新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第1部 婚約に至る道

(アスカがこれからもずっと、せめて今日位に優しいといいんだけどな。
そうすれば、僕も余計な苦労が減るし。
明日もアスカが素直になってくれたら嬉しいな。)


第4話 素直になれたら


「シンジ〜、どうしようか。アタシのぼせちゃって、体を拭けそうにないの。
でも、シンジはアタシの体を拭くなんていやだよね。どうしようかな。」

(え、ア、アスカは何言っているの。アスカの体を拭く。え〜っ!)
シンジは、一瞬固まってしまったが、アスカが悲しそうな顔をしているのに気がついた。

(本当は、アスカも嫌なのに、他に方法が無くて僕に頼んでいるんだ。
それなのに、僕が逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ…。)
シンジは自分にそう言い聞かせると、勇気を振り絞って言った。

「う〜ん、いいとは言えないけど、アスカが風邪ひくかもしれないから、出来ることなら手伝うよ。」
(逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。)

シンジがそう言うと、アスカは少し嬉しそうな顔をした。
そして、少し顔を赤らめながら小さな声で言った。

「そう、じゃあ悪いけど、アタシを湯船から持ち上げたら、そこに腰掛けさせて。」

「うん。」
シンジはアスカの言う通りにした。

「次はバスタオルでアタシの頭を拭いて。」

「うん。」
シンジはアスカの言う通りに頭を拭いた。

「次は…、悪いけど、バスタオルでアタシの体を…拭いて。」

「うん。」
シンジは淡々と返事をし、アスカの言う通りに体を拭くことにした。
もちろん、淡々と返事をしたのは、アスカのことを思いやってのことである。

まずアスカの右に位置し、左腕でアスカの頭を支えると、
アスカの体に巻いてあった2枚のタオルをそっと取り除いた。
シンジは鼻血が出そうだったが、強い精神力で耐えると、アスカの頭に置いていたバスタオルをつかみ、
ゆっくりとアスカの体を拭いていった。
最初は背中から。次に肩、腕、胸、足先、太股の順番である。
シンジが太股まで拭き終わると、アスカの足が開かれた。
シンジはさっと太股の内側を拭くと、バスタオルをアスカの体に掛け、アスカの体を持ち上げた。
そうして、アスカの部屋まで運んで行った。
 
シンジは、ベッドの上の先程敷いておいた新しいバスタオルの上にアスカをそっと置いた。
すると、アスカはは小さな声で言った。

「シンジ、アタシの下着とタンクトップを出して。」

「ええっ、アスカの下着の場所なんてわからないよ。どこにあるか教えてよ。」

「アタシが指さした所を探してみて。」
そう言って、アスカが指を指す。

シンジはアスカに言われた所を探して、アスカの下着をなんとか見つけ出した。
タンクトップも同様である。

「じゃあ、着せて。」

「うん。」
そう言うと、シンジは悪戦苦闘しながらも下着とタンクトップを着せる。

「ありがと。嫌なことさせちゃって、ごめんね。でも、どうしてもお風呂に入りたかったの。本当よ。」

「僕は別に嫌じゃないから。気にしなくてもいいよ。」
シンジは、笑顔で答えた。

「アンタ、今日は優しいのね。」

「あはは、そうかな。」
(う、いつも優しいのに、気付かないのかな。ちょっと悲しいな。)

「優しいついでに、明日も頼むわね。」

「えっ、明日も。」
(まさか、何かの罠じゃないよね。)

「もう、アタシの見ちゃったんでしょ。だったら、気にしてもしょうがないじゃないの。」

「でも…。」
(念のため、もう一回だけ断っておこう。そうしないと、スケベって言われそうだし。)

「そんなに嫌なの?アタシ嫌われちゃったのかなあ。」

「嫌ってわけじゃあないけど、アスカは本当にそれでいいの。」
(う、アスカ、ちょっと怒っているのかな。嫌がったのはまずかったかな。)

「だって、もう見られちゃったんだもん。今更格好つけてもしょうがないでしょ。」

「そうだね。わかったよ。」
(ま、まずい、アスカ怒らないで。)

「良かった。シンジ、ありがと。」
アスカは、にっこりと笑った。

「じゃあ、ごはん食べようか。」
(やっぱり、笑顔のアスカはかわいいや。いつも笑ってくれるといいな。)

「うん。」

アスカが返事をすると、シンジはアスカを抱き上げ、キッチンへと運んだ。
やっと晩ごはんである。

***

 アスカはテ−ブルに座らせてもらうと、口を開いた。

「ねえ、シンジ、お願いがあるの。」

「ん、なあに。」

「アタシの利き腕がまだうまく動かないの。だから、ごはん食べさせて。」

「ええっ。」
(どうしたんだろう。今日のアスカは変だ。何かあったのかなあ。)

「驚かなくてもいいでしょ。アタシだって、頼みたくないんだから。
でも、腕が思うように動かないんだから、しょうがないでしょ。」

「うん、わかったよ。」
アスカの頼みにシンジはまたもや折れた。
こうして、当分の間、シンジはアスカにごはんを食べさせることになってしまった。


***


「今日は、色々なことがあって疲れちゃったなあ。」
シンジは、一人呟いた。

シンジもようやく食事やら何やらの後片付けを終えて、布団の中にいた。
思うのは、やはりアスカのことである。

今日のシンジは、朝早くからアスカを病院に迎えに行き、
アスカを支えながらへとへとになって家に戻ったら、直ぐにネルフ本部まで呼びだされた。

ネルフへ行ったら、記者会見に駆り出され、それが終わったら、
マヤの所へ寄ってアスカに渡す書類やらを受け取り、帰りもアスカを支えながら帰って来たのだ。

帰ったら、アスカに休む暇もなく、こき使われたのだから無理もない。

「でも、その後は、いいことが続いたよね。」
シンジは思い出しながらニコニコする。

最初は、胸と腰にタオルが巻いてある以外は、裸のアスカを見たこと。
シンジにしてみれば、生唾ものである。思わず前かがみになってしまった。
リツコがいれば『無様ね。』と言ったに違いない。

だが、シンジも普通の男の子。女の子の裸に興味があるし、見たいなとも思うのだ。
ましてや、アスカみたいな美少女ならば尚更だ。
シンジは思わず『何て綺麗なんだ。』と言う所だった。

次の幸運は、アスカの体を拭いたこと。
シンジは、あまりの幸運に恐ろしくなり、思わず断ろうとしたが、
アスカが悲しそうな顔をしているのに気がついて、アスカの言う通りにしたのだ。
だが、結果的には、これがうまくいった。
下手に断っていたら、アスカの機嫌を損ねていただろうし、いい目も見れなかっただろう。
下手をすれば、暫く口も聞いてくれなかったかもしれない。

(やっぱり、断らなくて良かったなあ。)
シンジはその時のことを思い出し、ニコニコしていた。
シンジの生涯で最良の日が来たのだから、無理もない。
彼女いない歴14年、女の子の裸なんて、雑誌やビデオなんかでしか見たことがなかったのに、
今日は目の前で、ナマで、モロに見てしまったのだ。
実際は、風呂でマナの裸を見たり、病院で上半身裸のアスカを見たことがあるが、
チラリだったり、精神状態が不安定だったりで、しっかりと見たのは、今回が初めてだったのだ。

3番目の幸運は、風呂場での紳士的な態度にすっかり安心したアスカが、
シンジに下着を着せることまでお願いしてきたこと。
シンジが内心で飛び上がらんばかりに喜んだのは言うまでもない。
ここで、シンジは悪戦苦闘するフリをして、普段は決して見ることができない所を中心に、
しっかり目に焼き付けていた。
アスカはのぼせて頭が朦朧としていたらしく、全く気付いた様子はない。
シンジの作戦勝ちである。これで、当分の間、オカズに困ることはないだろう。

(アスカの裸、本当に綺麗だったな。夢じゃないよね。本当だよね。)
シンジは未だに夢心地である。
シンジは、あまりの幸運に夢か幻かとも思ったのだ。
しかも、信じられないことに、アスカにお礼まで言われたのだから、疑うのも無理はない。

(裸を見せてもらって、お礼まで言われるなんて、僕は何て幸運なんだろう。
やっぱり、今のアスカは、おかしいな。明日になったら元に戻っていたりして。
あはは。今日一日はラッキ−デーで、明日は元に戻ったりして。)
あくまで心配性のシンジであった。

(しかも、明日も頼まれたんだよね。)
そうだ、明日も同じことをするように頼まれたのだ。
こんなに幸運が続くと、ほっぺたをつねりたくなるシンジであった。

(でも、こんなことになるなんて、ついこの間までは考えられないよね。)
シンジはアスカとの出会いから順に思い出していった。

初めて会った軍艦の上、
一緒にシンクロして倒した第6使徒、
ユニゾンの訓練、
マグマの中で死にそうになったアスカ、
レイとアスカと3人で倒した第9使徒、
死を覚悟した第10使徒、
N2爆弾から守ってくれたアスカ、
マナの代わりになってもいいと言ってくれたアスカ、
第14使徒に無残に敗れたアスカ、
第15使徒に心を攻撃されたアスカ、
廃人のようになったアスカ、
敵のエヴァに蹂躙されたアスカ、
サードインパクト後に隣にいたアスカ、
昨日やっと目覚めたアスカ。

シンジの脳裏に浮かぶアスカは、時には強く激しく、時には弱かったが、優しいアスカはあまり記憶にない。

(アスカったら、今日は大胆だったけど、からかっている様子はなかったし、本当に具合が悪かったんだよね。
そうじゃなきゃ、僕に裸なんて見せるわけないもんね。
でも、明日が怖いな。今日のことを全部忘れて、身勝手なことを言いそうだな。
でも、その時はその時か。)

 シンジはちょっと明日のことが心配になった。
(アスカがこれからもずっと、せめて今日位に優しいといいんだけどな。
そうすれば、僕も余計な苦労が減るし。
明日もアスカが素直になってくれたら嬉しいな。)

(よし、明日は紳士に徹しよう。
これでアスカの信頼を得られたら、アスカの裸が毎日見られるんだ。
しかも、アスカに喜んでもらえる。
もしかしたら、アスカが素直になってくれるかもしれない。
こんなチャンスを逃がしちゃ駄目だ。)

シンジは、決意を新たにしながら、ゆっくりと眠りに着いた。


次話に続く
 
 
written by red-x
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