新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第58話 決戦!第3新東京市その8


「動け、動け、動け、動け!動いてよっ!」

エヴァンゲリオンの中で、シンジは一所懸命にエヴァを再起動しようと試みていた。
だが、インダクションレバーを何度動かしてみても、何の反応もない。

「どうして動かないんだよっ!」

シンジは、悲しさのあまり、涙を流した。

「お前が動かなくちゃ、アスカが死んじゃうんだよっ!」

シンジは、アスカの言葉を思い出した。

『シンジ、絶対に攻撃をためらったら駄目よ。
もし、攻撃するかどうか迷ったら、アタシの死体を思い浮かべて。
アンタが敵への攻撃をためらったら、それが現実になるのよ。
良いわね。敵の死体とアタシの死体、選ぶのはシンジよ。
これだけは忘れないでね。』

「ちくしょうっ!僕は、アスカを守るって誓ったのにっ!」

シンジは、敵への攻撃をためらったことを、強く後悔していた。

「僕が、ためらったからっ!」

シンジは、アスカの死体をイメージした。

「アスカが死んじゃうよっ!」

シンジは、アスカの言葉を、さらに思い浮かべた。

『出来る事なら、アタシがシンジの代わりに戦って敵を倒したい。
でもね、そうするとアタシの命は間違いなく失われるわ。
アタシはまだ死にたくないの。だから、シンジ、お願い。
世界のために戦ってとか、みんなのために戦ってなんて言わない。
アタシのために、アタシの命を救うために戦って・・・』

「僕が、意気地なしだからっ!僕はバカだっ!大バカだっ!」

シンジは、悲痛な叫びをあげていた。

「アスカは、死にたくないって言っていたのにっ!僕が、大バカだからっ!」

シンジの顔は、苦痛に歪んでいた。

「アスカが、エヴァに乗っちゃうよっ!」

そう、今のエヴァのコアには、アスカのデジタルデータがインストールされている。
このため、アスカがエヴァに乗ると、取り込まれてしまう危険性が高いのだ。
そうなると、もうサルベージを出来る人間がいなくなってしまう。

MAGIの試算では、アスカがエヴァの中に取り込まれる可能性が80%、
脳を破壊される可能性が20%であった。いずれにせよ、アスカは死んでしまうのだ。

「頼むから、動いてよっ!」

シンジは、狂ったように叫んだ。
だが、エントリープラグ内の電気回路が焼き切れていたため、いくら操作しても無駄だったのだ。
だが、そんなこととは知らないシンジは、いつまでも狂ったように叫びながら、無駄に体力を消耗していったのである。

**

「カール将軍、初号機の動きが止まりましたっ!」

「そうか、良くやった。」

「はい、しかも、東部方面に我が艦隊の海兵隊が上陸しました。」

「敵の動きはどうなっている?」

「エヴァンゲリオン9機のうち、5機が撤退、1機が起動不能、残る3機が抵抗していますが、
我が戦闘機部隊の攻撃により、防戦する一方です。」

「戦闘機の燃料は、あとどれくらい持つんだ?」

「おそらく、あと4時間ほどかと。」

「それだけあれば、ネルフの中に侵入出来るな。」

「はい。そして、一度侵入すれば、後は我等の勝利です。」

「だが、まだ油断するなよ。いいな。」

「はっ。」

「ようし、駄目で元々だ。ネルフに降伏勧告をしよう。」

カールは、ネルフへの通信回路を開いた。

***

「ネルフの諸君、私の名はカール。ゼーレの将軍だ。現在の戦況は、君たちにとって極めて不利だ。
どうだろう、無駄に血を流す必要はない。降伏してほしい。そうすれば、みんなの命は保証しよう。」

それに対して、ミサトが噛みついた。

「ふん、ふざけんじゃないわよっ!
あんた達の言うことなんか、誰が信用するもんですか。
私達は、降伏なんかしないわよっ!」

「ほう、勇ましいな。では、この戦況をどうひっくり返すんだ。
それに、我々にはNN爆弾の用意もある。
君たちがあくまで抵抗するなら、初号機にNN爆弾を投下するだけだ。
それでもいいのかね。」

「うっ。」

ミサトは、言葉に詰まってしまった。
ここで、「ウン」と言えば、シンジは殺されてしまうだろう。それだけは避けたかった。
だが、この回線に割り込んだ者がいた。アスカである。
アスカは、割り込むと同時に他の回線を遮断し、カールとサシで話すことにした。

「お久しぶりね、おじ様。お元気そうで、何よりだわ。」

「ほう、アスカか。暫く見ないうちに、綺麗になったな。」

「おじ様には、言葉では言い表せないほどお世話になりました。
それについては、感謝しています。でも、アタシ達は降伏しません、絶対に。」

「良いのか。初号機のパイロットは、アスカにとって、大切な人だろう。」

「ええ、そうです。」

「彼が死んでもいいのかね。」

カールの問いに、アスカは即答した。

「構いません。ですが、その時はアタシも一人で生き延びるつもりはありません。」

アスカは、カールを静かに見つめた。アスカの瞳は、蒼くそして澄んでいた。

「そうか、残念だよ。」

カールはため息をついた。それを見たアスカは、カールを説得しようと試みた。

「おじ様は、騙されています。ゼーレは、人類を滅亡させるつもりなんですっ!」

「それは違うよ。そうか、アスカはお母さんから何も聞いていないんだね。」

「それは、どういうことですか?」

「ゼーレの目的は、人類の滅亡ではない。もっと別の所にあるんだよ。」

「そんなの、嘘です。」

「嘘じゃないよ。むしろ、人類を滅亡に導こうとする者達と戦おうとしているんだ。
私は、そのために長い間戦ってきたんだよ。君のお母さんも一緒にね。」

「そ、そんなこと・・・。」

「信じられないのも、無理は無い。
だが、人類を滅ぼそうとする者達は、アスカが戦ってきた使徒以外にもいるんだよ。
そして、想像を絶する力を持っている。今のままでは、人類は滅亡するしかないんだよ。」

「おじ様、何でそんな嘘をつくんですか。」

「私のことも信じてくれないのかね。そうか、残念だよ。
だが、やむを得まい。アスカ、君は自分の信じるもののために戦うんだ。
私も、私の信じるもののために戦う。
アスカ、君は本当に綺麗になったよ。君と戦う破目になったのは、非常に悲しい。
だが、戦うからには、私は全力で戦う。
では、さらばだ。」

「あっ、おじ様!待って!」

アスカの目には、涙が光っていた。


通信を終えると、カールの元に部下がやって来た。

「将軍、NN爆弾の投下準備は出来ています。初号機へは、いつでも攻撃可能です。」

だが、カールは、しばらく考えた後、作戦の変更を伝えた。

「初号機は、もう動かないだろう。そんなものにNN爆弾を使うのはもったいない。
初号機への攻撃は中止。但し、監視は怠るな。」

「はっ!」

部下は、敬礼すると足早に去って行った。

「あのちっちゃな赤ん坊が、大きくなったなあ。出来れば、死なせたくはないな。」

カールは、アスカのことを思って、シンジに対する攻撃を取り止めた。
カールは、アスカの表情から、シンジを殺せばアスカも後を追って死ぬだろうと考えたのだ。
このため、シンジは命拾いをするのだった。

***

「ちっ、もう駄目か。」

ドイツの傭兵部隊、ワイルドウルフの隊長ウォルフは、唇を噛んだ。
戦闘機の攻撃が激しくなり、エヴァンゲリオンの手助けも期待できない今、
撤退をするかどうかの決断を迫られていた。

だがその時、周りの空間で、急に爆発音が相次いだ。

「な、なんだ、あれは?」

ウォルフが見上げた方向には、大きなロボットらしき機体が浮かんでいた。
トライデント級陸上軽巡洋艦と呼ばれる、戦自の秘密兵器である。

「お父さん、大丈夫?加勢に来たわっ。」

無線から、娘のマリアの声が聞こえてきた。

「マリア、大丈夫なのか?」

「ええ、私が来たからには、安心よ。任せといて。ミサイル、発射!」

その言葉と同時に、100発のミサイルが同時に発射された。
このため、ゼーレの戦闘機は次々に被弾し、墜落していく。
たちまち、周囲から戦闘機が消えてなくなった。

「す、凄い・・・。」

あまりの凄まじい戦闘能力に、ウォルフは目を剥いた。

そして、この時から、戦局は大きく変わった。

***

「トライデント級陸上軽巡洋艦が現れましたっ!」

シゲルの声に、発令所のみんなは、何事かと正面スクリーンを食い入るように見つめた。
そこには、大きなロボットから次々に銃弾とミサイルが発射され、戦闘機が被弾していく光景が映し出されていた。

このロボットは、つい最近、戦自から大枚はたいて購入したもので、全部で3隻あった。
『天竜』にはマリアとケイタが、『海竜』にはマックスとミンメイが、『地竜』にはハウレーンとムサシが乗っていた。

天竜は東方面へ赴き、ワイルドウルフを支援した。
海竜は西方面に向かい、カヲル達を支援した。
地竜は北方面に向かい、ヴァンテアンを支援したのである。

その上、上手いタイミングで、市中心部で待機していたレッドアタッカーズ1個中隊と、
ジャッジマンの部隊1個中隊が北部に現れて、ヴァンテアンと共に反撃を始めたのだ。

天竜と地竜には、それぞれ15機の戦闘ヘリ部隊が付き従い、敵に向かって猛攻撃を加え始めた。
戦闘機は、天竜、地竜、海竜が押さえ、地上部隊は戦闘ヘリ部隊が蹴散らすという
コンビネーションがうまくいき、敵の地上部隊は総崩れになった。

「な、何て威力なの。」

発令所で、ミサトは呆然としていた。
さきほどまで、あれほど苦しめられてきた戦闘機が、一瞬で全機撃墜されたのだから、無理もない。
しかも、ミサトは一度は天竜と同じものを見たはずなのだが、戦闘力がこれほどとは、思いも寄らなかったのだ。

「加持、アンタ知ってたわね。」

我に返ったミサトは、加持を睨み付けた。

「おいおい、何でそんなことを言うんだよ。」

「決まってるでしょ。パイロットのことを知っているのは、アンタぐらいでしょ。
だから、アレのことも知っていたはずよ。」

「おい、葛城。お前、記憶が戻ったのか。」

「えっ!」

「戻ったんだな。そうだな、そうなんだな。」

「あ、わたし・・・。」

「良かった、本当に良かった。」

加持は、ミサトを抱きしめた。

「なっ、何すんのよ。恥ずかしいでしょ。」

だが、加持が喜ぶのも無理はない。
ミサトの記憶は、使徒戦以前のものは概ね戻って来ていたのだが、使徒戦の記憶は、殆どが空白だったからだ。

「良かった、本当に良かった・・・。」

加持に抱きしめられ、息が苦しくなったが、場の雰囲気を壊すために言えなくて困ってしまったミサトであった。

***

「何だ、あれはっ!」

カールは、いつの間にか大声をあげていた。

「そ、それが、正体不明です。」

「ネルフは、あんなものを持っていたのか?」

「そ、そのようです。」

「あいつに、NN爆弾は通じると思うか?」

「はい、通じると思いますが、機動性が高く、命中させるのは困難でしょう。
それに、我が軍の地上部隊を巻き添えにしてしまいます。」

「そうだろうな。まあいい、あいつの正体について調べるんだ。」

「はい、分かりましたっ!」

「それから、我が軍の被害状況を知らせよ。」

「は、はい。戦闘機は、全機撃墜されました。
ネルフの北より攻め込んでいた地上部隊ですが、
オートバイ部隊は、敵のヘリ部隊の攻撃を受けて後退しています。
歩兵部隊も同様に撤退中です。
ネルフの東より攻め込んでいた海兵隊も、同じくヘリ部隊の攻撃を受けて後退中です。」

「まずいな。これでは、打つ手無しだぞ。」

「作戦を中止しますか?」

「そうしたいが、そうもいかないだろう。」

「では、どういたしましょうか?」

「部隊を分散させろ。数では、こちらの方が有利だ。
迂回してもなんでもいいから、とにかくネルフへ侵入しろっ!
後退は許すな、いいなっ!」

「はっ!」

部下は敬礼して下がった。だが、部下が去ると、途端にカールの顔は暗くなった。

「ふう、これが俺の最後の戦いになりそうだな。
あんなバケモンみたいな兵器に、どうやって立ち向かえというんだ。」

カールは、降伏すべきかどうか、真剣に悩んだ。だが、カールにも譲れない理由があった。

「アスカは、ゼウスのことを知らないのだろうか。」

さきほどの通信内容から、アスカはゼウスという言葉自体を知らないらしい。

「このままでは、我ら人類は遠からず滅亡してしまう。
アスカ達、子供に人類の未来を委ねるか、それとも、やはり俺達が戦うか。」

カールは、深く悩むのだった。




次話に続く


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ネルフの迎撃体制について

○発令所

・ゲンドウ、冬月、リツコ、マヤ、シゲル
・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用
              ・加持 :傭兵部隊の指揮

○アスカルーム

・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮、全体の指揮(実質)
・アールコート:アスカのお手伝い

○地上部隊

・東南東 エヴァ第1小隊:シンジ(現場指揮官、小隊長)〜起動不能
     ミンメイ(砲手)、マリア〜撤退
     ワイルドウルフ2個中隊とカルロス中尉ら
     天竜:マリア、ムサシ
・西南西 エヴァ第2小隊:カヲル(小隊長)、サーシャ(砲手)、ミリア
     レッドアタッカーズ1個中隊とリッツ大尉、エドモン中尉ら
     海竜:マックス、ミンメイ
・真北  エヴァ第3小隊:トウジ(小隊長)、ケンスケ(砲手)、ハウレーン〜撤退
     ヴァンテアン1個中隊、レインボースター1個中隊、グエン中尉ら
     レッドアタッカーズ1個中隊、ジャッジマンの部隊1個中隊
     地竜:ハウレーンとムサシ


written by red-x



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