新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第22話 土曜日−その5−


「ううっ、参ったあっ。」

風呂から出た俺は、心身共に疲れ切っていた。えっ、風呂の中で一体なにがあったのかっ
て?そんなこと、絶対に他人には言えないさ。母さんとばあちゃんとシノブにいいように
されて、死ぬほど恥ずかしい目に遭ったんだ。

唯一の救いは、妹達が寝ていたこと。俺が醜態を晒しているところを見られなくてすんだ。
そういやアサミは笑って見ていたけど、助けてくれなかったな。結構冷たいよな。

「はあっ、さっきのことはさっさと忘れよう。」

俺は着替えて寝ようとしていたら、母さんがタオル1枚だけの悩ましい姿で現れた。母さ
んがそんな格好するから、俺は前かがみになっちゃうじゃないか。でも、母さんは気付か
ず言った。

「ねえ、アサト。今日、シノブちゃんは泊まるから。よろしくね。」

「ああ、分かったよ。」

まあ、そうなるだろうな。今から帰ったら、シノブの家族の目を覚ますもんな。

「寝るのは、アサトの隣だからね。でも、変なことをしちゃ駄目よ。」

「するわけないだろ。」

妹達が寝ている部屋で、変なことなんて出来るわけがない。ちなみに、今も小声で話して
いるし電気も暗くしている。

「でも、心配だからアサミを監視役にするからね。証拠ビデオも撮影するから。エッチな
ことをしてもいいけど、全部後で明るみに出るからね。」

げっ、冗談じゃねえ。でも、そんなこと言えないしな。俺は、思っていることと違うこと
を言うしかなかった。

「ああ、いいよ。何もする気はないからな。」

「あっ、そうだ。シノブちゃん『も』裸で寝るんだって。良かったわねえ。」

なんだよ、その、『も』って。ふん、どうせ俺をからかって言ってるに違いない。そんな
手にはひっかからないぞ。

「そ、それがどうしたんだよ。」

「ううん、別に。まあ、変なことはしないようにね。」

母さんは笑って出て行った。入れ替わりにシノブがやって来た。さっきの母さんと同じ格
好だ。でも、母さんと比べちゃ悪いとは思うが、色気が全然違う。

「アサト、さっきは調子に乗ってごめんね。」

シノブは口を開くなり謝った。今更謝られてもなあ。でもまあ、シノブだからいいか。

「いいよ、もう気にしてねえよ。」

「良かったあ。で、どうしようか。実は、私も寝る時は裸なんだけど。」

えっ、私もって。あっ、そういや俺って、寝る時は裸だって嘘を言ってたんだっけ。こり
ゃあまずいかなあ。でも、今更嘘でしたなんて言えないし。

「ま、まあ、俺のことは気にするなよ。好きにしろよ。いつも通りにすればいいんじゃな
いか。」

「うん、じゃあそうするね。ちょっとあっちを向いてて。」

「ああ。」

俺がシノブに背を向けていると、シノブはごそごそしだしたが、すぐに静かになった。

「もういいよ。こっち向いて。」

「ああ。」

俺が振り向くと、シノブは既に布団の中に入っていた。3つ並んでいる布団の一番端だ。
布団から顔だけ出している。も、もしかして、既に裸になっているんじゃないだろうな。
おいおい、俺は冗談かと思っていたのに。でも、少し興奮するな。

「アサトは真ん中で寝なよ。」

「ああ。」

俺はシノブの言う通りに真ん中の布団に入ると、布団の中で下着を脱ごうとして思いとど
まった。やっぱりこの状況で裸になるのはまずい。シノブには、脱ぐのを忘れたって言お
う。そう思いなおして上はTシャツ、下はトランクスにパジャマの状態のまま寝ることに
した。するとアサミがやって来た。

「あれえ、二人とも横になってるの。それじゃあ、私も寝ようかしら。」

「ああ。」

「でもさ、3人で昔話でもしない?」

シノブの提案に、俺もアサミも異論は無かった。そして、俺達3人は昔話に話が弾んで、
結構夜更かししてしまった。

***

「うっ。何か重い。」

俺は夜中に目を覚ました。何だか、腕が重くて動かないんだ。

「ま、まさか。」

俺は、右を見た。すると、アサミの横顔が真近にあった。そうか、だから右腕が動かない
のか。

「じゃ、じゃあ。」

俺は左を見た。すると、シノブの顔が真近にあった。どうやら、俺は二人の腕枕をしてい
るらしい。だが、どうもそれだけじゃなさそうなんだ。体の左側がなんだかあったかいん
だ。

「ま、まさか。」

俺は、左足を上げようとした。だが、上がらなかった。

「一体、何がどうなってるんだ。」

俺は、深呼吸して気を落ち着かせた。そして、改めて自分の身に何が起きているのか考え
てみた。いわゆる現状分析というやつだ。

左腕が上がらないのは、シノブの頭が乗っかっているからだ。
シノブの顔がこっちを向いているのは、シノブの体が横になっているからだ。
右胸の上に何かが乗っているが、おそらくシノブの左手だろう。
左胸に何かが触れているが、おそらくシノブの胸だろう。
左の太股に乗っかっているのは、シノブの左の太股だろう。

分かった。シノブは、俺にしがみついて寝ているんだ。それも裸で。しかも、俺もいつの
間にかトランクス以外は何も身に着けていない。

「ま、まずいっ。」

俺は慌てた。こんなところを妹達に見られたら大騒ぎになるし、みんなに言い触らされて
しまう。

「おい、起きろよ、シノブ。」

俺は、小声でシノブに呼びかけた。そして、何度か呼ぶうちにシノブが目を覚ましたよう
だ。

「う〜ん、何よ。」

「おい、シノブ。俺だ、アサトだ。お前、なんて格好で寝ているんだよ。早く俺から離れ
ろよ。」

「え〜っ、なんでよ。せっかくあったかいのに。」

「だって、まずいだろ。俺とお前が裸で抱き合っているのを見られたら、母さんや妹達に
何て言われるか。」

「じゃあ、何も言われなかったらいいの?」

「うっ。ま、まあ、そうかもな。」

「じゃあ、アサトはこの状態が嫌ではないのね。」

「まあ、正直そうだな。」

「じゃあ、問題ないじゃん。お休み。」

「おい、だからそれは困るって。」

「大丈夫よ。ミカちゃんやミライちゃんよりも早く起きるから。それならいいでしょ。」

「そんなこと言って、大丈夫なのかよ。」

「大丈夫よ〜っ。」

「でもなあ。」

「…。」

あっ、こいつ、寝やがった。おい、起きろよ。俺はシノブを揺さぶったが、もうシノブは
起きなかった。

「嬉しいけど、明日が怖いな。頼むぜシノブ。明日は早起きしてくれよ。」

俺は、祈るような気持ちだった。


 
次話に続く

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あとがき


 お風呂で一体何があったのでしょうか。それは皆さんの想像に任せます。 


written by red-x
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