新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第30話 決戦!第壱中学校(中編1)


「良い調子ね。ネットの中で、アタシの映画が話題を呼んでいるわ。」

アスカは、一人呟きほくそえんだ。
今はマコトの誕生パーティーが終わった後、11時頃である。

「どう、アスカ。うまくいっているの。」

シンジはそう言って、アスカのパソコン画面を覗き込む。
だが、実はアスカの側に来たかっただけだったりする。

「ええ。色々なサイトで、今日の映画のことが載ってるわよ。
こりゃあ、明日も満員御礼ね。まあ、アタシが主役だから、当然よね。」

「そうだね。アスカは可愛いからね。」

シンジはニコニコしながらアスカを見つめた。
シンジは、アスカを見ているだけで幸せな気分になれるからだ。

「な、なに、当たり前のことを言ってんのよ。
それよりも、明日は今までの会場だけでは入りきらなくなる恐れがあるわね。
一応準備だけはしておきますか。」

アスカはそう言うと、ケンスケに連絡を取った。
シンジは、慌てるアスカを可愛いと感じていた。


***


「おはようございます。」

翌朝、いつものようにユキがやって来た。

「おはよう、ユキ。」
「おはよう、森川さん。」

最近では、3人ともリビングで朝のあいさつを交わしている。先にアスカが声をかけた。

「ユキ、今日はなあに。」

「サンドイッチにコーンスープでいいですか。ご飯とハンバーグも出来ますが。」

「そうね、サンドイッチでいいわ。」

アスカの返事を聞いてから、ユキは料理に臨む。
アスカからユキのアルバイト代が出ていることもあり、朝のメニューはアスカの意向が尊重される。
昼がお弁当で必ずご飯が付いていることもあり、朝はパン食のことが多くなっている。

メニューの件が片づくと、アスカはシンジと一緒にパソコンを並べてネット内を調べ始めた。
だが、アスカがふと言葉を漏らす。

「あれ、メールが…。」

アスカに昨日の夜、メールが入っていたようだ。

「こ、これは…。やっぱりね。」

差出人は加持だった。
その内容は、昨日のジャッジマンやレッドウルフ達との会話がそのまま入っている。
ゼーレの侵入は予想されていたとはいえ、易々と学校内に侵入を許したのは、アスカにとっても驚きだったらしい。

「アスカ。僕の所にも、加持さんからメールが来ているよ。」

シンジの所にも同じメールが来ていた。
もっとも、アスカの所には加持以外にもキャシーやマリア、ハウレーンからも同じ内容のメールが来ていたのだが。

(何かが動きだしてくるような気がする。こんな変な予感は当たらないで欲しいけど。)

シンジは、今日にも何か起きそうな、嫌な予感がしていた。


***


今日もいつものように、シンジはアスカ、ヒカリ、ユキ、トウジ、ケンスケらと一緒にマンションを出た。

「ねえねえ、皆、ネット見た?うちの映画が話題になっていたわね。」

珍しく、ヒカリが口火を開いた。

「ああ、ワイも見たんやが、ごっつう人気みたいや。」
とトウジ。

「エヴァンゲリオンと使徒の映像が物凄くリアルだって評判なんだぜ。」
とケンスケ。

「エヴァのパイロットも格好良いっていう話よ。」
とヒカリ。もっとも、ヒカリの言うパイロットとは、トウジのみを指しているのだろう。

「それに、主演女優にプロを使っているっていう話になっていましたよ。
プロを使えば、人気が出るのも当たり前だって。
確かに惣流さんは、プロ顔負けですけどね。」
とアスカびいきのユキ。アスカが喜ぶことをさらっと言う。

「でも、凄いね。1日上映しただけで、こんなにも話が広まるもんなんだね。」

「何、言ってんのよ。
内容が秀逸、映像もリアル、それにノンフイクション、登場人物は粒揃い、
最後に主演女優が並のプロより完璧な演技に類まれなる美貌とくれば、当然よ。
これだけの条件が揃うことなんて、滅多に無いもの。」
とアスカ。

「けっ、よう言うわ。」
と小声でトウジ。だが、運良くアスカには聞こえなかったらしい。
その代わり、ヒカリに睨まれ、小さくなるトウジ。
既に、ヒカリの尻にひかれているらしい。

そんなことはおかまいなしに続けるケンスケ。

「そうだね、それに、歌手も一流どころを使ったからな。惣流様々だね。」

実は、試写会の時には最後にしか曲は流れなかったが、本番では挿入歌として、
2曲も別の有名な歌手の曲が入っていた。

「そうなんですか、さすがは惣流さんですね。」

ユキは、目を輝かす。
トウジは何か言いたげだが、多勢に無勢、言いたいことを我慢するしかない。
ユキが入ってからは特にグループ内の空気が変わり、アスカの悪口を言いにくい雰囲気になっていたのだ。

トウジは知らなかったが、トウジがヒカリに告白するお膳立てをアスカがしたため、
ヒカリとアスカはより一層仲良くなっていた。
ユキは以前からとある事情によってアスカびいきであるし、
ケンスケもアスカの下僕になったため以前に増してアスカの言うことを聞くようになっていた。
アスカにベタ惚れのシンジに至っては問題外である。

当然トウジは面白くないが、アスカが以前よりも人当たりが柔らかくなったためと、
シンジを馬鹿にするようなことを言わなくなったため、
トウジも以前ほどはアスカに反発することはなかったし、特に諍いを起こすほどには至らなかった。

何よりも、シンジが良く笑うようになったのがトウジにとっては嬉しいことであり、
それがアスカの態度の変化によるものであることが大きいことが分かっていたから、
トウジとしても、アスカに対して感謝の念を持っていたのだ。


皆が映画の話で盛り上がっていたが、学校の近くに来た時、ユキが驚きの声をあげた。

「あっ、あれは何ですか。」

ユキは、学校の近くの空き地を指した。
そこには、大きなスクリーンと数百席の椅子が並べられていたからだ。

「ああ、あれは、臨時の映画館さ。
アメリカなんかじゃ、屋外で車の中から見る映画館もあるんだよ。
まあ、それじゃああまり大勢の人数で見ることが出来ないから、ああいう風に、椅子を並べたのさ。」

ケンスケが解説した。

「へえ、おもろいやんか。あれだと、大勢来ても何とかなるんやないか。」
とトウジ。

「ああ、そうだね。でも、今日が晴れで良かったよ。」

ケンスケはホッと胸をなでおろしていた。


***


中学校に着いてからは、全員が別行動になる。
アスカとシンジは、職員室のリツコとミサトの席でパソコンにかじりつく。

ケンスケは映画上映の総指揮者であるため、体育館にへばりつく。
今日は空き地にも顔を出すことになるだろう。

ユキはクラスが違うため、自分のクラスの手伝いである。
ユキのクラスは喫茶店にしたため、ユキはウエートレス役である。
開いた時間にアスカに差し入れしたり、ケンスケの手伝いをしたりしている。

トウジとヒカリは交代で映画上映を手伝うが、それ以外は自由時間で文化祭を楽しむのだ。
昨日行ったお化け屋敷に、今日も行こうとヒカリは言っている。

「なんや、あんなとこのどこがええんや。」

トウジはぼやいたが、ヒカリの笑顔には逆らえない。
結局、昨日に続いてお化け屋敷でヒカリの悲鳴を聞き、ヒカリにしがみつかれるのだ。


ヒカリとトウジは、お昼時になると職員室へと向かった。
アスカ達と食事をするためである。
お弁当は今日も支給されるため、二人でアスカ達の所に届けに行くのだ。

「アスカ、どう調子は?」

ヒカリの言葉に、アスカはちょっと驚いた顔を見せる。

「えっ、もうお昼なの。」

そう言って、時計を見てもう一度驚く。もう12時になっている。

「そうか、もうお昼なのね。じゃあ、食べましょうか。シンジも食べようよ。」

「うん、そうするよ。」

こうして、4人で和気あいあいとお昼ご飯となった。

ちなみにケンスケは現場を離れられないため、体育館に釘付けである。
このため、アスカに頼まれたユキが昼食を届けに行っている。
まずユキが食事を済ませ、次にケンスケが食べている時にユキが映画の機械の番をするのだ。


***


一応時間差はあるが、一緒にお昼を食べることになったため、ケンスケは内心大喜びである。
女の子と二人でお昼ご飯を食べるなんて、ケンスケは今までに一度も無かったからだ。
しかも、なかなかの美人であるユキとなのだから。

このため、ケンスケはトウジが思う以上にアスカに感謝しており、この辺がアスカの人使いのうまい所だ。
こき使いはするけれど、ちゃんとおいしい思いもさせてくれるものだから、
少し位けなされたり、罵倒されてもケンスケはアスカの言うことを良くきいた。

しかも、アスカは、ユキの前ではケンスケを一応立てるのだ。
仮にけなしたとしても、ユキがいる時はちゃんとフォローしたりする。
ケンスケもその点は良く気付いており、
お返しにアスカの行動をシンジやトウジに対して、フォローしたりしている。

「さあて、もう少し頑張るか。森川さん、ありがとう。もう代わるよ。」

ケンスケは食べ終わると、真っ先にユキに言った。

「ええ、じゃあ頑張ってください。えっと、それから、これは義理なんですけど。」

ユキは、ケンスケに包装紙で包まれた物をケンスケに渡した。

「えっ、これは…。」

ケンスケは動揺し、うろたえた。

「碇君や鈴原君にも渡しますが、あの二人は決まった人がいますから、ちょっと小さめにしました。
私、男の人とおつきあいするつもりは無いので、こういうことはするつもりは無かったんですが、
いつも仲良くさせてもらっていますので、義理チョコでも良ければもらってください。」

「あ、ああ。義理でも嬉しいよ。森川さん、ありがとう。」

「じゃあ、また後で。」

そう言ってユキは去って行った。
残されたケンスケは、感激に打ち震えていた。
何と言っても、苦節14年一度もチョコなどもらったことは無かったのだから。
義理といっても、今もらったチョコは、本命並の大きさだった。

「うううっ。惣流の下僕になって良かった。ありがとう、惣流。」

アスカの配慮だと思いっきり勘違いするケンスケだった。


***


アスカ達がお昼ご飯を食べ始めた頃、加持はネルフ本部でゼーレ部隊の迎撃を指揮していた。
第3新東京市からかなり離れた所に、ゼーレの部隊が発見されたのだ。
このため、各傭兵部隊が出撃していた。
早くもシンジの悪い予感は当たっていたのだ。

「敵の戦力を知らせてくれ。」

加持の問いかけに、シゲルが答えた。

「ゼーレの部隊は、4方面から侵攻中。
北と南から10部隊、西と東から15部隊、合計50部隊です。
各部隊は約10人、計500人が侵攻中です!」

「各部隊の対応状況を知らせてくれ。」

加持の指示に対して、各方面担当のオペレーターから返答があった。

「東の部隊はヴァンテアンの部隊、約200人が応戦中です!」

「西の部隊はリッツ大尉の部隊、約200人が応戦中です!」

「南の部隊はワイルドウルフの部隊、約200人が応戦中です!」

「北の部隊はエドモン中尉の部隊、約100人が応戦中です!」

数字的には500人対700人でネルフ側が有利だが、こういう戦いは兵力だけで決まるものではない。
個々の兵士の力量や、武器の装備、地形等々、様々な要素が勝敗を左右するのだ。

このため、加持は第壱中学校のある市東部を重視し、レッドアタッカーズを中学校付近に展開させ、
さらにフランスの名だたる傭兵部隊であるヴァンテアンを配置していた。

一般的には守る方が有利だが、今回のように守るのが難しい場所である場合は、
かなり攻める方が有利である。
攻める側は強力な武器が使い放題なのに対して、守る側はそうはいかないからだ。
当然、加持はその辺は十分承知であるため、気が抜けない状態であった。


「東の部隊は、敵3部隊を殲滅、現在も応戦中です!」

「西の部隊は、敵1部隊を殲滅、現在も応戦中です!」

「南の部隊は、敵2部隊を殲滅、現在も応戦中です!」

「北の部隊は、敵1部隊を殲滅、現在も応戦中です!」

次々と緊迫した声で、ゼーレとの応戦状況が入ってくる。
戦闘開始から既に30分ほど経っていた。
加持は、真剣な表情のままマコトの方を見た。

「日向君、他の部隊の配置状況を知らせてくれ。」

「はい、アスカちゃん達のガード約100人は市東部、第壱中学校近辺に待機、

レッドアタッカーズの部隊、約200人が第壱中学校の周辺に展開、

市内中心部西寄りにレインボースター約200人が待機、

市内中心部東寄りにジャッジマンの部隊約200人が待機、

市東部にヴァンテアンの部隊約200人が待機、

市西部にグエン中尉の部隊約100人とカルロス中尉の部隊約100人が待機、

市南部にワイルドウルフの部隊約200人が待機、

市北部にレッドアタッカーズの部隊、約200人が待機しています!」

「さて、どうするかな。」

加持は悩んだ。現時点では、東と南は問題なさそうだが、北と西がやや危うい感じである。
戦力も拮抗している。そこで、北と西に増援部隊を派遣することを決めた。

「北と西に増援部隊を派遣しろ。北にはカルロス中尉の部隊、西にはグエン中尉の部隊だ。
その後にレインボースターの部隊を移動させるんだ。急げっ!」

加持は、何か嫌な予感がして、ジャッジマンの部隊は動かさなかった。
同様に、いつでも動けるように、レッドアタッカーズは臨戦体制のままとした。
この判断が、後で効いてくるのであった。


***


「ええっ、何それ〜っ。」

職員室では、アスカが大声を上げていた。
ユキがシンジとトウジにチョコを渡すのを見て、初めてバレンタインデーのことを知ったのだ。

「アタシは何も用意していないのよ。シンジ、ごめんね。」

「アスカ、気にしなくていいよ。今は大事な時だし、アスカは知らなかったんだから。」

「ん、もう。ヒカリもユキも水臭いわね。教えてくれてもいいのに。」

「アスカ、ごめんね。すっかり忘れてたわ。自分のことで手一杯で。」

「惣流さん、ごめんなさい。てっきり知っていると思っていたので…。」

二人とも、肩を落した。

「ううん、良いのよ。もう時間も無いし。でも、ユキ、ちょっと頼まれてくれる。」

アスカはユキの耳元で何事かを囁いた。

「はいっ、分かりました。」

ユキは元気に返事をした。


***


「東の部隊は、敵7部隊を殲滅、現在も応戦中です!」

「西の部隊は、敵2部隊を殲滅、現在も応戦中です!あっ、増援部隊が到着しました!」

「南の部隊は、敵5部隊を殲滅、現在も応戦中です!」

「北の部隊は、敵3部隊を殲滅、現在も応戦中です!間もなく増援部隊が到着します!」

今も緊迫した声で、ゼーレとの応戦状況が入ってくる。

「被害状況を教えてくれ。」

加持の声にすぐさま返答があった。

「東の部隊は、被害無し!」

「西の部隊は、怪我人が10名、いずれも軽傷です!」

「南の部隊は、被害無し!」

「北の部隊は、怪我人が数名、いずれも軽傷です!」

今のところ、かなりネルフ側が押しているようだ。
それに、ヴァンテアンの攻撃も素晴らしい。
被害らしき被害が無いうえに、既に敵兵力の半分近くを削っているのだ。

「おい、ヴァンテアンの指揮官は誰だ。」

加持が尋ねると、マコトから意外な答えが返ってきた。

「ハウレーン・プロヴァンスです。アスカちゃんのクラスメートですよ。」

「何っ、アスカと同じ歳なのか?」

加持は驚きを隠せなかった。


***


 同じ頃、パソコンの画面を見ていたアスカが、急に大声で叫んでいた。

「こ、これはっ!いけないっ!」

「どうしたのさ。」

シンジが尋ねたが、アスカはもう聞いていなかった。既に、携帯電話片手に怒鳴っていた。

「マリア!作戦Rよ!急いでっ!」

そして、すぐさま電話を切ったかと思うと、また別の所に次々と電話していた。

「リツコ!これからMAGIのサポートお願いっ!良いわねっ!マヤも使ってっ!」

「キャシー!レッドアタッカーズの全部隊を第壱中学校近辺に集結させてっ!
えっ、加持さんの許可が無い?アタシが良いって言ったら良いのよっ!分かったわねっ!」

「マックス!ガード全員で学校の周りを固めてっ!ゼーレが攻めてくるわっ!」

そして、電話が終わると、急に服を脱ぎだした。

「ア、アスカ。」

(ど、どうしたんだよ、アスカ。
も、もしかして、バレンタインの、チョコの代わりなのかなあ。
もしそうだったら、嬉しいけど、ど、どうしよう。)

シンジが目を白黒させているうちに、アスカは下着を残して全て脱いでしまった。

「シンジ、今更恥ずかしがるような間柄じゃ無いでしょ。しゃんとしなさいよっ。
シンジ、悪いけど、あんたも脱いでもらうわよ。」

(え、嘘でしょ。も、もしかすると、もしかするかも。
だとしたら、言う通りにした方がいいよね。
でも、違ったらバカみたいだし。一応、聞いてみよう。)

「え、嫌だよ。理由を言ってよ。」

「つべこべうるさいのっ。いいから、裸になるのよっ!」

アスカは、強引にシンジの服をはぎ取っていった。
最後の1枚を脱がせ終わるのに、5分とかからない早業だった。


***


それから30分近く経った頃、ネルフの発令所では相変わらず緊迫した雰囲気だった。

「南の敵部隊は、後3部隊になりました!」

「東の敵部隊は、後1部隊になりました!」

「西の敵部隊は、一部を討ち漏らしました!現在追撃中!」

「北の敵部隊も、半分近く討ち漏らしました!現在混戦模様!」

加持は、頭を抱えた。夜ならばともかく、昼に相手を取り逃がすとは。

「レッドアタッカーズに至急連絡しろ。10部隊ほど、相手にしてもらうとな。」

加持は、現在唯一フリーであるレッドアタッカーズに期待するしかなかった。だが…。

「レッドアタッカーズは、東に向かって移動中です!」

「何っ!どういうことだっ!」

加持は激怒した。自分に命を預けると言っておきながら、勝手な動きをしたのだ。
加持にとって、許し難い行動だった。
その良いタイミングで、アスカから電話が入ったのだ。

「加持さんっ!
アタシの判断で、ちょっと部隊を動かすからねっ!
理由は後で言うわっ!良いわねっ!」

「お、おいっ!アスカ!」

加持が叫んだが、既に電話は切られていた。

「一体何があったんだ。」

加持は首を捻った。あのアスカのことだ、何かしら理由がある筈なのだ。
だが、加持には理由が分からなかった。
現在、確かに北と西は危うく支えているような状況だが、東は順調なはずなのだ。

だが、少し考えた後、加持ははっと気付き、マコトに命令した。

「ハウレーンを呼び出せ!今すぐにだ!」

「は、はいっ!」

マコトは、すぐさまハウレーンを呼び出し、正面のスクリーンに映した。

「ヴァンテアンのハウレーンです。初めまして。もうすぐ敵は殲滅します。ご安心を。」

ハウレーンはそう言って敬礼した。

「ほう、ちょっと聞きたいことがある。」

「はい、なんでしょうか。」

「昨日のお弁当は、何を食べたかな。」

「なっ、何を言うんですか。昨日は、学校は休みですよ。」

「ふん、この偽物め。こっちはとっくに気付いているぞ。
お前らは包囲されている。覚悟するんだな。
昨日は、文化祭だったから、お弁当を配っているんだよ。
本物のハウレーンなら知っているはずだ。」

「あははははっ。もうばれたか。感の良い奴がいるんだね。」

そう言って、ハウレーンの顔をした女は、顔の皮膚−おそらく特殊なマスクなのだろう。−を剥がしていった。

「あっ!」

マヤが叫んだ。その顔には見覚えがあったからだ。

「渚…カヲル君…。」

スクリーンには、紅い目をした少年が映っていた。
そして、その少年は、酷薄な笑みを浮かべていた。



次話に続く
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

 第壱中学校の位置が分からなかったので、第3新東京市の東側ということにしました。
コンフォート17についても位置が分からないので、第3新東京市の東側ということにし
ました。コンフォート17について、現在の仙石原の西側付近、第壱中学校は台岳付近と
いう想定です。もし間違っていた場合、内容を修正するかもしれません。
 さて、いよいよカヲル登場です。果たして、彼は本当のカヲルなのか、それとも…。

○傭兵部隊配備状況

東はヴァンテアン2個中隊、400人。
西はリッツ大尉200人、グエン中尉100人、カルロス中尉100人。
南はワイルドウルフ2個中隊、400人。
北はレッドアタッカーズ1個中隊、200人とエドモン中尉100人。
市内中心部にレインボースター1個中隊、200人とジャッジマンの部隊200人。
予備としてレッドアタッカーズ1個中隊、200人。
ガード役が昼は主に第壱中学校付近に100人。但し、通常は部隊としては機能しない。


written by red-x
inserted by FC2 system