新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第59話 決戦!第3新東京市その9


「動け、動け、動け、動け!動いてよっ!」

エヴァンゲリオンの中で、シンジはなおもエヴァを再起動しようと試みていた。
だが、未だに何の反応もない。

「頼むから、動いてよっ!」

シンジは、涙を流し続けていた。

***

シンジには知る術が無かったが、戦局は一気にネルフに傾いていた。
トライデント級陸上軽巡洋艦は、そもそもが敵の航空戦力や地上部隊と戦うことを想定して作られていたようで、
武装・機動力ともに敵を圧倒していた。

このため、参戦してから5分と経たないうちに、
敵の戦闘機を殆ど撃墜し、爆撃機を追い払い、地上部隊を蹴散らしたのである。

東部では、マリアとムサシの乗る天竜が、敵戦闘機を蹴散らした後、傭兵部隊と連携して地上部隊を追い払っていた。

北部では、ハウレーンとムサシが乗る地竜が、同様に地上部隊を追い払っていた。

西部では、マックスとミンメイが乗る海竜が、必要に応じて東部と北部の敵に攻撃を加えていた。

だが、ゼーレも持てる最後の力を振り絞って戦いを挑んできた。
地上戦力を分散し、退却すると見せかけて転進し、少なからぬ部隊がネルフ本部に接近しつつあったのである。

傭兵部隊の反撃によって、かなりの部隊が撃退されたが、それでも戦力の差は大きかった。
たかだか2千人程度のネルフ傭兵部隊に対して、
ゼーレの地上部隊は北から5千人、東から6千人、合計で1万人を超えていたからである。

だが、ゼーレの部隊も、山間部を移動する間は隠れる場所が多く、うまく攻撃をかわすことが出来たが、
山間部を出たら隠れる場所もなく、攻めあぐねていた。


「カール将軍!駄目ですっ!これ以上接近出来ません!」

部下が悲鳴をあげた。山間部を出た途端に、戦闘ヘリの銃撃が待っている。
それを切り抜けても、傭兵部隊が満を持して待ち構えているのだ。
各部隊からも、ひっきりなしに悲鳴が寄せられる。

「もう、駄目か…。」

カールは肩を落とした。ネルフの勝利は動かないかのように思えた。

***

「今だ、撃てっ!」

命令と同時に、地対空ミサイルがネルフの戦闘ヘリへと向かっていく。
しかし、戦闘ヘリには当たらず、虚しく空中で爆発した。
逆に、戦闘ヘリからの銃撃に追い立てられ、後退せざるを得なくなった。

「やむを得ん。退けッっ!」

小隊長が叫ぶと、兵士達は安心したような表情で後退していく。
市郊外の各所で、同じような光景が起きていた。
ゼーレの部隊は、傭兵部隊や戦闘ヘリに阻まれて、どうしても市内に侵入出来なかった。

「ちくしょう!あいつのせいでっ!」

ゼーレの兵士は、空中に浮かぶ大きなロボットを睨み付けた。
そいつのせいで、戦闘機は全て撃墜され、そのため制空権はネルフの手に渡ってしまったのだ。
制空権を敵に握られた地上部隊ほど、惨めなものはない。それが戦力に勝るゼーレが攻め込めない理由だった。

だが、その時、爆発音がして、そのロボットが墜落していった。

「何っ!一体何が起きたんだ!」

兵士はその時おぼろげながら見た。世界最高の戦闘機と言われる、F-22 RAPTORの雄姿を。

***

「な、何が起きたのよっ!」

ミサトは、呆然とした。
やっとひっくり返した戦局を、50機ほどの戦闘機にひっくり返されたからだ。

「制空権は、敵に奪われたっ!傭兵部隊は、撤退しろっ!急げっ!」

すぐ近くで加持が叫んでいた。
傭兵部隊は、手筈通りに、特殊車両や戦車を手近な建物の中に隠して撤退する。
戦闘ヘリも同様に、ビルの合間に隠れて、敵に分からないように兵装ビルの中に逃げ込んだ。

本来なら敵の戦闘機に狙われるのだが、
そこはカヲル達のエヴァンゲリオン小隊が上手く戦闘機をけん制して、傭兵達のサポートをした。

アスカも、MAGIを駆使して、傭兵達に適切な情報を送り、
エヴァンゲリオン部隊に適切な指示を送っていた。
このため、傭兵部隊には特に被害が出なかった。

「ふう、何とか逃げられたか。」

加持はため息をついた。

「だが、一体何が起きたんだ。」

「F-22 RAPTORが来たのよ。そして、電磁パルス爆弾をお見舞いされたのよ。」

ミサトがげんなりとした顔で答える。それで加持は全てを悟った。
世界最強の戦闘機と言われるF-22 RAPTORは、ステルス性能が高く、スピードもピカ一なので、
気付いた時にはやられているという、とんでもない戦闘機なのだ。

アメリカの空母が沈んだため、もうやって来ないと油断していた隙を衝かれた格好になっていた。

「それはまずいな。で、パイロット達はどうしている?」

「それは大丈夫。アスカが万一のことを考えて、良い脱出装置を装備していたの。」

「そうか、それは良かった。」

加持は胸をなでおろしていた。
もし、ケイタとムサシに何かあったら、マナに顔向け出来ないからだ。

「だが、葛城。一体どうする?」

「今、アスカに対策を考えてもらっているわ。」

ミサトの顔は、焦りを浮かべていた。

***

「惣流さん、全部隊、耐毒ガス装備完了しました。」

アールコートの報告と同時に、アスカはミサイル発射ボタンを押した。

「頼むわよっ!」

アスカが叫ぶと同時に、数十発のミサイルが敵陣めがけて飛んで行った。
ミサイルは、敵部隊の上空で爆発し、猛毒ガスが次々と敵兵士に襲いかかる。
そして、バタバタと敵兵士は倒れていく。

だが、一部の部隊は、耐毒ガス装備をしているらしく、侵攻ペースを落としながらも接近してくる。
その数は、およそ3千人だった。

「ちっ、思ったよりもかなり多いわね。」

アスカは舌打ちした。
実は、この毒ガス攻撃が最後の手段だったのだ。もう、これ以上の策は無い。
だから、この攻撃で敵の数を1、000人以下にしたかったのだ。
このままだと、敵の方が数に勝っていることや、制空権を奪われているため、敵の侵攻を防げないのだ。

「大変ですっ!エヴァンゲリオン部隊がやられましたっ!」

アールコートが悲鳴をあげる。僅かな隙を衝いて、
敵の電磁パルス爆弾がエヴァンゲリオン部隊の至近で爆発したのだ。
これによって、最後の頼みの綱のエヴァンゲリオン部隊は戦力外になってしまった。

「くっ、ここまでのようね。」

アスカは唇を噛みしめた。

***

「どうして、どうして動かないんだよ。」

シンジは、なおも涙を流し続けていた。

「このままじゃ、アスカが死んじゃうよっ!」

だが、インダクションレバーを引いても、何をしても、エヴァは動く気配を見せなかった。

「こんなことなら、アスカを無理やりにでも…。」

実は先日のこと、シンジは最後の一線を越えたいと、強く懇願したのだ。
これに対して、アスカは『20歳までは駄目よ。』と言って断わられたのだ。

だが、シンジもこの時ばかりは
『生き延びられるかどうか分からないじゃないか。だから、お願いだよ、アスカ。』
と、簡単に引き下がらなかったのだ。

これに対し、
『駄目よ。そんなことしたら、アンタは思い残すことが無くなっちゃうじゃない。
今回は必ず生き延びて、さらにあと5年以上生きるのよ。これは、命令よ。
命令を守ったら、ご褒美をあげるわよ。そうすれば、一所懸命戦うでしょ。』
と一蹴されたのだ。

その時、シンジは悩んだ。このまま押し倒してしまおうかと。
だが、そんなことをして、アスカに万一嫌われたりしたらと思うと、恐ろしくて出来なかった。
もっとも、悲しいことだが、アスカには腕力では敵わないという思いもあった。

だから、シンジに出来たことは、恨めしそうな、情けないような顔をして、
アスカの同情を引くことだけだったのだが、その作戦も効果が無かった。

「あ〜あ、僕って情けないや。アスカが言う通り、バカでスケベなのかな。」

だが、シンジは違うと思っていた。
シンジは、アスカとの確かな絆が欲しかったのだ。
単に男の欲望から言い出しただけでは無いのだ。

「あ〜あ、でも失敗だったかな。」

シンジは大きく後悔した。
もうちょっと良い雰囲気に持ち込めたら、
何かアスカが喜ぶようなプレゼントでも送ってから頼んでいたら、
『愛している』というセリフを恥ずかしがらずに言うことが出来たら、
もしかしたら結果は違っていたかもしれないと考えたのだ。

「でも、アスカは確かに言った。『命令を守ったら、ご褒美をあげるわよ。』って。
それなのに、僕はアスカの命令に従わなかったんだ。僕って本当にバカだな。
アスカは、僕が約束を守らないって分かっていたから、断ったんだろうか。」

だが、もしあの時、アスカと最後の一線を越えていたら、自分はアスカの命令を忠実に守り、
敵に対して隙を作らず、今も戦い続けていた可能性が高いとの思いもあった。
確かにアスカのことを愛してはいるが、アスカが自分のことを同じように思っているのか、自信が無かった。
それが、迷いに繋がっていると考えたのだ。

シンジは、自分に自信というものが無かった。
だから、婚約までしたのに、アスカが自分のことを好きかどうか、自信が持てなかったのだ。
それは、アスカが婚約のことを仮初めだと言ったせいもある。

少し考えれば、それがアスカの照れによるものだと分かりそうなものだが、
女心が全く分からないシンジには、理解することが出来なかったのだ。

だが、シンジは急に首を振った。

「駄目だ、こんなことを考えていちゃあ。
今は、エヴァを動かすことだけを考えなくちゃ。
そうしないと、本当にアスカは死んでしまう。それだけは、絶対に嫌だっ!」

シンジは、徒労に終わることが分かってはいたが、なおもエヴァを再起動すべく努力を続けた。
今諦めたら、一生後悔することが分かっていたからだ。

「アスカ、頼むから死なないで。」

シンジは悲壮な顔をしていた。


次話に続く


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ネルフの迎撃体制について

○発令所

・ゲンドウ、冬月、リツコ、マヤ、シゲル
・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用
              ・加持 :傭兵部隊の指揮

○アスカルーム

・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮、全体の指揮(実質)
・アールコート:アスカのお手伝い

○地上部隊

・東南東 エヴァ第1小隊:シンジ(現場指揮官、小隊長)⇒起動不能
     ミンメイ(砲手)、マリア⇒撤退
     ワイルドウルフ2個中隊とカルロス中尉ら⇒撤退
     天竜:マリア、ムサシ⇒撤退
・西南西 エヴァ第2小隊:カヲル(小隊長)、サーシャ(砲手)、ミリア⇒起動不能
     レッドアタッカーズ1個中隊とリッツ大尉、エドモン中尉ら⇒撤退
     海竜:マックス、ミンメイ⇒撤退
・真北  エヴァ第3小隊:トウジ(小隊長)、ケンスケ(砲手)、ハウレーン⇒撤退
     ヴァンテアン1個中隊、レインボースター1個中隊、グエン中尉ら⇒撤退
     レッドアタッカーズ1個中隊、ジャッジマンの部隊1個中隊⇒撤退
     地竜:ハウレーンとムサシ⇒撤退


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