新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第11話 木曜日−その2−


「おい、アサト。どうしたんだよ、元気ないぞ。」

俺が一人でたそがれていたら、ショウが寄ってきた。

「ああ、ちょっとな。財布の中身が軽くなりそうなんだ。」

俺は、そう言いながらため息をついた。

「なんだ、そんなことか。」

「なんだとは、なんだ。俺にとっては重要なことなんだぞ。」

そう、小遣いのやり繰りにヒイヒイいってる俺にとっては、僅かなお金でも貴重なんだ。

「でもよお、アサトは一杯小遣いもらっているんだろ?」

「そんなことはないぞ。」

「嘘だろ?だって、お前の家は大金持ちなんだろ。」

「親が金持ちでも、俺には関係ない。それが我が家の方針なんだ。俺だけでなく、妹達だ
って、家の手伝いを何もしなければ、1円だって小遣いをもらえないんだ。お金をもらう
ためには必ず労働する、それが我が家の方針なんだ。」

「げっ!お前の家って厳しいんだなあ。でもよお、一体幾らもらっているんだ?」

「そうだなあ、平均すると月千円位かな。」

おっと。これは嘘じゃないんだ。本当なんだ。だから、ケイにプレゼントなんかしたら、
俺のなけなしの小遣いが吹っ飛んじゃうっていう訳さ。

「嘘だろ!それじゃあ、何も出来ないじゃないか。幾らなんでも少な過ぎるぜ。」

「そうだろ、そう思うよな。だからよお、恋人が出来てもデートすら出来ないんだよな、
今のままじゃ。だからよお、小遣いの値上げ交渉をしているんだけど、母さんは首を縦に
振らないんだよなあ。」

「けどよお、保育園の帰りの夕食、みんなお前が払っているだろう。あのお金はどっから
出てるんだよ。」

「あれは、お小遣いとは別勘定だ。だから、お金は母さんから出ている。」

そう。母さんは、使い道がはっきりしている時のみお金を渡してくれる。もちろん、レシ
ートなり領収書なりを後で見せる必要があるんだがな。だから、ごまかしはきかないんだ。
もっとも、嘘がばれたら大変なことになるから、母さんを騙す気はさらさらないがな。

「へえっ、そうだったのか。てっきり、お前の小遣いから出ていると思っていたんだがな。
そうか、アサトのおばさんの金か。」

「そうだ。だから、女の子とのデートで奢りたくても、俺にはそんな金は無い。映画すら
見に行く金すらな。」

うううっ、そうだよ。何て俺は不幸なんだ。

「そうか、お前も苦労しているんだな。」

「そうなんだ。分かってくれるか。」

そう、俺に彼女が出来ないのは、小遣いが少ないのも理由の一つだ。なんせ、女の子をデ
ートに誘おうにも先立つものが無いから、誘うことも出来やしない。

「あ〜あ、デート代を全部払ってくれる女の子っていないかな。」

俺が何気なくそう呟くと、何と返事があった。

「いるよ、いるいる。アサトとデート出来るなら、デート代を全部払ってもいいっていう
女の子なんて、たくさんいるわよ。」

俺が驚いて振り向くと、声の主はシノブだった。

「え〜っ、本当かよ?嘘じゃねえのか。」

「嘘じゃないわよ。アサトったら、自分がもてるって気付いていないの。」

「まあ、そりゃあ普通の男よりはもてるとは思うけどな。自腹を切ってまで、デートした
いなんて思う女の子がいるとは思えないな。」

「へえっ、それじゃあ賭ける?もちろん、わたしはいる方に賭けるわよ。」

「じゃあ、俺はいない方だ。で、何を賭けるんだ。」

「そうねえ。こういうのはどう。負けた方は裸にされたうえに、1時間勝った方に好き放
題されるっていうのはどう?」

うっ、何てことを言いやがる。俺が勝った時のことを考えると、とっても魅力的な条件だ
が、シノブがそこまで言うなら、きっと勝算があるんだろうな。シノブの奴、凄い自信だ
な。こりゃあ、少し弱気になっておいた方が良さそうだな。

「それは少し行き過ぎだな。仮に俺が勝っても、母さんにばれるのが怖いから、そんなこ
と出来ないじゃないか。そうなると、俺には勝ってもメリットが無いぞ。」

「確かにそうね。じゃあ、こういうのはどう?勝った方は、負けた方に5回デートするこ
とを命じることが出来るの。もちろん、相手は勝った方が選ぶのよ。」

「ええっ、そんなことを言われても、デート代なんかねえよ。」

「じゃあ、お金のかからないデート、例えばショッピングに付き合ったり、公園なんかを
歩いたりするようなデートならいいでしょ。」

「まあな。金がかからなければいいや。」

「じゃあ、賭は成立ね。」

「でもよお、どうやって確かめるんだよ。」

「今度の土曜日までに、相手を見つけるわよ。その相手とデートして、アサトが1円も使
わなければわたしの勝ち。相手がアサトにお金を払うように言ってきたら、わたしの負け。
もちろん、アサトがお金を払ったら、その分はわたしが持つわ。だから、アサトは1円も
損しないっていう訳。それでいいわよね。」

「ああ、それならいいぜ。」

「ラッキー!確かに賭は成立したからね。取り下げは禁止よ、いいわね。取り下げしたら、
負けた時と同じで、5回デートよ。」

「ああ、構わない。」

「それじゃあ、早速相手を探してくるわ。」

シノブはそう言うと、足早に去って行った。

「おい、アサト。あんな賭をしても平気なのかよ。」

シノブの姿が消えると、それまで黙っていたショウが、口を開いた。

「ああ、問題ない。俺は損しないし、ただでデートが出来る。」

「お前なあ、本当に自分のことが分かっていないなあ。賭は間違いなくシノブが勝つぜ。
お金は全部自分持ちでもいいからお前とデートしたいっていう子は、たくさんいるんだぜ。
シノブも、もう勝った気でいるぞ。」

「そうかもな。でも、俺には損はないさ。それにな、デートの時に物凄く金がかかるよう
な場所へ行くんだ。そうすりゃあ、相手の女の子が払えないって言い出すに決まってるさ。
そうすりゃあ、俺の勝ちだ。」

「でもよお、万一負けたらどうするんだよ。知らない女の子とデートさせられてもいいの
かよ。」

「全然構わないぜ。よっぽど性格が悪いなら別だがな。まあ、そうは言っても明るくて、
話題が豊富な女の子がいいがな。」

「でもよお、全然可愛いくない女が来たらどうするよ。」

「全然問題ない。母さんやアサミ達と比べたら、みんなイマイチだしな。バケモノじみた
顔をしてれば話は別だが、顔については気にしないさ。それより、問題は性格だな。」

「そうだよな。お前って、女の子については、顔の善し悪しは関係ないもんな。可愛い子
でもひいきしないし、可愛くない女に対しても、優しいもんな。だから、お前ってもてる
んだよな。」

「ふうん、そんなもんか。」

まあ、母さんやアサミが月なら、他の女はスッポンだからな。だから俺は昔から顔の善し
悪しで女の子を差別したりしていない。別に俺の性格が良い訳じゃなくって、母さん達と
比べるとどうしても見劣りするもんだから、顔の善し悪しについては意識して気にしない
ようにしているだけなんだ。

「ああ、羨ましいぜ。お前の家族は、みんな外見はいいし、相手はよりどりみどりだもん
な。」

「そんなことはないぞ。サキのおばさんから聞いた話だが、母さんは一人の男を他の女性
と取り合ったことがあったらしい。」

「へえっ、初耳だな。相手はどんな人なんだ。」

「男については分からん。だが、取り合った女性は、綾波アイちゃんのおばさんと、霧島
レイナちゃんのおばさんだそうだ。その結果、母さんは負けたんだ。」

「…そうだったんだ。」

「そうさ。それで母さんは自棄になんて、あんなことに…。」

そこまで言って、俺は俯いた。完璧で、素晴らしい女性である母さんだが、選んだ男が悪
かったんだろう。綾波のおばさんも霧島のおばさんも、確かに素晴らしい女性だが、母さ
んには敵わないはずだ。それなのに、相手の男は母さんを選ばなかったんだ。

結局、その男がどちらのおばさんを選んだのかは聞いていない。いや、聞けなかったんだ。
もし、その男が誰なのか知ってしまったら、俺はその男を殴り倒してしまうだろう。だが、
そんなことをして悲しむのは母さんなんだ。だから、俺はあえてその件については知ろう
としていない。

でも、これだけは分かる。失恋して自棄になった母さんの不幸は、その時に始まったんだ。
そして、父親のことを何も知らされていない、俺達兄妹の不幸も。俺は、ミカやミライ
の父親が、俺やアサミの父親と同じなのか、それすら知らない。もしかすると、父親がみ
んな別だってこともあり得るんだ。

「おい、元気だせよ…。」

「ああ、ありがとな…。」

ガックリ落ち込んだ俺を、ショウは励ましてくれた。だが、俺の悩みは深い。


次話に続く

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written by red-x


マナ:デート代かぁ、なにかと物入りなのよね。

アスカ:デート代は、やっぱ男持ちでしょ。

マナ:そうとも限らないんじゃない?

アスカ:そりゃぁ、シンジとデートだったら。でも、やっぱ、出して欲しい時もあるじゃん。

マナ:割り勘が1番だけど、出してくれたらなんか嬉しいわよね。

アスカ:そしたら、お返しに、手料理プレゼントしちゃうもん。

マナ:それは・・・やめたほうが。

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