新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第48話 臨時ボーナス


「何か、僕を見る目がいつもと違うなあ。」

シンジはお昼ご飯を食べながら呟いた。

「うん、そうだな。確かにいつもと違うよ。」

ケンスケも同意した。
今は、いつものメンバーであるシンジ、トウジ、ケンスケ、カヲル、
ヒカリ、ユキ、マリアの7人がお昼のお弁当を食べているところだ。

一方、アスカは、婚約解消を発表してからは、転校生達と一緒に食べている。
マックス、ミリア、アリオス、アールコート、キャシー、ミンメイ、サーシャ達である。
このため、シンジはお昼には少し元気が無くなるのだ。   

「シンジはテレビにばっちり映ったからな。
しかも、ここに向かっているSLBMを破壊するところもな。
あのお蔭で皆の命が救われたんだから、皆感謝しているんだよ。」

ケンスケはにこにこ笑っている。

「そうですよね。それに、
『皆さん、紹介します。エヴァンゲリオンのエースパイロット、碇シンジですっ!』
って言われていましたし。」

ユキもにこにこしている。

「でも、恥ずかしいな。
それに、エヴァに乗っているのは僕だけじゃないし、
敵のミサイルを撃ち落としたのも、たまたま僕が待機していたからだし。」

「なんや、シンジ。お前は良く頑張っているんや。胸を張っていいんや。
恥ずかしがる事なんて、あらへん。」

「でもなあ。」

落ち着かないシンジであった。だが、ケンスケが話を変える。

「まあ、それより、良いニュースがあるんだぜ。
何と、俺達パイロットに、臨時ボーナスが出るらしいんだ。」

「何っ、それはほんまか。」

「ああ、惣流から聞いたから間違いないよ。なあ、シンジ。」

確かに、その話なら聞いていた。しかし…。

「うん、でもネルフの職員全員に出るっていう話だったよ。」

「おい、シンジ。ばらすなよ。俺の口から言おうと思っていたのに。」

そう言いながらも、ケンスケは笑っていた。

「も、もしかして、私や洞木さんにも出るんですか。」

ユキが恐る恐る聞いてきた。
そう、ユキとヒカリは、ネルフの臨時職員として雇われていることになっているのだ。
ヒカリは『パイロット不在時における、パイロットの妹の保護』
つまりトウジの妹の世話が仕事になっている。

一方のユキは、ミサト家の家事全般が仕事である。
もっとも、ヒカリもユキもやっていることは同じであったけれど。

「ああ、そうだよ。惣流に感謝するんだな。」

良いニュースを聞いて、皆の表情、特にトウジの表情は明るくなった。

***

昼食が終わると、シンジは一人でネルフへと向かった。目指すはゲンドウの所だ。
司令室に入ると、そこにはゲンドウと冬月が待っていた。

「やあ、シンジ君。昨日はご苦労さま。」

やはり、声をかけるのは冬月である。

「いえ、殆ど待っているだけの仕事でしたから。」

「それでも、君が失敗していたら大変なことになっていたんだよ。ありがとう、シンジ君。
だが、ゼーレの攻撃は今後も続くだろう。これからも頼むよ、シンジ君。」

「はい、頑張ります。」

そんなことをきっかけに、5分ほどシンジと冬月が話し合っていた頃、アスカがやって来た。
急いで来たのか、少し息が乱れている。

「惣流一佐、参りました。遅れてすみません。」

アスカはビシッと敬礼した。

「ああ、構わんよ。アスカ君も、今回は良くやってくれた。礼を言うよ。」

「では、よろしいですか。早速、ご報告します。」

「まあ、その前に座りたまえ。」

冬月は、ゲンドウの机の前に置いてある椅子を指して、アスカに着席を促した。

(げっ、僕なんか、言われる前に座っているよ。)

内心、ちょっと慌てたシンジであったが、誰にも気付かれなかったようだ。

「はい、ではお言葉に甘えて、座らせて頂きます。」

こうして、4人とも座った状態で、久々に秘密会議が行われた。最初はアスカの報告だ。

「まず、今回の作戦における被害ですが、人的被害はゼロでした。
物的被害も殆どありません。
心配された敵の反撃も、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)のみでした。
弾頭は核兵器ではありませんでしたし、残骸は湖に落ちたため、これによる被害はありません。
ただし、一部の機械が衝撃波で故障しており、被害額はおおよそ数億円です。」

「そうか、それ位で済んで良かった。」

「ああ、問題無い。」

「次に作戦の成果ですが、敵と思われる部隊の進撃が、殆ど止まりました。
そのうち、約8割の戦力が日本から離れていくのが確認されています。
残る2割についても、足止め状態です。」

「アスカ君、その残る2割は、どこの国のものかね。」

「アメリカ、ロシア、ドイツ、イタリア、オーストリアの一部です。」

「そうか。数は少なくても精鋭か。」

「はい。ですが、まだ望みはあります。
実は、鈴原三尉にヒントをもらって、今回の作戦において、敵のコンピュータに細工をしているのです。」

「細工と言うと、どんなものかね。」

「はい、実は鈴原三尉が将棋をしているのを見て、敵の兵器をこちらで利用することを思いついたのです。
未だに残っている戦力の兵器の約2割は、こちらの方である程度コントロール出来る状態にあります。
うまくいけば、同士討ちさせることも可能でしょう。
今、それについて、MAGIでシミュレーションを行っています。」

「そうか、それは何とも頼もしいな。だが、敵はこのまま帰るかもしれんな。」

「いえ、それは無いでしょう。」

「ほう、どうしてだね。」

「実は、お二人に内緒で、並行して別の作戦を行っていました。
『Sleeping Thief』という作戦です。
その作戦が成功したので、おそらくゼーレは近い内に攻撃して来る筈です。」

「ほう、どんな作戦かね。」

「簡単に言うと、敵の資産をごっそり頂きました。それも半端な額ではありません。」

「どれ位かね?」

「そうですね、おおよそ300兆円のゼーレの資産をかすめ取りました。
これで、ゼーレの力はかなり落ちた筈です。
おそらく、これを取り戻す為に、全力でここを攻めて来るでしょう。」

「さ、300兆円かね。」

冬月は絶句した。ゲンドウも、驚きのあまり、口を開いたままである。
これが本当ならば、ネルフは資金的には、後100年は持つだろう。

「はい、敵の資金を奪うことによって、敵の弱体化を狙いました。
これは、かなりの打撃になる筈です。
S計画(ゼ−レ殲滅・掃討計画)の要とも言って良いでしょう。
また、敵から得た資金によって、
NR計画(NERV再生計画)、ER計画(EVANGELION再生計画)が格段に前進します。
まさに、一石二鳥の作戦なのです。」

「ほ、本当に300兆円もの資金が手に入ったのかね。」

「ええ、本当です。約1万の口座に分けてあり、1口座当たり、300億円になります。
ただし、日本円はそのうち約2割、残りはドルとユーロが半々です。
ネルフとは直接関係のないルートでマネーロンダリングをしていますし、
ゼーレさえ倒せば、取り返される心配はありません。
ですが、ネルフ以外のルートを多用したため、必要経費がかなりかさみました。
それについて、是非ご了承頂きたいのですが。」

「ふむ、一体幾らかね。」

「そうですね、約5兆円になります。」

「まあ、良かろう。」

それまで黙っていたゲンドウが口を開いた。

「そうだな、300兆円のうちの5兆円なら、止むを得ないだろう。」

冬月も頷く。

「ありがとうございます。これで、the phoenix operationに関する報告は終了しました。
何かご質問はありますか。」

「敵の再侵攻は、あとどれ位かかると思うかね。」

「おそらく、1週間前後かと。
それを過ぎると、ゼーレの資金力が落ちたことが知れ渡ります。
そうなる前に勝負をかけてくるでしょう。
それに、今度はゼーレの直轄部隊も出てくるでしょう。」

「そうか、分かった。今日はもう帰っても良いよ。
明日からは、また臨戦体制になるようだがね。」

「はい、では失礼します。」

こうして、アスカの報告は終わった。

***

「ねえ、アスカ。どうだった?」

アスカルームに向かったアスカとシンジを、ミサト達が待ち構えていた。

「もち、OKよ。」

「やったあ、アスカ恩に着るわ。」

ミサトは大喜びである。加持とリツコも嬉しそうだ。
だが、シンジは事態が飲み込めなかった。

「ねえ、アスカ。どういうことなの?」

「ああ、シンジには詳しく話していなかったわね。
皆に臨時ボーナスが出るかもしれないっていう話は言ったわよね。」

「うん、昨日聞いたよ。でも、それがさっきの話と、どう関係するのさ。」

「あのねえ、あの二人に正面切って言ったとして、OKが出ると思う?絶対無理よ。
だから、言い方を変えたのよ。
『必要経費がかなりかさみました。』って言って、了承してもらったでしょ。
総額も言ってあるし、後は必要経費に臨時ボーナスが入っていれば良い訳よ。
アンタも、もう少し頭を働かせなさいよ。」

「そ、それって詐欺じゃあ。」

だが、その呟きをミサトは聞き逃さなかった。

「シンちゃん。間違っても、司令に本当のことを言っちゃ駄目よ。
もし言ったら、ネルフの職員全員を敵に回すわよ、良いわね。
臨時ボーナスのことは、知れ渡っているし、今更無しですとは言えないのよ。
みんな、アスカには感謝しているんだから。」

「そうね、どこかの作戦部長さんが、早まって言いふらすんだもの。
まあ、アタシはどっちでもいいけどね。」

「へへへへへっ。やっぱ、まずかったわね。でも、良いわ。
シンちゃんは私達の味方だから、黙っててくれるわよねえ。ねっ、お願い。」

「は、はい…。」

(トホホ…。トウジ達も喜んでいたし、しょうがないか。)

こうして、一人当たり百万円という、大盤振る舞いの臨時ボーナスは、その日のうちに職員の口座に振り込まれた。

***

「ねえ、アスカ。300兆円の話って、本当なの?」

その日の夜、布団に入ってから、シンジはアスカに尋ねた。

「もちろん、本当よ。でも、実際は500兆円位あったかしら。」

「ええっ。300兆円じゃなかったの?」

「多い分にはいいじゃない。良く考えなさいよ。
あの時、5兆円の必要経費が駄目だって言われたら、後で195兆円増えましたって言えば済むじゃない。」

「それって、嘘だよね。」

シンジは絶句した。何ていい加減なのかと。

「失礼ね、交渉テクニックって言って欲しいわよね。
そんなこと言うと、もう二度と背中なんて流してあげないからね。」

「えっ、そ、それは…。」

「何よ、手が痛くて背中を洗えないですって。アンタこそ大嘘じゃない。
最初に嫌だって言ったら、『エヴァに乗っても、悪い事しか起きないんだ。』
なんていじけたフリなんかしちゃってさ。
アンタがお昼時に背中を掻いているのを見た人がいるんだからね。」

「あははははっ。」

シンジは乾いた笑いを浮かべた。

(やっぱり、アスカにはお見通しか。)

結構、似たようなことをしている二人であった。

「でも、5兆円なんて、一体どうしてそんなにかかったのさ。」

「ああ、簡単よ。アタシへの報酬が5兆円なのよ。
その他の経費は3000億円以下に収まったけどね。」

「そ、それって…。」

さすがに、開いた口が塞がらないシンジであった。
やはり、アスカの嘘はスケールが違うらしい。

(僕にも少しくれないかな。)

最近、普通の考えをするようになったシンジであった。


次話に続く
 
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written by red-x



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