新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第33話補完 取引


ゲンドウは、司令室で座りながら加持と連絡を取っていた。

「どうだった?碇よ。」
加持との連絡が終わると、冬月はゲンドウに尋ねてきた。

「我が方の損害は大きいが、思ったよりは少なかった。
死者1人、瀕死の重傷者が3人、1月以上の入院が見込まれる重傷者が約200人、
その他負傷者が150人ほどだ。」

ゲンドウは静かに答えたが、冬月は驚きを露にした。

「おい、碇よ。死者の数が2桁は違うだろう。
どう見ても、100人以上の死者が出てもおかしくない状況だった筈だ。」

だが、ゲンドウは落ち着いて答えた。

「アスカ君の功績だ。
MAGIを用いて的確な情報を味方に伝えたこと、
第壱中学校付近に有線の監視網を設置してあったこと、
加持一尉の命令に先んじて部隊を動かしたこと、
黒竜部隊に対して的確な対処法を用意していたこと、
これら全ての結果が、少ない死者数に現れている。」

「黒竜部隊が現れた時には、私も驚いたよ。
これで終わりかと思った位だ。
一体、どんなマジックを使ったんだ?」

「ワイルドウルフの最精鋭部隊を投入したのは知っているな。
その部隊に対処法を予め伝えておいたそうだ。」

「対処法なんて、あるのか?」

「複数人による、同時攻撃だそうだ。
要は、誰かが囮になって敵の目を引いて、残る者達が攻撃を加えるのだろう。」

「皮肉なものだ。使徒が相手の時は、そのような戦法は通じなかったというのに。」

「そうだな。」

「まあ、そのような状況に持ち込めなかったということか。」

冬月は、アスカが来てからの使徒を思い出していた。

第6使徒の時は、エヴァが弍号機一体しかなかった。

第7使徒の時は、敵が海を背にしていたため前面からしか攻撃出来なかった。

第8使徒の時は、エヴァを一体しか投入出来なかった。

第9使徒の時は、敵の真下からしか攻撃出来なかった。

第10使徒の時は、空から敵が落ちてきた。

第11使徒の時は、エヴァは戦うことすら出来なかった。

第12使徒の時は、敵の本体が分かった時には初号機が取り込まれていた。

第13使徒の時は、ミサトがいなかったため、ろくな指揮が出来なかった。

第14使徒の時は、シンジが逃げ出し、零号機も片腕だった。

第15使徒の時は、空から敵が降りて来なかった。

第16使徒の時は、弍号機は起動せず、初号機も凍結中だった。

第17使徒の時は、動けたのは初号機だけだった。

今さらながら、いかに不利な状況下での戦いを強いられてきたのか、思い知らされる。

「まあ、これでS計画の前半は終わったようなものだ。
まさか、ここまでうまくいくとは思わなかったよ。そうは思わないか、碇よ。」

「ああ、そうだな。」

今回の作戦においては、傭兵部隊に死傷者が出たものの、ネルフ職員には一切人的被害は出ていない。
物的被害も同様だ。それに対して、ゼーレの被害は甚大である。
何せ、精鋭部隊である、黒竜部隊と白龍部隊を失ったのだから。

「しかし、敵の手筈がここまで揃っているとは思わなかったな。
この分だと、こちらから仕掛けるのが遅かったら、手痛いダメージを受けていただろう。
アスカ君の作戦に乗って、大正解だな。」

「ああ…。だが、勝負はこれからだ。」

「それはそうと、アスカ君達はどうしている。」

「例の渚という少年の見舞いをしてから、家に帰った。」

「そうか、あの少年はどうする、碇よ。」

「アスカ君の話だと、エヴァに乗れる可能性があるそうだ。」

「まさか、そんなことをして、シンジ君がウンと言うと思うのか。」

「アスカ君に頼んである。問題無い。」

「確かに今のシンジ君なら、アスカ君が頼めば渋々ながらもウンと言うかもしれないな。
だが、アスカ君は引き受けてくれたんだろうな。」

「条件を幾つか出してきた。それで手を打った。」

「そうか。これでエヴァが3体揃うわけか。守りも磐石なものになるな。
戦略自衛隊の方も大方押さえてあるし、安心だな。
まさか、他国の軍隊は来ないだろう。」

「過信だな。十分あり得る。」

「何、そんな話は聞いてないぞ。そんな動きがあるのか?」

「ああ、残念だがな。」

「対策は考えてあるのか。」

「ああ、もう手は打ってある。」

「早いな。」

「ある組織からの打診でな。我々に協力してくれるそうだ。」

「ほう、お前が簡単に信じるとはな。」

「レッドアタッカーズの真の雇い主からだ。疑う理由はあるまい。」

「そうか。だが、相手は何を要求してきた?」

「必要に応じて、エヴァを貸し出して欲しいそうだ。」

「ほう、それで、何て答えたんだ。」

「パイロットが了解すれば構わないと答えておいた。」

「おい、それはまずいぞ。
鈴原君では大した事は出来まいし、シンジ君がウンと言うとは思えんが、それでも危険だぞ。」

「どうも、相手はエヴァを楯として利用するだけで、攻撃に使うつもりは無いらしい。
とすれば、断る訳にはいくまい。
彼らの組織の人間の多くが、ネルフを命がけで守っている今は特にな。」

「そうか。止むをえんか。」
そう言いながら、冬月は苦々しい顔をした。


その様子を見て、ゲンドウが何かを言おうとしたが、冬月は気付かずに続けて言った。

「それはそうと、碇よ。これでアスカ君のスパイ嫌疑は晴れたと思って良いな。」

「ああ。」

「だが、開発者コードの件といい、鮮やか過ぎる作戦の手並みといい、
何か引っかかるものがあるな。何か隠しているような気がするのだが。」

「今調査中だが、何らかの組織と繋がっている可能性がある。」

「やはりそうか。」

「だが、アスカ君はその組織を逆に取り込んでいる節がある。
ワイルドウルフといい、レッドアタッカーズといい、結果的にネルフのために働いている。」

「シンジ君のおかげか。」

「ああ、そうかもしれん。だが、アスカ君は、周りの人間を守ろうとしているらしい。」

「では、当面は心配無いな。」

「ああ、私が一番危なかったがな。」

「というと。」

「アスカ君に信用出来ないと、一度はっきりと言われただろう。
あの時、嘘を言わなくて、良かったと思っている。
もし、あの時に違う答を言っていたら、今頃アスカ君は、シンジと一緒に敵に回っていたかもしれん。」

それは考え過ぎだと言おうとおもったが、ゲンドウの表情が真剣だったため、冬月は沈黙した。

***

 同じ頃、盟主に対して、大佐と呼ばれる男が通信を行っていた。

「盟主様、例のものは、碇シンジの手に渡りました。」

「おお、良くやった。良い結果を期待しているぞ。」

「はっ。ですが、盟主様に質問があります。」

「何だ。」

「惣流アスカは、エヴァのパイロットから降ろされたと聞いています。
それに、碇司令との取引も成功しました。それなのに、何で惣流アスカにこだわるのですか。」

「彼女を押さえていれば、エヴァのパイロットを押さえたも同然なのだ。
それが分からぬのか。」

「いいえ、分かりますが状況が大きく変わりましたので、一応盟主様に確認したまでです。
今後とも、惣流アスカのガードに全力を尽くします。」

「うむ、頼むぞ。」

それを最後に通信は途切れた。大佐は、首をひねりながら部屋を出て行った。


次話に続く
 
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キャラ設定:盟主
 
謎の組織のトップ。その正体・目的は不明だが、影に隠れて、
チルドレン達のガードをするよう部下に指示している。 

キャラ設定:大佐
 
謎の組織の幹部。日本における責任者。ジャッジマンの上司でもある。 



 
 written by red-x
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