新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第55話 決戦!第3新東京市その5


「先輩、この分だと、楽勝ですね。」

「あら、まだ安心するのは早いわよ、マヤ。気を抜いたら駄目よ。
今は、私達の出番は無いけれど、いつどのような事態が起きるのか、分からないわよ。」

発令所では、緊迫感が薄れてきたマヤに、リツコが苦言を呈していた。

「は、はい。すみません、先輩。」

マヤは、相手がリツコであるため、素直に謝った。

「分かれば良いのよ。」

リツコは、そんなマヤに、にっこりと微笑んだ。

「は、はいっ。」

マヤは、リツコの笑顔を見ると、途端に笑顔を取り戻した。

「でも、これで済む訳はないわね。きっと、何かが起きるわね。」

リツコの顔は、少しだけ険しくなった。

***

「おい、レッドウルフ。お前はこれで終わりだと思うか?」

「こんなに簡単に終わる訳はないよ。ふっ。そんな事、百も承知のくせに。」

リツコが険しい顔をしている頃の事。ジャッジマンの問いかけに、レッドウルフは笑った。
2人の部隊は、市内中心部で待機中であるため、時間的には余裕があったのだ。
それで、先程から戦況についての意見交換、或いは世間話をしていた。

「やはり、お前もそう思うか。」

ジャッジマンは腕を組んだ。

「ゼーレには、まだあいつがいるはずだ。お前は知らないかもしれないがな。」

「知っているさ。元青竜部隊の隊長だろ。」

「なっ、何でお前がそれを知っている?」

「彼とは、少しばかり因縁があってね。」

「ほう、どういう因縁なんだ。」

「言いたくない。」

「ふん、何かやましい事なのか。」

「まあ、そうかもしれないな。」

「気になるじゃないか。言えよ。」

「いずれ話すさ。いずれな。」

さすがのレッドウルフも言えなかった。彼が自分の母の命の恩人だとは。
それを言ったら、自分はゼーレのスパイだと疑われてしまうだろう。

「ちっ。嫌な奴。」

「僕達が勝てば、教えてあげるよ。」

レッドウルフは、フンと鼻を鳴らした。

「まあいい。で、我々の出番がいつ出るかなんだが、お前はどう思っているんだ。」

「そうだね。敵の地上部隊が出て来ないと、僕らの出番は無いよ。彼らも馬鹿じゃない。
エヴァンゲリオンの前に、地上部隊を晒す訳が無いさ。」

「さあ、それは分からないぞ。
エヴァンゲリオンの動きを止めるような兵器があるかもしれないぞ。」

「ああ、あるかもしれないね。」

「おいおい、お前も見当が付いているんだろう。
特殊な爆弾を使うとか、色々と方法があるだろう。
エヴァンゲリオンは、電子機器で制御されている可能性が高いし、中には人間が乗っている。
だから、電磁パルス爆弾みたいに、電子機器を一瞬で破壊するような爆弾を使うか、
中のパイロットを直接攻撃するような兵器が有効だろう。」

「中のパイロットを直接攻撃出来る兵器なんて、あるのかい。」

「ああ、あるさ。中性子爆弾なら、人間だけが死ぬ。他にも、俺達が知らない兵器あるかもしれない。」

「だけど、そんな兵器を使うと思うかい?」

「さあな。だが、使われたら、我々も一緒にやられるのは確かだ。」

「そうだね。だけど、敵にそのつもりがあるのなら、とっくに使っているさ。
おそらく、敵は奪われた資産を取り戻そうとしているに違いない。」

「ほう、お前もそう思うか。」

「ああ。作戦会議の席上では、敵の資産の多くを凍結せしめたと言っていたが、あれは控えめな表現だったんだろう。
ゼーレの活動を止める位の資産を凍結、或いは分捕ったんだろう。」

「となると、敵さんはどうしてもそれに関する情報を集めなくてはならなくなる。
そうしないと、戦いに勝っても自滅するしかない。」

「だから、我々を皆殺しには出来ない。よって、中性子爆弾は使えないはずさ。」

「しかし、あの作戦が、そこまで重要だったとはな。
敵の空母を沈めたミサイルも、あの作戦でせしめた金で買ったっていうし、敵の攻撃に制限を加えてもいる。
まったく、誰が立てたか知らないが、凄い作戦だぜ。」

「誰が立てたのかは、想像がつくよ。おそらく、惣流アスカだろうね。」

「どうしてそう思う。」

「簡単な事さ。
作戦会議の席上で、ネルフの幹部は『the sleeping thief operation』の話を聞いて驚いていたじゃないか。
あの加持だって、顔面蒼白状態だったよ。
加持って、てっきりネルフのナンバー3だと思っていたけど、違ったようだね。

で、顔色を変えなかったのは、碇司令、冬月副司令、それに碇シンジだけだった。
もっとも、碇シンジは単に鈍くて、何を言っているのか分からなかった可能性の方が高いけどね。

ということは、顔色を変えた人間は、作戦の立案に関与していないということになるね。
そうなると、消去法で、作戦の立案者が惣流アスカだって分かるじゃないか。

あの作戦は、軍事にも詳しくて、技術にも詳しい人間じゃなくちゃ、立案出来ないよ。
発想自体は誰でも出来るかもしれないけど、それを実行に移すためには、
葛城ミサト、赤木リツコ、加持リョウジの3人と同等のレベルの知識と経験を結集しないと難しいよ。

それだけの能力は、今の司令と副司令には無いよ。
でも、いま言った3人は、作戦には関わっていないのは確かだ。
彼ら3人に匹敵するだけの能力を持っている人間というと、惣流アスカしかいないじゃないか。」

「ふん、ずいぶん惣流アスカのことを高く評価するんだな。
まあ、反論出来る材料は無いが、それほどまでの能力が本当にあるのか?
彼女の戦闘能力が高いのは知っているが、それ以外の能力も天才的だとは思えないがな。」

「僕も証明出来るようなものは無い。

だが、いいかい。惣流アスカは、ネルフの要となる所を押さえている。

広報部では、実質的に広報部長代理と言ってもいい位だと言うし。
作戦部長と同居し、部長代行も同じマンションに呼び寄せている。
技術部長とも同居し、ネルフ内では一緒にいる時が多いと言う。
諜報部も、部長代行の加持と仲が良い。
総務部にも出入りして、チーフを勤めているっていうし。
エヴァンゲリオン部隊の指揮官でもあるし。
司令や副司令とも仲が良いっていう話だし。

保安部を除く、全ての部署を押さえていると言ってもいい位だ。彼女を崩せば、ネルフは
簡単に崩れるかもしれない。それほど重要な位置にいるんだよ、彼女は。」

「そうか。言われてみればその通りだな。
子供だと思っていたが、確かに良く考えれば、ネルフの要所を押さえているな。」

「それだけじゃない。ジャッジマンは、人間関係のことを知っているかい。」

「ああ、大まかなことはな。部下達から情報はある程度は入っている。

葛城ミサトは、惣流アスカを妹みたいなものと言ってはばからない。
赤木リツコは、口にこそ出さないが、惣流アスカと仲が良い。
加持リョウジも、惣流アスカを妹みたいなものと言ってはばからない。
そして、3人とも、惣流アスカの言うことは大抵聞くらしい。
この3人の部下達も、上司が言いなりになっている手前、惣流アスカに逆らえない。」

「へえ、良く知っているね。」

「まあな。それにエヴァンゲリオンのパイロット達も同じような状況だ。

碇シンジは惣流アスカにべた惚れだ。彼女の頼みは絶対に断らない。
鈴原トウジの恋人が惣流アスカの親友だから、彼も惣流アスカには逆らえない。
渚カヲルは碇シンジと仲が良いから惣流アスカには逆らわない。

マリアはドイツ時代からの友人だし、彼女の良き理解者だ。
ハウレーンも前回の戦闘での借りがある。
相田ケンスケに至っては彼女の下僕だと言うし。

あと、お前だから言うが、彼女は『ミラクル5』のリーダーだそうだ。」

「何っ。それは本当か?」

「ああ、そうだ。その線から、パイロットのうち3人ほどが、彼女の言いなりだそうだ。
つまり、現在エヴァンゲリオンに搭乗しているパイロット9人のうち、9人とも彼女の言
いなりなんだそうだ。」

「それは凄いな。まるで、エヴァンゲリオン部隊は、彼女の私兵みたいじゃないか。」

「そうではない。そういうことをするような人間じゃないから、言う通りにしているんだ。
単に我が儘なことを言う人間だったら、誰も言うことなど聞かないさ。」

「そうか。そうかもしれないな。
だが、これではっきりした。『ミラクル5』のリーダーなら、サイバー戦もお手の物だ。
『the sleeping thief operation』は、彼女が立案したに違いないよ。おそらく、全体の作戦も。」

「そうかもしれんな。
だが、そうでなかったとしても、惣流アスカの作戦で戦うことについては、俺としては文句はない。
この前、敵が攻めてきた時も、おそらく惣流アスカの作戦だったろうし、お蔭で死傷者は思った以上に少なかった。

彼女は作戦に私情をはさまないし、婚約者だった碇シンジでさえも、必要と判断したらためらい無く戦場へと送っている。

そのお蔭で、黒竜部隊のリーダーだった渚カヲルの洗脳が解けたっていうし、
俺達が足止めすらかなわなかった奴らを殲滅させることが出来た。
彼女自身も安全な所ではなく、前線に近い中学校で作戦の指揮を行っていたって言うじゃないか。

指揮官としての資質、行動力、人望ともに超一級品だ。特に、作戦に私情をはさまないのが良い。
今回の婚約解消といい、普通の人間にはなかなか出来ないことだ。ましてや、あの年齢でな。
彼女が我々の部隊の指揮官だったら、部下達は安心して戦えるのにな。」

「でも、一つひっかかるんだけど、彼女は碇シンジのことが本当に好きなのかな。
好きなら、何であんな素人を戦場に送るんだろう。それに、あいつのどこが良いんだろう。」

「それは、俺にも分からん。だが、碇シンジは、結構見どころのある奴だぞ。
確かに戦闘能力は低いが、肝は座っている。
戦場に丸腰で行くなんて、俺だって出来ないような芸当を平気でするんだ。

それに、お前も知っているだろう。
碇シンジが不良高校生に襲われた時、惣流アスカは鬼のような顔をしていただろう。
あれは、ただ単に好きと言うより、碇シンジを心の底から愛しているっていう感じだったじゃないか。」

「そういや、あの時のことを、みんなには加持が助けてくれたって言っているんだよ。
それを聞いた時、吹き出しそうになったよ。」

「加持は加持で、ワイルドウルフがやったって思っているらしいしな。」

「おそらく、碇シンジには、本当のことを知られたくないんだと思うよ。」

「それが、女心っていうやつなのかな。」

「そうだよね。
でも、婚約を解消したっていうことは、惣流アスカにとっても堪えているっていう訳か。」

「まあ、そういうことだ。」

ジャッジマンがそう言うと、レッドウルフは口を閉ざした。そして、遠くに見える山々を眺めたのだった。

***

「どうだ、戦況は?」

「はっ。我が方の空母が4隻沈められ、その他の艦艇も多大な被害を受けたそうです。」

薄暗い森の中で、迷彩服を着た2人の軍人が、険しい顔をして話していた。
そのうちの1人は、同じ頃に別の場所で自分が噂されていることなどは、知るはずが無かった。

「そうか。やはり海からの支援は期待出来んな。」

「残念ながら。将軍は、この事を予測していたのでしょうか?」

「ああ、最悪の事態としてな。だが、現実に起きるとは思いたくなかったがな。」

「原因は何でしょうか?」

「分からん。日本とネルフのレーダー網は、確実にすり抜けたはずだし、
集結地点もわざわざネルフから見えないようにと、島の影にしたというのにな。」

「我々の知らない索敵網があったのでしょうか。」

「おそらくな。だが、我々はもう引けない。お前には話したが、この戦いは食うか食われるかだ。
奴らに横取りされた我々の資産を取り返さなければ、我々に明日は無いのだ。」

「はっ。分かっています。」

「後は、あいつが俺の言う通りにやっていれば、勝機が見えるんだがな。」

「あいつと言いますと?」

「あの艦隊の司令官だよ。ちょっと、入れ知恵しておいたのさ。」

そう言って、将軍と呼ばれた男は、フッと笑った。

***

「一体、どうしたんだろう。敵の攻撃が止まったみたいだ。」

シンジは、さきほどから敵の攻撃が止んでいたため、落ち着かない気分だった。

「そうだ、アスカに聞いてみよう。」

シンジは、嬉しそうな表情で、守秘回線のスイッチを入れた。

「え〜と、惣流指揮官。現時点での敵の動きを教えて下さい。」

「えっ、何よ〜っ。さっきミサトから聞いたでしょ。ほんの10分位前じゃない。」

「えっ、そうだっけ。」

シンジは、思った以上に時間の進みが遅いことに驚いていた。
感覚的には、1時間位前の出来事に思えたからだ。

「今は、特に動きは無し。静かなものよ。」

「もしかして、これで終わりってことかな。」

「有り得ないわね。」

「ずいぶんはっきりと言うね。」

「あったり前でしょう。それくらいのこと、分からなくてどうすんのよ。」

「そ、そんなに怒らなくてもいいのに。」

「うっさいわねえ。じゃあ、切るわよ。」

「あっ、待ってよ。敵の次の攻撃予想を聞きたいんだけど。」

「それが分かれば苦労しないわよ。」

「確実な予想っていうんじゃないんだ。
どういう攻撃が可能性が高いとか、そういう事を知りたいんだ。
どんな攻撃が来るのか全く予想しないよりも、2〜3通りの攻撃を予想しておいて、
それに対する反撃方法を考えていた方が良いかなあって思ったんだ。」

「う〜ん、それもそうね。でも、予想が大外れだったらどうするの?」

「外れても、何も予想しないのとあまり変わらないと思うけど。」

「分かったわ。アタシの予想では、次も陽動が来るわ。おそらく、何回かに分けてね。
その次に、何かを仕掛けてきて、その後に地上部隊の投入っていうのが可能性が高いわね。
陽動は、またミサイルの可能性が高いわ。次に航空機っていうとかしら。」

「分かったよ。それを信じるよ。」

「でも、外れても文句言わないでよね。」

「うん、分かったよ。ありがとう、アスカ。」

こうして、シンジはアスカとの通信を切った。
そして、エヴァンゲリオン各機に対して、アスカの予想とそれに対する心の準備をするように伝えたのだった。




次話に続く


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ネルフの迎撃体制について

○発令所

・ゲンドウ、冬月、リツコ、マヤ、シゲル
・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用
              ・加持 :傭兵部隊の指揮

○アスカルーム

・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮、全体の指揮(実質)
・アールコート:アスカのお手伝い

○地上部隊

・市中心 レッドアタッカーズ1個中隊、ジャッジマンの部隊1個中隊

・東南東 エヴァ第1小隊:シンジ(現場指揮官、小隊長)、ミンメイ(砲手)、マリア
     ワイルドウルフ2個中隊とカルロス中尉ら
・西南西 エヴァ第2小隊:カヲル(小隊長)、サーシャ(砲手)、ミリア
     レッドアタッカーズ1個中隊とリッツ大尉、エドモン中尉ら
・真北  エヴァ第3小隊:トウジ(小隊長)、ケンスケ(砲手)、ハウレーン
     ヴァンテアン1個中隊、レインボースター1個中隊、グエン中尉ら

written by red-x


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