新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第18話 土曜日−その1−


「たっだいまあ〜っ!」

俺が、朝早くから昨日の映画を見ていると、大きな声が聞こえてきた。まずいっ!俺は、
映画を止めようと思ってリモコンを探したんだけど、焦っていたせいかなかなか見つから
なかった。そうしたら…。

「アサトちゃあ〜ん!たっだいまあ〜っ!」

ドアを開けて、凄い勢いでばあちゃんが俺に抱きついてきた。

「お、おかえりなさい…。」

ばあちゃんと言おうとして、俺は言うのを止めた。そう、ばあちゃんと言ってはいけない
のだ。

「お、おかえりなさい、キョウコちゃん…。」

ううっ、何が悲しくてばあちゃんのことをこう呼ばなきゃいけないんだよ。でも、言わな
いとばあちゃんが泣きそうな顔をするから、しょうがねえよな。でも、ほっぺたをすりす
りするのは止めてほしいんだけどな。俺、もう中学生なんだけど…。

「おかあさん、待ってくださいよ。」

そこにお邪魔虫がやって来た。この家の居候だ。そいつは、俺の見ていた映画を見ると、
何故か笑いだした。

「へえっ、懐かしい映画だなあ。一体、どうやって手に入れたんだ?ねえ〜、アスカ。ちょ
っと来てよ〜。」

居候に呼ばれた母さんは、すぐにやって来た。

「なによお〜っ。朝っぱらからっ。あっ、ママ。お帰りなさい。」

母さんは一瞬真面目な顔をしたが、映画を見たら顔が緩んだ。

「へえっ、こりゃあ懐かしいわねえ。アサト、一体どうやって手に入れたのよ。」

「ショウが親戚から手に入れて、それをコピーしてもらったんだ。」

「ふうん。でも恥ずかしいわねえ。アタシとシンジのキスシーンが何回もあるのよね。ね
え、シンジ。」

へっ?母さんは、今何を言ったんだ。それに、何で居候の方を見るんだよ。

「か、母さんがキスしたのは、碇シンジだよな…。」

「あったり前でしょ。アタシは、このシンジ以外とはキスしたことないわよ。」

そう言って、母さんは居候の方を見る。俺は頭がパニックになりそうだった。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。碇シンジって、とっくの昔に死んだんだよな。」

「なあに言ってるのよ。公式にはそうだけど、今、アンタの目の前にいるじゃない。」

「ええっ!」

俺は、目の前が真っ暗になりそうだった。

***

「ひいっ、おかしいっ!ぎゃははははっ!」

俺の話を聞いて、母さんは笑い転げている。ばあちゃんも腹を抱えてのたうち回っている。
居候−じゃなかった、父さん。実は碇シンジらしいが−は苦笑いをしている。

「アンタ、ミサトの話を鵜呑みにしたって訳なの?シンジが本当の親じゃ無いって?」

「そ、そうだよ。だって、しょうがないじゃないか。家族で父さんに似ている人はいない
し、母さんは父さんをこき使ってばかりいるし。父さんって、本当に居候みたいな扱いじ
ゃないか。母さんとは、あんまり仲が良さそうに見えないし。」

俺は、精一杯の言い訳をした。

「アスカ、何か言うことある?」

父さんは、母さんを少しキツイ目で見つめる。ちょっと怒っているみたいだ。

「やっぱり、アスカが原因だったのね。アサトちゃんは悪くないわ。」

うんうん、ばあちゃんは、いつも俺の味方だ。

「え、ええっ。アタシが悪いって言うの?だって、シンジだって賛成したじゃない。子供
の前でイチャイチャするのは教育上良くないって。」

母さんは真っ赤になって反論する。すると、居候−じゃなかった。父さん−は、それ以上
母さんを責めるようなことはせずに、矛先を変えてきた。

「そりゃあ、そうだけど。でも、アサトも悪いよ。『うちのパパとママは、毎朝いっぱい
キスしてるんだよ。』って近所に言いふらすから。それが原因じゃないか。」

父さんも真っ赤だ。でも、そもそもの原因は俺にあったのか。う〜ん、参ったなあ。

「「やっぱり、アサトが悪い!」」

あ〜あ、父さんと母さんの意見が一致しちゃったよ。トホホホホ。でも、風向きが悪くな
る前に、強引に話を変えなきゃ。

「で、でもさ、この映画って凄いよね。ラブシーンも迫真の演技だったし、使徒っていう
のも本物みたいだったし、セイレーンの歌も入っているし。ねえ、どうやってセイレーン
と交渉したのさ。」

そう言ったら、母さんはケラケラ笑った。

「何を言ってるの。セイレーンって、アタシのことよ。」

「「「ええっ!!!」」」

これには、父さんやばあちゃんも驚いたみたいだった。あのトップシンガーのセイレーン
が母さんだったなんて、母さんはやっぱりただ者じゃなかった。

***

「ふうっ、助かったよミライ。」

あれから30分後、俺はミライと駅前に向かっていた。母さんと父さんに責められていた
俺を、ミライが助けてくれたんだ。

「何言ってるのよ、アサト。前々からの約束でしょ。まったく、もうっ!忘れてたんでし
ょ?」

ミライの頬は少し膨らんでいる。

「い、いや。そんなことないぞ。」

少し訂正。今日はミライの買い物に付き合う予定だったんだ。だから、ミライが遅いって
言って、俺を半ば強引に連れ出してくれたんだ。もちろん俺は大助かりさ。えっ、本当に
約束を忘れていたのかって?そ、そんなことないぞ。

「ふうん、どうだか。」

ミライは不信感をあらわにしている。

「まあ、でもミライのおかげで助かったぜ。あのまま、母さん達に笑われ続けるのも嫌だ
ったからな。」

「ふうん、何があったのか、後で教えてよね。あっ、マキ達が待ってるわ。」

駅前には、4人の美人姉妹が待っていた。

「「「「おはようございま〜す。」」」」

綺麗な、透き通るような声が揃う。うん、いいなあ。もちろん、俺達もあいさつを返す。

「「おはようっ!」」

そして、町へ買い物に繰り出した。

***

「ねえねえ、これがいいんじゃない?」

「こっちの方がいいよ。」

「こっちも捨てがたいよね。」

ミライは、最近サッカーを始めた同じクラスのマキ、その姉サヤカと妹のヒトミと共に、
明日の試合に備えた買い物に来ていた。そして、きゃあきゃあ言いながら品定めをしてい
た。長女のケイは付き添い兼お財布係で、俺と一緒に少し離れたところで見守っている。

「明日がサヤカ達初の公式戦ね。頑張ってほしいわ。でも、それ以前に試合に出られるの
かなあ。」

「なあに、大丈夫さ。明日は3試合もあるんだし。最低1試合には出られるさ。ヒトミち
ゃんは3年生だから難しいかもしれないけどな。」

「でも、試合になるのかなあ。せめて、1点くらいは返してほしいなあ。」

「大丈夫だって。俺が保証する。今年のチームは去年までのチームとは別物だぜ。かなり
いい試合をするって。」

そりゃあ、確かに去年は弱かったさ。公式戦では1点も入れられなかったし、平均失点が
10点以上だったし。でもな、今年は本当に強いチームになったんだぜ。

「アサトがそこまで言うなら信じるけど。でもね、実は未だに明日応援に行くかどうか迷
っているんだ。」

げっ。本当かよ。行かない方が本当は嬉しいけど、そんなことは言えないしな。ばあちゃ
んが俺に頬ずりするとこなんか、知ってる人には絶対に見られたくないないんだ。でも、
そうも言ってられねえな。

「そうだ、ちょっとこっちに来いよ。」

俺は、そう言ってケイを連れて別の店に入った。アサミに言われたことを思い出したんだ。

「あのさ、これなんかケイに似合うと思うんだけど、どうかな。」

俺は、十字架のペンダントをケイに見せた。サキのおばさんがつけているやつと似ていて、
結構気に入ったんだ。それに、凄く安いのがいい。

「うん、いいんじゃない。」

ケイは、なぜかとびっきりの笑顔を浮かべた。なんでだろう。でも、まっ、いいか。

「気に入ったか?よし。」

俺はすかさずペンダントをつかんでレジへと向かい、そのペンダントを買った。

「あっ、あのっ。」

戸惑うケイに、俺はペンダントを差し出した。

「今買ったからさ、つけてみろよ。」

「えっ、そっ、そんな、悪いよ。」

「いいって、ほら。」

「うん、それじゃ。あ、ありがとね。」

ケイは最初は渋っていたけど、結局ペンダントを受けとって身につけた。

「おっ、なかなか似合うじゃん。」

「そ、そうかな。」

なぜかケイの顔は赤くなった。なんだ、こいつ。熱でもあるのかな。まあ、いいや。言う
ことを言っとかないと。

「妹さん達をミライのサッカーチームに入れてくれたお礼さ。それと、明日の試合の応援
であんまりケイの相手を出来ないかもしれないから、そのお詫びな。その代わり、絶対に
応援に行くんだぞ。その方が妹さん達が喜ぶからな。」

「うん、分かった。明日は絶対に応援に行くよ。」

ケイは、はち切れんばかりの笑顔で言った。まずい。こいつったら、このペンダントが高
価なものだと勘違いしてるんじゃないだろうな。

「ああ、頼むよ。でも、悪いな。こんな安物のペンダントで。」

よし、安物だって言ったぞ。確かに言ったぞ。絶対に言ったぞ。

「ううん、本当に嬉しい。このペンダント、宝物にするね。」

げっ、こいつったら全然分かってないじゃないか。それは安物なんだぞ。宝物にするよう
な高価なものじゃないんだぞ。俺は、頭を抱えたくなった。


 
次話に続く

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あとがき

 ようやくシンジが登場しました。シンジが死んだとされたのは、ネルフお得意の情報操
作ですね。えっ、アサトとシンジが全然似ていないって?確かに外見は似ていませんが、
アスカに逆らえないところや女心に鈍感なところはしっかり遺伝しています。ケイがなん
でペンダントを宝物にすると言ったのか、アサトは全然分からないようですし。
 ちなみに、アスカのママ、キョウコはサードインパクトの数年後に、弐号機からサルベ
ージされて健在です。このため、キョウコ、アスカ、シンジ、アサト、アサミ、ミカ、ミ
ライの7人で一緒に暮らしています。


written by red-x
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