新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第12話 木曜日−その3−


「ふうっ、今日は特に疲れたな。」

俺は思わず呟いていた。今日の俺は元気が無かったせいか、かなり疲れていた。保育園が
終わった後、いつものファミレスで食事をしていたんだが、俺は、深いため息をついた。

「どうしたの、アサト。元気ないじゃん。」
「そうだよ、アサトらしくないよ。」

シノブやアケミが心配そうな顔をして言う。う〜ん、優しい女の子っていいなあ。

「大丈夫だ。ちょっと疲れただけで、問題ない。心配しないでくれ。」

なんてな。俺も男だから少し見栄を張る。

「本当に大丈夫なの?」

シノブはまだ心配そうな顔をしている。だが、他の女どもは安心したようだ。

「いいじゃん、アサトが大丈夫だって言ってるんだから。それよりさあ、今度の土日にみ
んなでどっか遊びに行かない?」

「あっ、それいい。」
「そうだよ、アサト。ぱあっと遊んで、疲れなんて吹っ飛ばそうよ。」

なんて、勝手に盛り上がってやがる。まあ、俺も何も用事が無ければいいんだがな。

「わりい。今度の土日は、俺は都合が悪いんだ。」

俺は残念ながら、そう言うしかなかった。

「ええっ!ショック!」
「何の用なのよ。もしかして、デート?」
「ちょっと〜っ。理由を教えてよね。」

なんて、女どもは勝手なことを言いまくる。ちらりとシノブを見ると、笑顔が少し引きつ
っているようだ。いちいち説明するのは面倒だから、俺は本当のことを言うことにした。

「ああ、デートだ。」

「「「「ええーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」」

途端に、女どもの大音響が響きわたった。

「妹とな。」

続く俺の言葉に、一瞬にして声は収まった。

「な〜んだ。びっくりさせないでよね。」
「そうそう。アサトも人が悪いわね。」
「心臓が止まるかと思ったわ。」

おいおい、何を勝手なことを言いやがる。だいたい、それくらいで止まる心臓って、一体
なんなんだ。まあ、そんなのどうでもいいけどな。

「正確には、土曜日は妹と買い物。日曜日は、妹が出る試合の観戦だ。」

俺は、ぶっきらぼうに言った。

「へ〜っ。アサトの妹さんて、何やってるの。」

サナエが興味ありげに聞いてきた。だが、俺は冷たく答えた。あんまり知られたくないか
らだ。

「秘密だ。」

「ちぇっ、ケチ。」

サナエは、頬を膨らませた。

「だって、言ったらみんな来るかもしれないだろ。だから言わない。」

そう、今度の試合は、ばあちゃんが来ることになっているから、俺は知ってる女どもには
来て欲しくないんだ。

「ふ〜んだ。良く分かってるじゃない。あ〜あ、アサトの妹さんの試合っていうの、見た
かったな。ねえ、アケミもそう思わない?」

「う〜ん、そうしたいんだけど。私も妹の試合の応援に行くことになってんのよ。だから、
残念ながらパスするしかないわねえ。」

「そうか。アケミの妹って、サッカーの選手なんだっけ。」

げっ、本当かよ。まずいな。どうか、同じ会場でありませんように。

「そうなのよね。で、今度の日曜日は今年度初の公式戦だから、張り切ってるのよ。」

「で、なあに。アケミの妹って、レギュラーなの?」

「うん、今年からね。」

「へえっ、凄いわねえ。アケミの妹って、まだ4年生でしょ。それなのに6年生と一緒に
試合するわけ?」

「まあね。でも、そんなに凄いことじゃないみたいだけど。まだまだ女子でサッカーをや
る人は少ないから、全員が6年生っていうチームは珍しいみたいだし。」

「そういや、あのピー子も3年生でレギュラーだったわね。あはははっ。」

そうやって、アケミとサナエが二人で盛り上がっている時に、いきなりシノブが話しに割
り込んだんだ。

「あ、あのさあ。夏休みにどっか行こうよ。」

「どうしたの?いきなり。いきなり話を変えないでよね。」

アケミは少しむっとしたようだ。

「そうそう。これからが面白いんだから。そのピー子って、傑作なのよ。凄いへたっぴー
なのに、レギュラーなのよね。笑っちゃうわ。」

「ああ、あのピー子ね。あんなにへったくそなのに、良くサッカーをやめないわね。」

ナオミも話しに加わってきた。ん、どうしたんだろう、シノブの奴。顔が青いような。

「アケミと一緒に試合を見に行ったことがあるんだけどさ、ピー子って本当にトロくさい
のよね。グズで、ドジで、ノロマで、サッカーなんてやめて、とっとと帰れっていう感じ。
それがさあ、試合に負けたらいっちょまえに大泣きしてんのよ。笑っちゃうわ。」

「ああ、あの試合ね。信じられないわよね、サッカーで35対0なんて試合。普通だった
ら、恥ずかしくて二度とサッカーなんて出来ないわよね。それなのに、未だにサッカーし
てるなんて、恥ずかしくないのかしら。」

「そうそう。髪の毛も染めちゃってさあ。小学生のくせに、生意気よねえ。今度、フクロ
にしようか。」

そうか、俺は何でシノブの顔が青いのか、ようやく理由が分かった。

「バカ、やめなよ。うちの妹が迷惑するからやめてよね。」

アケミは、嫌そうな顔をした。

「冗談に決まってるでしょ。でもさあ、あんなグズな子珍しいわよね。親の顔が見たいわ
よね。」

「きょうだいとかいたりしてね。」

「いても、同じ位グズでドジだったりね。あんな子のきょうだいだから、似たり寄ったり
でしょ、きっと。」

「あはははっ、違いない。」

「でも、いるんなら見てみたいわよね。」

その時、アケミが異変に気付いた。

「あれ、シノブ。さっきから変よ。どうしたの、真っ青じゃない。」

「う、うん。なんでもないよ。」

「あれえ、シノブ。まさか、アンタの妹だったりしてえ。」

「ううん、違うよ。」

「だよね。でもさあ、あんなドジな子が妹だったら、恥ずかしいわよねえ。」

「ホント。さいて〜っていう感じ。」

その時、シノブが慌ててコップを倒した。

「どうしたのよ、シノブ。」
「アンタ、本当に大丈夫?」

「う、うん。平気。」

だが、俺はシノブに聞きたいことがあった。

「おい、シノブ。聞きたいことがある。正直に言え。」

「えっ、な、なあに?」

シノブの声は震えていた。

「そのピー子は、お前の知ってる子だな。」

「う、うん。」

シノブの頬に、冷や汗が流れるのが見えた。だが、女どもは気付かなかったようだ。シノ
ブにピー子が誰かの妹なのか、聞き出そうとした。

「ねえねえ、その子にきょうだいがいるの?」
「知ってる子?」
「ねえねえ、教えてよ。」

だが、シノブは困った顔をした。だから、俺は助け船を出した。

「おい、シノブ。ピー子の姉は、俺のクラスにいるな。」

「う、うん。」

「その姉は、凄い美人だな。」

「う、うん。」

「へえっ、一体誰よ。」
「教えてよ。」
「ピー子も美人になるんだ。へえっ。」

くっ。こいつら、まだ気付かないのか。

「俺が教えてやる。ピー子の姉は、お前らも知ってるだろう。アサミだ。」

「「「えっ?!」」」

その瞬間、その場の全員が凍りついたように動かなくなった。

***

「アサト、ごめんね。気を悪くしたでしょ。」

「まあな。」

「アサト、許してあげて。アケミ達も悪気があった訳じゃないのよ。」

「それがどうした。」

俺は、シノブを思いっきり睨み付けた。

「うっ。どうもしない。」

「もう、その話はするな。胸くそ悪くなる。」

「うん、分かったよ、アサト。」

シノブはそれ以上は言わなかった。俺がどれだけ怒っているのか分かっているからだろう。

そうそう、今は家に帰る途中だ。あの後、俺が女どもを思いっきり睨み付けたら、アケミ、
サナエ、ナオミの3人とも泣きだしやがったんだ。なんだよ、それ。まるで俺が悪者みた
いじゃないか。ふざけんじゃねえよ。

余計に腹が立った俺は、さらに睨み付けたんだ。そうしたら、3人ともお漏らししやがっ
たんだ。ふん、ざまあみやがれ。

「アサト、シノブに当たるなよな。可哀相だろ。」

今度は、ショウが口を出して来やがった。

「ふん、当たってねえよ。余計な口出しする奴が悪い。」

「気持ちは分かるが、機嫌直せよ。そうしないと、今日の話がお前のおばさんかミライち
ゃんの耳に入るぞ。それでもいいのか?」

うっ、そりゃあまずい。女の子を泣かしてお漏らしさせたなんてことが母さんの耳に入っ
たら、俺はとんでもない目に遭うし、ミライが今日の話を聞いたら、大泣きするかもしれ
ない。そりゃあまずいな。俺は頭を醒ますことにした。

「分かったよ、お前の言う通りだ。」

さすがはショウ。俺の怒りを静めてくれたぜ。持つべき者は親友だよな。



次話に続く

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あとがき


 ミライが、アサトの妹だと知らずに悪口を言ったアケミ達は、アサトの怒りを買います。
口は災いの元ですね。



written by red-x
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