新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第52話 決戦!第3新東京市その2


「全ミサイルを撃ち落としましたっ!」


「おおっ!」

「やったあっ!」

発令所は、喜びと安堵で満ちあふれた。
ゼーレの攻撃の第一弾である、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)をエヴァだけで迎撃に成功したのだから、無理もない。

これで、エヴァの迎撃性能の高さが実証されたのだ。
高速で飛来するSLBMの迎撃については、20世紀においては困難なこととされていた。
それだからこそ、核兵器を搭載したSLBMを保有することにより、
アメリカはロシア(当時はソ連)の核兵器の先制攻撃に対する抑止力とした位であった。

その20世紀の常識を、エヴァとMAGIのコンビは、いともたやすくひっくり返してしまったのである。
従って、軍人や年配者にとっては、喜びは一層大きいものになっていた。
裏を返せば、ネルフに対する軍事的な抑止力が無くなったことを意味していた。

これで、どのような兵器もエヴァには通用しないばかりか、ネルフ自体も軍事攻略が困難なものになっていたのである。


「碇、やったな。」

「ああ、パイロット達は良くやってくれた。だが、・・・。」

「全てはこれからだな。」

だが、ゲンドウも冬月も、浮かれてはいなかった。

***

「さあて、敵の様子はどうかしら。」

アスカは、有線索敵網を駆使して、敵の動向を探った。
すると、アスカが事前に予想していた通り、大島の南方沖を目指して集結しつつあることが分かった。

「やったわね、予想通りの動きで助かるわ。」

アスカはニヤリと笑った。
アスカは、敵の艦艇の集結場所を、大島の南方と睨んでおり、そのための下準備も色々としていたのだから無理も無い。

だが、笑ってばかりはいられない。
場合によっては、全部隊が集結する前に空母から艦載機が攻撃してくる可能性があるからだ。

第3新東京市から大島南端までの距離は、おおよそ80kmであるが、
亜音速で艦載機が向かってくるとなると、時間にしてわずか4〜5分で着いてしまうのだ。
集結前といっても、発進から10分以内の距離からやって来る可能性は高い。

しかも、燃料消費を度外視−音速を超えると燃料消費がケタ違いに増えるのを無視−して、
音速を超えてやって来る可能性も皆無では無い。
そうなると、敵機発進を知ってから、僅か2〜3分で攻撃を受ける破目になってしまうのだ。

そうなると、3機のエヴァで迎撃するのは非常に困難だ。
空母1隻当たり、多くて100機前後の艦載機を搭載しているのだが、空母が5隻として、最大500機である。
それらが同時に攻撃してくると、かなり辛いものがあるのだ。

しかも、アスカが敵の出方を掴みかねていた部分がある。
それは、いつ艦載機が発進するかだ。

アスカはなかなか考えがまとまらず、頭を悩ませていた。

***

「やったな、葛城。」

「ええ、良かったわ。
アスカが戦自の助けがいらないって言った時には、どうしようか迷ったもの。
でも、結果は見ての通りね。」

発令所では、加持とミサトも安堵していた。
やはり、この二人にしても、エヴァでSLBMを迎撃するというのは、100%信用出来るものではなかったのだ。

「だが、次はどうする?」

「う〜ん、そうね。アスカに聞いちゃおうっと。」

ミサトは笑いながらアスカへと通信を入れた。

「アスカ、これからどうするの?」

「今は敵の出方を見ているのよ。」

「と、言うと?」

「敵の攻撃が、艦載機がメインなのか、地上部隊がメインなのか、
それともそれ以外がメインなのか、未だに分からないのよ。
だから、どのようにでも対応出来るようにしておかなくてはならないのよ。」

「どういう事なの?」

「艦載機がメインだったら、比較的簡単ね。
やって来る艦載機を片っ端から落としていけばいいものね。
後は、丸裸になった敵の艦艇を、ゆっくりと料理すれば良いもの。
でも、流石にそんなに楽じゃないでしょうね。」

「そうよねえ。」

「次に考えられるのが、艦載機と敵の艦艇との同時攻撃ね。
艦載機の支援を受けた敵の陸戦兵力が海から上陸して来るの。
こっちは、二正面作戦を強いられるわ。」

「むむっ。それは嫌な作戦ね。」

「さらに考えられるのは、高高度爆撃機との複合攻撃ね。
上に気を取られているうちに、敵の艦載機がやって来て、ポジトロンライフルを破壊するの。
そうなると、艦載機を撃ち落とすのが難しくなるから、手間取るわよね。
その隙に敵の陸戦兵力がやって来て、ネルフ本部を攻撃っていうのはどうかしら。」

「ううっ。誰よ、そんな意地悪なことを考えるのは。」

「まあ、そこまでは予想していて、対策も立ててあるんだけど、問題はその後なのよ。」

「どういうこと?」

「こんな、誰でも考えつくような作戦では攻めて来ないっていうことよ。
だから、あっと驚くような仕掛けが最低でも3つはあると思うのよ。
要は、それがどれだけ有効で、どのくらい防げるのかっていうことなのよ。」

「で、どうなのよ?」

「それが分かったら、苦労しないわよ。」

アスカは肩をすくめていた。ミサトは止むなく敵の出方を待つことにした。
だが、それほど長い時間待つことにはならなかった。


「日本海側から、再度SLBMが発射されましたっ!」

「数は20っ!高速で接近してきますっ!」

発令所は、再び喧騒に包まれた。ミサトはすぐにアスカと連絡を取ろうとした。
だが、別のオペレーター達が叫んだ。

「駿河湾から、SLBMが発射されましたっ!数は10ですっ!」

「相模湾から、SLBMが発射されましたっ!数は10ですっ!」

「アスカッ!敵の攻撃よっ!聞いてるっ!」

ミサトが問いかけたが、アスカは応えなかった。事態が切迫していたからである。

「相田とミンメイは、相模湾から発射されたSLBMを迎撃してっ!
サーシャは、駿河湾からの奴よっ!良いわねっ!」

「分かったっ!」「はいっ!」「はいっ!」

3人は、元気よく返事をした。
そして、今度は先程よりもやや落ち着いてミサイルを狙撃する事が出来た。

アスカの指示通りにSLBMを迎撃し、
ケンスケは、相模湾から発射されたSLBMを4発、
ミンメイも同様に6発撃ち落とした。
サーシャはというと、駿河湾から発射されたSLBMを10発とも撃ち落としていた。

だが、一息つく暇も無い。北からさらに20発のSLBMが迫っているからである。

「相田とサーシャは、北からのSLBMを迎撃してっ!ミンメイは、潜水艦の狙撃よっ!
MAGIの誘導に従ってやるのよっ!」

このアスカの命令に対しても、3人とも即座に従った。
相模湾からは、大きな火柱が立ち上がり、北からやって来たSLBMは、全弾撃ち落とされたのだ。

「ミサト、やったわよっ!見てたわよねっ!」

「ええ、見ていたわ。さすがにアスカね。」

「安心するのは早いわ。今のは探りだから、同じような攻撃がまだ続くわよっ!」

「でも、今の潜水艦が原子力潜水艦だったらどうするのよ?
相模湾が汚染されるんじゃないかしら。」

「そう言う事を考えるのは、生き延びた後よ。あったり前でしょ。」

「ははっ。やっぱり〜。」

ミサトの顔は引きつった。これでは生き延びた後も大変な事になるなと。

「一応、原子炉は狙いから外したけどね。運が良かったら、原子炉は無傷よ。」

このアスカの言葉は、ミサトの耳には届かなかったが、それに気付かぬアスカは、さらに続けて言った。

「ミサト、戦自に対潜哨戒機の発進を要請して。日本海側と、駿河湾の両方にね。」

「ええ、分かったわ。」

アスカの頼みに、ミサトは元気良く返事をして通信を切った。

「さあてと、次はみんなに連絡しないと。」

アスカはエヴァンゲリオン全機への通信回線を開いた。
そして、全機のパイロットの姿を正面のディスプレイに映し出した。

***

「ケンスケ、ようやった。」

一息ついた頃合いを見計らって、トウジはケンスケを労った。

「ああ、思ったよりも簡単だったよ。」

ケンスケも、トウジの言葉に緊張が少しほぐれたようだった。

「しっかし、ケンスケも水くさいやないか。あんなに凄い腕前だなんて黙っとって。」

「あのなあ、トウジ。凄いのは、コンピュータなんだぜ。
俺は、その指示に従って引金を引いただけなんだ。」

「なんや、そうなんか。」

「ああ、だから、トウジでも簡単に出来るようになるぜ。」

「おっしゃあ!腕がなるやないか。」

だが、張り切るトウジにシンジが水を差した。

「トウジ、張り切るのも良いけど、役割分担があるんだから、守ってくれないと。」

「そんな、堅い事言いっこなしや。」

だが、その言い方に、流石のシンジもカチンと来たようだ。

「今は戦争なんだよ。ふざけていると、洞木さんに言いつけるよっ!」

「ま、待ていっ、シンジ!」

トウジの顔は、真っ青になっていた。


「みんな、聞こえてる?聞こえる人は手を挙げて。」

そこに、急にアスカの声が入り、全員の手が挙がる。

「これから、簡単に状況を説明するわ。だから、良く聞いてね。」

アスカの言葉に皆頷く。

「SLBMの攻撃は陽動よ。アタシ達の防衛能力を試すために仕掛けて来たのよ。
あと2〜3回陽動が来る可能性があるけれど、次回の攻撃からは、気を抜けないからね。
良く、肝に命じてね。」

その言葉に、みな嫌そうな顔をする。それもそうだ。
敵の攻撃がまだ序の口だということは、戦いが長引くということだからだ。

「今、戦自に要請して、潜水艦を片付けてもらうことにしたわ。
と言っても、まだ潜水艦は一杯隠れているから安心出来ないけどね。
それでも、少しでも敵が減るのは良いでしょ。

今見える敵の主力は、大島の南方沖に集結中よ。
あと、1時間位で集結する見込みね。
集結したら、おそらく直ぐに作戦行動が始まるわ。
それからが正念場だから、気を引き締めてね。

問題は、敵がどうやって攻めてくるかなんだけど、おそらく一斉に攻めてくると思うのよ。
考えられる方法は、SLBMに加えて、高高度爆撃機、空母の艦載機、秘密裏に上陸した地上部隊、
とまあそんな程度かしら。これらが同時に攻めてくると思うのよ。

だから、事前に説明した通り、役割分担を守りつつ、現場の判断で臨機応変に戦って構わないわ。
けれど、傭兵部隊との連携も考えてね。
その点は、ハウレーン、マリア、ミリアの3人に任せたわよ。

そう言う訳で、あと1時間は敵の攻撃が来るかどうか分からない、
あやふやな状態が続くから、その間に栄養を摂って欲しいのよ。
LCLに浸かっているから、普通の食事は出来ないの。
だから、流動食で我慢してね。」

アスカが言い終わると、何処から現れたのか、
エントリープラグの中から流動食が出てきて、パイロット達の手に渡った。

「じゃあ、急に命令するかもしれないけど、それまでの間はゆっくりと食事を済ませてね。
じゃあ、またね。」

アスカは、言うべきことを全て言うと、通信を切った。


「おい、トウジどうする?」

ケンスケはトウジに聞いたが、答は決まっていた。

「食えるうちに食うんや。それが常識や。」

***

「良いかっ!第3新東京市まで、もうすぐだっ!急げっ!」

山の中を進む、4個中隊、約800人ほどの部隊があった。
その部隊の隊長は、敵陣に近いことを兵士に告げ、臨戦体制を取るように命じた。

兵士達は、各々の手に自動小銃を持ち、手榴弾や各種の武器を身に纏っていた。
いわゆる、完全武装というものなのだろう。

この部隊の兵士達は、様々なルートで日本に上陸し、昨日になって第3新東京市の近くの町に集結したのだ。
集結地には、どうやって調達したのか、各種武器弾薬が山のように用意されていた。

だから、兵士達はその場所で装備一式を整えることが出来たのだ。
しかも、ネルフに一切関知されことなく。
もっとも、同じような部隊は他にもいくつかあるのだが。

「ようし、止まれっ!」

隊長は、エヴァの姿を確認すると、部隊の進行を中断し、兵士達に休息を命じた。
もうすぐ訪れる、作戦開始までの間の、束の間の休息を。


次話に続く


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ネルフの迎撃体制について

○発令所

・ゲンドウ、冬月、リツコ、マヤ、シゲル
・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用
              ・加持 :傭兵部隊の指揮

○アスカルーム

・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮、全体の指揮(実質)
・アールコート:アスカのお手伝い

○地上部隊

・東南東 エヴァ第1小隊:シンジ(現場指揮官、小隊長)、ミンメイ(砲手)、マリア
     ワイルドウルフ2個中隊とカルロス中尉ら
・西南西 エヴァ第2小隊:カヲル(小隊長)、サーシャ(砲手)、ミリア
     レッドアタッカーズ1個中隊とリッツ大尉、エドモン中尉ら
・真北  エヴァ第3小隊:トウジ(小隊長)、ケンスケ(砲手)、ハウレーン
     ヴァンテアン1個中隊、レインボースター1個中隊等


written by red-x



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