新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第47話 乙女の涙


作戦は順調に進み、3月13日の12:00になっていた。
シンジとマックスは、またもや待機任務に就いた。

(後30分で、アスカの姿がテレビに映るんだね。
それまでは、アスカの準備中の姿でも見ていようかな。)

シンジは、アスカのいる部屋の室内監視カメラが映るようにして、アスカの姿を追うことにした。

***

「どう、準備は良い?」

12:30になると、アスカはリツコに尋ねた。

「ええ、良いわ。じゃあ、あと5分で開始ね。」

リツコは直ぐに答える。

「他の皆も良いかしら。」

「ええ、OKです。」

今、アスカは特別に準備した部屋にいた。
アスカの背中には、液晶画面を幾つも繋げて作った、幅10mはある巨大な画面があった。
そして、アスカの前には演台が置いてあり、アスカの腰から下を隠していた。
アスカは、その演台に手をかけていた。演台の上には、伸縮式の指示棒が置いてある。

「アスカ、落ち着いてね。」

リツコが優しく声をかける。

「まっかせなさ〜い!この天才、惣流・アスカ・ラングレー様に不可能は無いのよ!」

「それだけ言えれば大丈夫ね。」

リツコは安堵した。
これから行うのは、今回の作戦の締めくくりとなる、重要な放送なのだ。
これによって、ネルフの今後が左右されると言っても過言ではない。
それほど重要な放送だが、ネルフの出演者はアスカ一人なのだ。
だから、アスカに失敗は許されない。
このため、通常人では耐えられない位のプレッシャーが、14歳の少女の心にかかっているはずなのだ。

当然、誰もが心配でたまらない。
だが、アスカにとっては、これ位はお茶の子サイサイのようだ。
幾多の戦場を渡り歩き、幾多の使徒との戦いを経てきたアスカにとっては、
これ位の事は些細な事にすぎないのだろう。

アスカはリツコに背を向けると、携帯電話を取り出した。そして、ミサトへ電話をかける。

「ああ、ミサト。こちらは後5分で放送が始まるわ。だから、エヴァの指揮を頼むわね。
最悪の場合、放送開始直後に何らかの反応が出る可能性があるから、気を付けてね。」

ミサトの元気の良い了承の返事を聞くと、アスカは携帯電話を懐にしまった。
そして深呼吸をすると、厳しい顔つきから、明るく温和な顔つきへと変わっていった。

***

「後3分よ。みんな、用意は良い?」

臨時にアスカの代理となったマリアが、呼びかけた。

「アジア方面はOKよ。」

とミンメイ。

「アメリカ方面も大丈夫だ。」

とミリア。

「ヨーロッパ方面も大丈夫です。」

とサーシャ。

「ようし、じゃあ始めるわよ!」

こうして、ミラクル5による電波ジャックが行われた。
全世界のテレビ放送に介入し、ネルフの放送を流すのだ。

***

「あれっ、どうしたんだろう。」

男は呟いた。今まで見ていたテレビの画面が急に真っ暗になったのだ。

「故障かな?」

男はテレビに近寄ろうとしたが、唐突に動きを止めた。

「こ、これは…。」

テレビには、惣流アスカの姿が映っていた。

そう、このような出来事は、世界各地で起きていた。
アメリカやヨーロッパは、深夜であったため、見ている者は少なかったが、
アジアを中心に大勢の者がテレビに釘付けになったのである。

***

「皆さん、私は国連の特務機関であるネルフ広報部の惣流・アスカ・ラングレーです。
先日発売された『救世主アスカ』を大勢の人に買っていただき、ありがとうございました。
実はこれから重大なお知らせがあります。
ですから、なるべく大勢の人に話を聞いて欲しいのです。
ご家族や友人、知人にこの放送のことを知らせて下さい。
また、この放送を録画して、知り合いの方に見せてあげてください。お願いします。」

アスカはそう言うと頭を下げた。

「『救世主アスカ』の物語は、フイクションではありません。
悪の組織ゼーレとネルフの戦いは、今も現実に続いているのです。
碇シンジ、鈴原トウジらエヴァンゲリオンのパイロット達は、今も戦い続けているのです。
人類の平和と未来のために。」

こでアスカは指示棒を掴み、巨大な液晶画面を指し示した。
そこには、日本を中心とする世界地図があった。
そして、日本から離れた所に多数の光点があった。

「皆さん、これを見て下さい。これが何か分かりますか。
この光点の一つ一つは、悪の組織ゼーレの手先の軍隊なのです。
その推定戦力は、原子力潜水艦が20艦以上、通常型潜水艦が50艦以上、空母が20隻以上、
各種艦艇が300隻以上、戦闘機1000機以上、爆撃機50機以上です。
一つの国どころか、一つの大陸さえ滅ぼすことが出来るほどの恐ろしいまでの戦力が、
私達に襲いかかろうとしているのです。」

アスカは、そこで手を合わせた。

「皆さん、お願いします。私はまだ死にたくありません。助けてください。
私はもっと色々な映画に出たいのです。世界の平和を祈って歌いたいのです。
世界を守る為の仕事を続けたいのです。もっと長生きして、皆さんのお役に立ちたいのです。」

そこまで言うと、アスカの目に涙が浮かんだ。

「ですが、このままでは、私はネルフの仲間と共に、ゼーレの手先に殺されてしまいます。
戦闘機の放つミサイルによって、私の体はバラバラにされてしまうでしょう。
そんなのは嫌です。私はこの若さで死にたくありません。
この私が哀れと思うなら、どうか皆さん、私達ネルフにご協力をお願いします。」

その瞬間、アスカの目から涙が流れ落ちた。

「皆さん、行動してください。
今行動しなければ、私達は悪の組織ゼーレによって、皆殺しにされてしまいます。
そうしたら、悪の組織ゼーレは、フォースインパクトを起こそうとするでしょう。
そうしたら、皆さんの人生は終わりを告げるのです。
ですから、皆さん戦いましょう。人類の平和と未来を勝ち取る為に。
一人一人の力は小さくても、皆が力を合わせればきっと巨悪にだって勝つことが出来るでしょう。」

うっすらと涙を流すアスカの姿は、言い様も無く美しかった。

***

「おい、ケンジ。テレビを見たか。」

「ああ、見たとも。」

「どうする?」

「もちろん、アスカちゃんのために全力を尽くすさ。」

おそらく、日本中、いや、世界中で似たような会話が行われたことだろう。
アスカの涙は、老若男女を問わず、人々の心を打った。
そして、人々はアスカの涙ながらの頼みに、精一杯応えようとしたのだ。
ある者は、ネルフのホームページを見て、電子メールでゼーレ関係者に苦情を訴えた。
ある者は、自分の家族がネルフを攻撃しようとしている軍隊にいることを知って、
思いなおすように電子メールを送った。
ある者は徒党を組んで、デモを行った。
こうして、世界各地で反ゼーレの動きが起こったのだ。

***

「大変です。太平洋方面からSLBMが飛んできます!」

若い女性のオペレーターが、急に金切り声をあげた。
SLBMとは、潜水艦発射弾道ミサイルのことだ。
核弾頭かNN爆弾が搭載されているのだろう。

「先輩、どうしましょう。」

慌てるマヤにリツコ微笑みながら言った。リツコは既に発令所に戻っていたのだ。

「大丈夫よ。シンジ君を信じましょう。」

リツコは、既にミサトに対してミサイル襲来を伝えていた。

***

「皆さん、見て下さい。これが、私達の現実です。」

アスカは声を振り絞った。液晶画面には、ネルフに迫り来るSLBMが映っていた。

「このミサイルで、ゼーレは私達を皆殺しにしようとしています。
ですが、私達は戦います。
見てください、私達ネルフの希望であり、人類の希望であるエヴァンゲリオンをっ!
そして、称えてください。
死をもおそれず戦いに赴く、エヴァンゲリオンのパイロット達を。」

その声と同時に、画面にエヴァンゲリオン新初号機が映った。
そして、SLBMに向かって空を飛んでいき、オレンジ色の壁を展開して、SLBMを爆破した。

「皆さん、紹介します。エヴァンゲリオンのエースパイロット、碇シンジですっ!」

アスカの声と同時に、画面にシンジの横顔が映った。

「皆さん、悪の組織ゼーレは、私達のような子供でさえ、容赦なく殺そうとします。
そのような悪党に世界を自由にさせてはいけません。正義は、私達にあります!
どうか、皆さん、ネルフへの支援をお願いします。」

アスカはまたもや頭を下げた。頭を上げると、アスカの目には、未だに涙が流れていた。

***

少し時間は遡る。

「シンジ君、敵のミサイルがやって来たわ。
悪いけど、ちょちょいのちょいって、やっつけて来て。」

「はい、分かりました。」

既にエヴァンゲリオンは起動しているので、
ミサトの号令と共にシンジの乗る新初号機とマックスの乗るエヴァが地上に射出された。

「シンジ君、なるべくここから離れた所で迎撃して。
マックス君は、バックアップよ。万一の時のために、そこで待機して。」

「分かりました。」

シンジは返事をすると、背中から羽を出して、走り出した。
少し走ってから、勢い良くジャンプしたかと思うと、空を飛んだ。

「さて、ミサイルはあれか。」

暫くすると、前方にSLBMが現れた。シンジはそれを睨み付けた。

「よくもアスカを殺そうとしたな。許せない、絶対に許せない。」

シンジは、怒りをATフィールドの形にして、SLBMにぶつけた。
その瞬間、SLBMは大爆発を起こして飛び散った。
丁度、湖の上だったので、人的被害はなさそうだ。

「ミサトさん、任務は終了しました。」

「おつかれさま。早く戻って来なさい。」

「はい、分かりました。」

(良かった。アスカを守る事が出来て。)
 
シンジは心の底から安堵していた。


次話に続く

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タイムスケジュール

    発令所      アスカ達     加持・ミサト   シンジ達   

3月11日(金)

18:00 作戦開始     ゼーレの戦力分析 傭兵達との連絡  カヲルとアリオスが
                      市内の警戒    待機

19:30 ウイルスAを蒔く
20:00 ウイルスBを蒔く
    ハッキング開始
21:00 攻撃目標の30% アスカ仮眠    市内の警戒    トウジとケンスケが
    が落ちる                       待機
24:00          アスカ起床

3月12日(土)

00:00 攻撃目標の95% sleeping thief  市内の警戒    シンジとマックスが
    が落ちる     作戦開始              待機
03:00                   市内の警戒    カヲルとアリオスが
                               待機
05:30 休憩・仮眠    休憩・仮眠
06:00                   市内の警戒    トウジとケンスケが
                               待機
09:00                   市内の警戒    シンジとマックスが
                               待機
09:30 休憩・仮眠終了  休憩・仮眠終了
    切り崩し工作開始 
12:00                   市内の警戒    カヲルとアリオスが
                               待機
14:30 休憩       休憩
15:00          sleeping thief  市内の警戒    トウジとケンスケが
             作戦終了・食事           待機
15:30          リツコとお茶
16:00          作戦の準備
18:00                   市内の警戒    シンジとマックスが
                               待機
18:30 休憩終了     miracle5 stage
             開始
21:00                   市内の警戒    カヲルとアリオスが
                               待機
23:30 休憩・仮眠    休憩・仮眠

3月13日(日)

00:00                   市内の警戒    トウジとケンスケが
                               待機
03:00                   市内の警戒    シンジとマックスが
                               待機
03:30 休憩・仮眠終了  休憩・仮眠終了

06:00                   市内の警戒    カヲルとアリオスが
                               待機
08:30 休憩・仮眠    休憩・仮眠
09:00                   市内の警戒    トウジとケンスケが
                               待機
12:00 休憩・仮眠終了  休憩・仮眠終了  市内の警戒    シンジとマックスが
                               待機
12:30          世界中継の開始
                               SLBMの迎撃      
15:00                   市内の警戒    カヲルとアリオスが
                               待機
18:00


 written by red-x



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