新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第40話 近付く心


「は〜い、みんな聞いてねえ〜。
喜べ〜、男子。美人の転校生が来たわよ〜。
そして女子も喜べ〜。美男子の転校生も来たわよ〜っ。」

2月29日の月曜日、シンジ達のクラスに、また転校生がやって来た。
女の子2人にカヲルだ。女の子は2人とも他支部のチルドレン候補生であった。
アスカが呼び寄せたのだ。

「は〜い、じゃあ、皆さん、順番にあいさつしてね〜。」

ミサトに促されて、3人の転校生は次々とあいさつした。

「初めまして。中国から来ましたリン・ミンメイです。
歌を歌うことが大好きです。皆さん、よろしくお願いします。」

ミンメイは、ぺこりと頭を下げた。紺色に近い長い髪が印象的な美少女だ。

「初めまして。イスラエルから来ましたサーシャです。生まれはロシアです。」

サーシャも頭を下げた。蒼い瞳、長い金髪、長身、スリム、白い肌が特徴の美少女だった。
目が大きいが、大人しい感じがする、

それを見ていたトウジが、ケンスケに声をかけた。

「おい、サーシャさんって、森川に似てへんか。
肌の色や髪や目の色は違うけど、他はかなり似ているんやないか?」

「ああ、そうだね。確かに雰囲気は似ているね。案外親戚だったりな。」

「ははっ。まさか、そんなことあらへんな。」

だが、かなり似ている2人だった。
もっとも、2人とも血のつながりは無いのだが。
いわゆる他人の空似と言われるものである。

こうして、パイロット候補生が新たに2人加わった。
今回は特に美男美女ばかりだったので、教室内は沸きに沸いた。

***

「ねえ、あなたが惣流さん?」

休み時間にサーシャがアスカに声をかけてきた。

「ええ、そうだけど。」

「お願いがあるんだけど…。」

「はあ?」

「惣流さんの写真が欲しいの。」

「あ、アタシはそっちの方の趣味は無いから。」

アスカは危険を感じて、サーシャから体を離そうとした。

「ち、違うのよ。私の友人に惣流さんのファンが多いのよ。だからなの。
例の映画を見て惣流さんのことを気に入った人が私の周りには大勢いるのよ。」

「ああ、そういうことね。」

アスカはほっとした。

「で、どうかしら。」

「そういうことなら、相田に頼むといいわ。
あいつなら、アタシの写真を一杯持っていると思うから。
アナタの写真を撮らせてあげるって言えば、きっと無料でくれる筈よ。」

そう言いながら、アスカはケンスケを指した。

「そう、ありがとう。良かったわ。友人との約束が果たせそうで。
正直言って、簡単に手に入れられるかどうか不安だったのよ。」

サーシャは今度はケンスケの方へと向かって行った。

***

「ああ、びっくりした。」
アスカはため息をついた。

「そうね。私も驚いちゃったものね。」
ヒカリも肩をすくめながら言った。

「でも、あの映画はインターネットで予告編で流しているし、
色々な国の言葉の翻訳版も出しているから、他国の人が大勢見ていてもおかしくないわね。」

「でも、あの映画って、日本以外でも見ている人が結構いるのね。
驚いたわ。えっ。でもそういうことだったら、私と鈴原のキスシーンも全世界に流れている訳?」

「まあ、いずれはそういうことになるかしら。
でも、予告編ではその部分はカットされているから、安心していいわ。」

「でも、いずれはあの映画は全世界で発売されるんでしょ?ちょっと恥ずかしいわ。」

「まあね。予約も結構入っているらしいわ。
最後に聞いた話では、200万枚分の予約が入っているらしいわ。」

「ええっ!そんなにっ!」

ヒカリは思わず声をあげた。

「何よ、ヒカリ。売り上げ目標は、1000万枚よ。まだまだね。」

だが、アスカはあえて言わなかった。
200万枚というのが予約開始日当日の数字であることを。

「でも、凄いじゃない。何でそんなに予約が入っているのよ。」

「実はね、かなりインチキしてるのよ。」

「えっ、インチキって?」

「あの映画に何曲か歌が入っていたでしょ。
その歌手のうち、何人かの歌手のニューアルバムが入っているのよ。」

「ええっ、それって…。」

「そう。ニューアルバムを買うつもりの人は、こっちを買った方がお得な訳よ。
それに、その歌手の写真も入っているしね。」

「で、でも、何でそんなことが可能なのよ。
その歌手のニューアルバムの売り上げが落ちるし、採算が合わないんじゃない。」

「ふふふっ。そう思うでしょ。
でも、ネルフから広告費が出ているし、歌手にしても色々な手段で協力をお願いしたら、
印税なんか払わなくても良くなったし。
だから、2千円なんて低価格で売れる訳よ。
これなら音楽ディスク買うよりも安いもの。絶対に売れるわ。」

「アスカったら、しっかりしてるわね。」

「そうよ。だって、これでも広報部のチーフだもの。これ位はお茶の子サイサイよ。」

「でも、それだけ売れたら、大儲けじゃない。儲かったお金はどうするの?」
その時、ヒカリの目が少しだけ光った。

「うん、実は良い考えがあるの。
今回の戦いで親を無くした子供のための住まいを作ろうと思っているのよ。」

「えっ、また何でそんなことを思い立ったの。」

「今のアタシの仕事には、お亡くなりになったネルフ職員の遺族に、
仕事を斡旋することも含まれているのよ。
それで知ったんだけど、小さい子供を残してお亡くなりになった方も結構いるのよ。
親のいない辛さはよく分かるから、少しでも助けになりたいの。」

「そう…。アスカは偉いわね。戦うだけじゃなくて、そんなことまで考えているなんて。
私なんか、そんなこと、考えもしなかったわ。」

ヒカリはアスカに尊敬のまなざしを向けていた。

「まあ、ヒカリが大人になったら、色々手伝ってもらうかもしれないけどね。」

「私で良かったら、幾らでも手伝うわよ。でも、大変そうね。」

「そうね。人集めが大変なのよ。」

「施設の職員のこと?」

「うん、まあね。何と言っても親代わりになる人だし。」

「でも、そういう施設で働く人って、長続きしないっていう話も聞くし、
泊まり勤務もあるんでしょ。大変よねえ。」

「えっ、ヒカリって、何か勘違いしてるでしょ。
アタシの考えているのは、10人家族でも住めるような大きな間取りのマンションを作って、
そこに里親みたいな職員に住んでもらって、
親を亡くした子供4〜6人位と一緒に住んでもらうっていう考えなのよ。
子供を施設という名の牢獄に入れるようなことは考えていないわ。」

「えっ、そうなの。
私ったら、親のいない子供のための住まいって言うから、てっきり児童養護施設だと思ってたわ。
私の知っている人が、保育士として勤めているんだけど、大変だって言っていたから。」

「そうね。日本はそういう所は遅れているものね。
施設に入れればいいっていうもんじゃないのにね。
でも、探せばあるのよ。ファミリーグループホームとか。
言ってみれば、施設と里親の中間の形態ね。」

そう、アスカが考えていたのは、
定員20人前後の一時的に保護を必要とする子供のための児童養護施設に、
その施設の分園としての位置付けのファミリーグループホーム、
施設分園型ファミリーグループホームというものであった。

簡単に言うと、親を亡くした子はファミリーグループホームに入り、保護者の大人と一緒に暮らす。
それ以外の事情がある子は施設で一時的に預かるのだ。
これの経営主体として、アスカは社会福祉法人を考えていた。
税金がかからない等のメリットがあるからだ。

手順としては、映画の収益金を元手に社会福祉法人を設立し、
併せて児童養護施設と、大きな間取りのマンションを幾つか作る。
ついでに保育園も幾つか作り、共働きのネルフ職員が仕事に専念出来る環境作りの整備も考えていた。

保育園なら将来自分も使う可能性が高いし、自分の息がかかっているなら、
最優先で子供を預けられるとの読みがあった。
さすがにアスカは抜け目が無かったが、それはこの場では言わなかった。

「でも、ごめんね。
私は自分の手元に幾らかでも来ればなんて思っていたのに、恥ずかしいわね。」

「あっ、その手があったね。気付かなかったわ。」

「ア、アスカ。あのねえ〜っ。それって、本気なの?」

「嘘よ、嘘。」

しかし、ジト目でアスカを見るヒカリであった。
だが、そこにトウジが首を突っ込んできた。

「何や、惣流は孤児院でも作る気なんか。」

だが、返ってきたのは冷たい眼差しだった。

「アンタって、馬鹿ね。」

「そ、惣流。な、いきなり何てこと言うんや。」

「本当に、こいつって馬鹿ね。ヒカリ、教えてあげなよ。」

「うん。あのね、鈴原、良く聞いて。
児童養護施設が孤児院と呼ばれていたのは、半世紀以上も前のことなの。
今は、孤児院というものは、日本からは姿を消しているのよ。
だから、孤児院っていうのは死語なのよ。」

「な、なんやて。知らんかった。」

慌てるトウジにアスカが続けて言った。

「だから、その言葉を使うのは、無知な人間か、
親を亡くした子供に偏見や悪意を持っている人だけなのよ。
だから、もうその言葉を使うのは止めなさいよ。」

「お、おう、分かったわ。」

哀れトウジは、ヒカリの前で教養の無さを晒してしまった。
だが、落ち込むトウジを見て、さすがにアスカは可哀相に思って、助け船を出した。

「悪気が無かったみたいだから良いわよ。
アタシやヒカリみたいに、その方面の勉強をしていない人には分からないのが当たり前かもね。
でもね、偏見や悪意を持っている人が使うことが多いのも事実なのよ。
だから、これからは気を付けなさいよ。」

アスカの言葉に黙って頷くトウジであった。

***

「みんな!新しい仲間を紹介する。
中国支部から来たリン・ミンメイ、エジプト支部から来たサーシャ、
そして同じ中学の相田ケンスケだ。」

ジャッジマンが声を張り上げた。

午後からのネルフの訓練に、新たに3人が加わった。
シンジとトウジは困惑した表情だったが、残りの者は歓迎していた。
少しでも戦力が増えれば、自分達が生き残る可能性が多少なりとも上がるからだ。
皆、3人に注目した。

格闘技の訓練の時は、ミンメイとサーシャの格闘技の腕がミリアと並ぶことが明らかになった。
一方、ケンスケがシンジと大して変わらない腕であることも。

ハーモニクステストの時は、逆にケンスケのシンクロ率の高さが目を引いた。

シンジ     75%
マックス     9%
ミリア      7%

トウジ     35%
アリオス    10%
アールコート   7%

カヲル     35%
キャシー     0%
マリア     16%

ケンスケ    35%
ミンメイ    13%
サーシャ    17%

これで、エヴァを起動出来るパイロットが、1週間前の4人から8人に倍増したのだ。
ネルフの幹部は、明るい兆しを見ることが出来たのである。
アスカにしても、作戦の幅が大きく広がるのだった。

***

「碇君に話があるの。」

シンジは、訓練の合間の休憩時間に、マリアに話しかけられた。

「僕のことは気にしないで。大丈夫だから。」

シンジはマリアが自分のことを心配して話しかけたと勘違いしたようだ。
無理も無い。パイロット達は何らかの形でシンジのことを励ましていたからだ。

「違うの。アスカのことをお願いしたいの。
アスカは泣きたいのを我慢して頑張っているわ。
でも、可哀相で見ていられないの。だからお願い。
たった一言でいいの。『アスカが
僕よりも辛い思いをしているのは分かっているよ。』って言って欲しいの。
それだけで、アスカの心は救われるの。」

それを聞いたシンジは、真っ青になって呟いた。

「そうか。僕はまだまだニブチンなんだね。」

「ううん、そんなことないわ。アスカは自分の心を隠すのがうまいから。
だから気付かなくてもしょうがないと思うの。
でも、碇君が分かってくれるだけで、アスカの心は随分と軽くなるわ。だからお願い。」

「うん、アスカのためになることだったら、何でもやるよ。」

「じゃあ、ちょっと聞いて良い?
ちょっと極端な例えだけど、もしアスカを殴らないとアスカが死ぬとするわね。
その場合、碇君はアスカを殴れる。」

「そりゃあ、他に選択肢が無ければ、やるしかないと思う。死んだらおしまいだもの。」

「アスカに嫌われても良いの?」

「そりゃあ嫌だよ。」

「もし、アスカが殴られて痛いって言って泣いたらどう思う。
それも、殴った理由は言えないとしたら。」

「それは…。悲しいと思うよ。」

「そんな時、アスカに何て言って欲しい?
痛いから殴らないでって言って欲しい?違うわよね。」

「うん、許して欲しいし、分かってもらいたい。」

「じゃあ、分かるわね。アスカの気持ちが。今の話しと現実は逆だけどね。」

「あっ、そうか。そういうことなんだ。」

「そうよ。アスカは碇君に嫌われたくない。でも、厳しくしないといけない。
でもね、やっぱり碇君に分かって欲しいのよ。」

「マリアさん、ありがとう。僕は自分のことしか考えていなかった。
アスカは、自分を犠牲にしても他人を助けるような、とても優しい女の子なんだよね。
そんなアスカが、辛い思いをしていること位、分かってあげなきゃいけなかったのに。
でも、お蔭で分かったよ。ありがとう。本当にありがとう。」

シンジは、マリアに心の底から礼を言うのだった。

***

「ねえ、アスカ。ちょっといいかな。」

「何よ、シンジ。」

アスカがそろそろ寝そうな雰囲気だったため、シンジはアスカに話しかけた。

「アスカに言いたいことがあるんだけど、いいかな。」

「うん、何よ。」

アスカは少し身構えたようだった。

(あれ、警戒させちゃったかな。)

「アスカ。辛い想いをさせてごめんね。僕が不甲斐ないばかりに。
でも、僕はアスカを理解しているから。
アスカが涙を堪えて僕に厳しくしているって分かっているから。
だから、アスカは僕を信じて、自分の思ったことをして欲しい。
言いたいのはそれだけなんだ。」

「何馬鹿なこと言ってんのよ。アタシが泣くのを堪えているですって。
ハン!アタシはそんなにヤワな人間じゃないわよ。
アンタが言わなくても、勝手に思ったことをやるからね。
そんなことも分からないの、アンタは?」

(あれっ、強気だな。でも、まあいいや。マリアさんの言うことを信じてみよう。)

「ああ、分からないさ。だけど、これだけは言わせて欲しい。
僕はアスカが何をしようと、アスカのことが大好きだ。
アスカの悲しい心が分かるから。それだけは信じて欲しい。」

「ハン!何を言うのかと思ったら。全く、アンタって奴は、アンタって…。」

だが、アスカの声はそこで小さくなっていった。
アスカは、その青く綺麗な瞳に大粒の涙を浮かべていたのだ。
それを見たシンジは驚いた。アスカが涙を浮かべるなんて、思いもしなかったからだ。

「この、バカ!」

アスカはそう言うと、シンジにしがみついた。

「アンタは、アンタは、鈍いくせに嬉しいこと言ってくれちゃってさ。」

「ア、アスカ…。絶対にアスカを守るから。絶対に守るから。
僕はアスカのことを心の底から愛しているから。」

「シンジったら…。格好つけちゃってさ。」

「悪かったかな。」

シンジは恐る恐る聞いてみた。だが、アスカの声は暗くはなかった。

「ううん、嬉しい。ありがと。お礼にいいこと教えてあげるわ。」

「えっ、なあに。」

「アタシ、2021年の6月6日に大人の女になるつもりなの。」

「えっ。そ、それって…。」

(僕の20歳の誕生日じゃないか。も、もしかして。)

「誰かさんの誕生日にお望みのものをプレゼントしてあげるつもりなの。
そう言えば分かるわよね。結婚前でも構わないわ。
分かったら、頑張んなさいよ!」

「う、うん。」

(や、やった。嘘じゃないよね。聞き違いじゃないよね。良し、頑張るぞ。)

その瞬間、シンジの顔に極上の笑顔が浮かんだ。

「でも、その代わり今はキスだけよ。」

「うん、分かったよ。」

(さすがに、今は無理か。)

「シンジ…。大好き…。」

「えっ、もう1回言って。」

(ア、アスカが僕のことを好きって言ってくれた…。)

「バカ…。」

アスカがシンジの口を塞いだため、その言葉は聞くことが出来なかった。

こうして、ゼーレとの厳しい戦いを前にして、アスカとシンジの心はさらに近付いていった。
二人の心がより強く結ばれるのも、そう遠い日のことではないだろう。



第二部完 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キャラ設定:リン・ミンメイ

エヴァンゲリオン操縦者候補生で、中国支部に所属している。
歌が好きで、紺色に近い長い髪が印象的な美少女。ミラクル5の一員。
最近来日し、市立第壱中学2年A組に在籍する。 


あとがき

これで第2部終了です。

第1部では、冬月。第2部ではマリアの助言のお蔭で、シンジはアスカの心に近付いていきます。
そして、とうとうシンジはアスカの心をがっちりと、とまではいかないまでも、
かなり強く掴むことができました。

第3部は、ゼーレとの本格的な戦いが始まります。果たして、シンジとアスカの運命は?



キャラクター一覧
年表
特務機関ネルフ新組織図
次話に続く
            
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


written by red-x
inserted by FC2 system