新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS 第2部 ゼーレとの戦い 第26話 エヴァ、起動 学校が終わると、アスカ、シンジ、トウジのチルドレン達はネルフへと向かった。 本来、始業式の日は、すぐ帰るものなのだが、かなり授業がつぶれていたため、 今日は、6時間目まで、まるまる授業があったのだ。 このため、ネルフに着く頃には、3時を回っていた。 アスカ達がネルフに来たのは、今日、エヴァの起動テストがあるからだ。 このため、マヤは最近は大忙しであったし、一応技術部長であるリツコも、始業式に出たらすぐにネルフへ来ていた。 リツコは、まだ以前のようにはいかないのだが、マヤが『先輩がいると、安心出来るんです。』と言い張るので、 マヤと一緒にテストに立ち会っているのだ。 そんな所に、アスカ達を引き連れて、ミサトがやって来た。 「どう、リツコ、準備の方は?」 「ほぼ終わったわ。マヤが頑張ったお蔭ね。」 「そう。じゃあ、シンジ君、悪いけど、直ぐに用意してくれる。」 「ええ、分かりました。」 シンジは、返事とともに更衣室へと向かった。 だが、以前と違って、アスカに小さく手を振っていた。 アスカの方も、少し赤くなりながらも、控えめに手を振った。 これに気付かぬミサトでは無かったが、これから行われるテストの重大性について、 十分理解していたため、見てみぬふりをして、マヤに声をかけた。 「マヤちゃん、あとどれ位でテストが始まるの?」 「そうですね。後、1時間後位でしょうか。」 「じゃあ、コーヒーでも飲んでましょう。」 ミサトはそう言うと、アスカとトウジを引き連れて出て行った。 「マヤ、後はお願いね。」 「あ、先輩。」 リツコも後をついて行ったため、マヤは少し落ち込んでしまった。 *** 「やっぱり、リツコのいれたコーヒーは、おいしいわね。」 「あら、ミサト。そんなこと言っても、何も出ないわよ。せいぜい、お代わり位よ。」 「えへへっ、ごみん。その、お代わりちょうだい。」 「まったく、そう言えばいいのに。」 リツコはあきれたが、アスカとトウジはケラケラ笑っている。 こういう所は、リツコもミサトも、以前とは変わっていないようである。 「よう、みんなご一緒か。」 ひょっこり、加持も現れた。 「あ、加持さん。お久しぶりです。」 律儀にトウジがあいさつするが、他のメンバーは毎日のように会っているせいか、軽く会釈をする程度だ。 実は、これには理由がある。加持が諜報部の部長代行を命じられた時に、アスカの発案で、 加持、ミサト、リツコ、アスカ、シンジの各個室を横並びにして、つなげてしまったのだ。 アスカからすると、ミサト、リツコ、シンジの3人に、毎日のように仕事を手伝ってもらうつもりだったので、 その方が都合が良かったのだ。ミサトの部屋の横に加持の部屋をつなげたのは、 ミサトと加持が少しでも多くの時間を共有出来るようにと考えてのことであった。 裏の理由としては、マコトやマヤのことがあった。 マコトは、ミサトに失恋したため、ミサトと二人で話し合うことを避けていたので、 二人きりにならないようにと配慮したのだ。 マヤは逆にリツコと二人きりになろうとしていたため、これを防ぐためでもあった。 このため、アスカ達と一悶着あったマヤは、あまりここに近づけないでいた。 このため、マヤの使いとして、シゲルが顔を出すことが増えており、 自然とマヤとシゲルが言葉を交わす機会が増えていた。 それはそれで、アスカはシゲルから非常に感謝されていた。 そんな訳で、部屋のつながった5人は、結構、和気あいあいと仕事をしていた。 当然、リツコのコーヒーの消費量も多い。 特に、アスカとリツコはずっとこの場で仕事をしていたため、二人はかなり打ち解けるようになっていた。 シンジは、午前中は、訓練があったし、ミサトにしても、ちょくちょくと席を外すことが多かったからだ。 結果的に、午前中は、アスカとリツコが二人きりになることが多かった。 そのためか、アスカはリツコの影響を受けて、 ネルフ内では白衣に伊達メガネという格好で過ごすようになっていた。 もっとも、今日は学校帰りであるのと、トウジがいるため、制服のままであるが。 「テストがうまくいくといいわね。」 皆でワイワイしている中、何気なくミサトが呟くと、アスカが口を出した。 「ふん、そんなの、うまくいくに違いないわよ。何たって、アタシが協力したんだもの。」 そう言って胸を張る。 「シンジがやるからって言わんのか。」 トウジは少しあきれた様子だ。 「シンジは、今回が初めてじゃないし、失敗する要素にはなんないのよっ!」 アスカは、そう言って口を尖らす。 「確かにそうね。今回は、技術的な問題が大きいもの。」 リツコもアスカに同調する。 「はあ、そんなもんですか。」 さすがのトウジも、リツコの言うことには、耳を傾けるらしい。 「えっ、リツコ。そんなこと、初耳よ。」 ミサトが目を丸くしたが、リツコは苦笑した。 「今回のエヴァは、敵のものを拝借したでしょ。 だから、色々と技術的な問題が生じる可能性があるのよ。 一つ一つの可能性は小さくても、問題の数が多いと、無視出来なくなるわ。 だから、今回のテストは、一番安心出来るシンジ君なのよ。」 リツコは言ってから、少し良心が痛んだが、このメンバーでは、本当のことは言えない。 特に、コアのことについては、ゲンドウ、冬月、アスカ、シンジ、マヤとリツコ以外の者は知らされていない。 また、知られてもいけないのだ。 今回の技術的な大きな問題点は、そのコアに関わるものだった。 参号機から試験的に導入した、デジタルコアについては、稼働実績が無い。 参号機があんなことにならなければ、もう少しましな状況になっていたのだが。 実は、初号機のコアには生きた人間が取り込まれたのが、そんなことをしていたのでは、 エヴァの量産は出来ないと判断したゲンドウが、コアに生きた人間ではなく、 デジタルデータをインストールするよう命じたのが、碇ユイがエヴァに取り込まれた直後だった。 その後、ドイツにて、ゲンドウの指示を無視して実験が行われ、 アスカの母親のキョウコが弍号機に取り込まれてからは、特に厳禁とされた。 だが、何度実験を繰り返しても、デジタルデータでは稼働せず、参号機の時も、半ばあきらめかけた実験だった。 結果的には起動したのだが、本当にうまくいったのか、それとも、使徒がとりついていたからなのかは分からなかった。 そのため、今回の実験が成功すれば、その成果は計り知れないものとなる。 また、うまくすれば、ユイやキョウコのサルベージにも役立つかもしれないのだ。 もっとも、初号機と弍号機が見つかればの話ではあるが。 今回のテストにおいては、デジタルデータは、アスカが作成したものが採り入れられていた。 アスカ曰く、『特別な方法で変換した』とのことだった。 その特別な方法について、リツコとマヤが理論を聞いたのだが、結局理解出来なかった。 このため、リツコとマヤは冷や汗ものであったが、テストがこんなに早く実現したのは、 間違いなくアスカの功績であったこともあり、アスカの言う通りにするということになったのだ。 アスカは、リツコ達には説明しなかったが、ゲンドウと冬月には従来のデジタルデータの問題点を指摘し、 自分の編み出した方法を採用するようにと、強く申し入れていたのだ。 これは、自分の母親であるキョウコの実験にも関係するのだが、キョウコは、ユイの失敗を教訓にして、 エヴァに取り込まれた後、その逆の作業を行おうとして、失敗していた。 このため、キョウコは完全な形では戻れなかったのだ。 アスカは、この点に着目し、エヴァに取り込まれる時に、3分割して取り込むようにしたのだ。 そうすれば、完全に取り込まれることは無いし、無理に戻す必要も無くなるのだ。 3分割する根拠は、MAGIに求めた。 もっとも、口にするのはたやすいが、それを実現するとなると、かなりの技術的障害が生じる。 だが、アスカはそれを一つずつ潰していき、新たな方法を生み出したのだ。 一番の問題点は、3分割したデータの融合方法であった。 理論上は、うまくいくはずであったが、理論通りにいくかどうかは、全て今日の実験にかかっていた。 このため、アスカは、皆にはユイのデータだと思い込ませておいて、実際には、自分を実験台にしていた。 ユイのデータと偽ったのは、自分を実験台にしたことを隠すためと、今後のことを考えてのことである。 すなわち、自分に悪意を持っている者が使った場合に、シンクロ率が落ちるようにとの、冷徹な計算の結果であった。 そんな訳で、アスカは、隠れて自分のデジタルデータを何度も取り込んで、これまた何度も融合させる実験を行ったのだ。 こうして、ようやくデジタルデータをインストールしたコアが実用化の運びとなったのである。 皆には、ユイのデータだと偽ったが、これには、リツコの記憶喪失が都合が良かった。 ゲンドウには、リツコがこっそりとユイのデジタルデータを保存していたと説明出来たからである。 こうして、今回のテストは、初めてづくしのことが多く、技術部の面々も、 失敗する可能性が非常に高いものであるとの認識があったのだが、そのことは作戦部には意図的に伝えられなかった。 ミサトが目を丸くするのも、無理からぬことなのだ。 リツコもこうした事情の大半を知っていたため、関係者以外には、秘密を押し通すことにしたのである。 「あら、そろそろ時間ね。」 リツコは、そう言って話をうまくそらそうとして、まんまと成功した。 *** 一方、更衣室で、シンジは密かにある決意を固めていた。 (僕がアスカを守るんだ。そして、アスカが戦わなくても済むようにするんだっ。) シンジは、アスカがチルドレンの資格を抹消された時、ゲンドウのことを恨んだが、よくよく考えてみれば、 エヴァなんて危ないものに、好きな女の子を乗せるという考えることの方がおかしいとの結論に達したのだ。 (僕は、父さんのことを誤解していたのかもしれない。) シンジは、ふと、アスカが以前言っていたことを思い出した。 ダミープラグのせいで、トウジが死にかけた時のことについて、アスカは、 ゲンドウがシンジの身を案じたからではないかとの考えだったのだ。 確かに、あのままシンジが戦わなかったら、シンジは死んでいたかもしれない。 そうなると、ゲンドウはシンジの命を助けたことになる。 それを思うにつれ、自分が戦わないことによって、多くの人間が苦しい思いをしたかもしれなかったことに気付いたのだ。 今後も、自分が頑張らなくては、アスカに負担がかかるのは間違いない。 下手をすると、囮に使われて、命を落す可能性すらあるのだ。 (アスカが死ぬなんて、それだけは絶対に嫌だ。) シンジは、強く拳を握りしめた。そして、強い決意をその瞳にたたえた。 シンジは、まだまだひよっこだが、いっぱしの戦士の目をしていた。 *** シンジがエヴァに乗り込むと、早速テストが始まった。 「シンジ君、いいかしら。」 「はい、大丈夫です。」 シンジのOKが出ると同時に、LCLがエントリープラグを満たしていく。 「主電源接続。」 「全回路動力伝達。」 「第2次コンタクト開始。」 「A10神経接続開始。」 「初期コンタクト全て異常なし。」 「双方向回線開きます。」 「……シンクロ率……80%」 発令所をどよめきが包んだ。予想以上のシンクロ率だった。 「ハーモニクス全て正常。」 「エヴァ、起動します。」 その瞬間、エヴァ−新初号機−の目が光ったかと思うと、ゆっくりと右手が上がり、左足が前に踏み出された。 「やった、成功だ!」 「ヤッホー!」 発令所は、明るい声で満たされる。 そうしているうちに、メインスクリーンにシンジの顔が映った。 「やったよ、アスカ。」 シンジの顔は綻んでいた。 「あったり前でしょ。このアスカ様が頑張ったんだから。」 「でも、何か、アスカの匂いがするよ。」 それを聞いたアスカの顔は少し赤くなった。 「シンジが落ち着くようにと思って、LCLにアタシの匂いを付けておいたのよっ。」 それを聞いたシンジばかりか、周りの者まで赤くなった。 アスカは、しまったと思ったが、時既に遅し。 ミサトがニヤリと笑っていた。 アスカは、今夜の宴会で、散々冷やかされるだろうと、覚悟を決めた。 *** 一方、起動自体が成功すると、シンジには、次は荷物運びが待っていた。 「何で、力仕事があるんだよ〜。」 シンジはぼやいたが、シンジは、量産型エヴァをもう何体か、別のケージに運び込む破目になった。 新弍号機及び新四号機となるべき機体である。 これだけの巨体をいくつも動かせるほどの資金が、今のネルフには無かったとまでは言えないが、 かなりの額になるため、節約されていたのだ。 「あ〜あっ。」 シンジのぼやきに対して、トウジが笑っていた。 「しっかりせ〜や、センセ。」 だが…。 「明日は、あなたにもやってもらうわ。」 リツコの一言に、トウジは真っ青になるのだった。 こうして、テストが万事うまくいったため、その夜は、コンフォート17で、盛大な宴会が繰り広げられることとなった。 だが、この動きを事前に察知していたアスカによって、ミサトの家ではなく、新たに設けられた、 ミサトの家と同じ階の宴会部屋にて行われることになったため、アスカ達は、途中で脱出することが出来た。 だが、当然ミサトやリツコは明け方まで飲み続け、学校を早くも休むことになる。 次話に続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― written by red-x