに気付かないのは、経験不足だからだ。
アスカなら、分かるよな。」

「あったりまえでしょ。」

「おっと、葛城がそろそろ戻ってくる頃だ。それじゃあ、アスカ、本当にありがとう。」

「良いってことよ。それじゃあね。」

そう言って、アスカとの電話が切れた。


加持は、アスカに感謝の気持ちで一杯だった。
加持も、アスカの本心は分かっていた。
あのアスカのことだから、シンジから貰った指輪を自慢したくてしょうがない筈なのだ。
だが、アスカはシンジが不機嫌になることを分かっていたうえで、あえて指輪をつけなかったのだ。

(優しい娘だとは知っていたが。
あの年頃の女の子だったら、普通は我慢出来ないのに、アスカには、大きな借りが出来ちまったな。)

もし、パーティーでアスカが指輪をしていたら、ミサトのつけていた指輪が霞んでしまうのは間違いなかったからだ。
加持は、アスカが指輪をしていないことに気が付いたミサトが、一瞬だが、安堵の顔を見せたことを見逃さなかった。
そして、そのすぐ後に見せた、アスカへの感謝の気持ちがこもった温かいまなざしも。

感の良いアスカのことだ。
悪口を言い合っているようでも、ミサトの本心をとっくに見抜いていたに違いないのだ。
アスカの指輪と自分の指輪を比べられるのが嫌だったことを。
だからこそ、アスカにとって初めてとも言える晴れの舞台であったのに、ミサトのことを考えて指輪をしなかったのだ。

(お蔭で、今までにない葛城の笑顔が見られたよ。アスカ、本当にありがとう。)

加持は、皆に指輪を見せびらかして、得意そうに笑っていたミサトを思い出した。
アスカの思いやりがなかったら、あの笑顔は見ることが出来なかっただろう。
幸運なことに、アスカが中学生であったため、誰もアスカが指輪をしていないことに不審を抱かなかった。

アスカは、不器用だが優しい娘だ。
攻撃的な性格のため、周りから誤解され易いが、本当は誰よりも他人の心を思いやる素晴らしい娘なのだ。
加持は、誰よりもそのことを知っていた。

(シンジ君は、一体いつになったらアスカの優しさに気付くことやら。)

加持は、深いため息をついた。


次話に続く                
 
 
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