新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第2部 ゼーレとの戦い

第31話 決戦!第壱中学校(中編2)


発令所で加持達がカヲルの姿を見るよりも、30分以上前のことである。
ハウレーン率いるヴァンテアンの部隊は、敵に猛攻撃を加えていた。

「ハウレーン隊長!敵は、後1部隊を残すのみです。」

部下の報告にハウレーンの心は躍ったが、悟られまいとして努めて落ち着いた口調で答えた。

「最後の1部隊といえども、気を抜くなっ!全力で戦えっ!」

「はっ!分かりましたっ!」

兵士は敬礼をして去って行った。

ハウレーンの部隊は、ヴァンテアンの中でも精鋭ばかりを集めている。
その甲斐あって、ゼーレの攻撃を最も押し返していた。

MAGIの助けもあったため、敵の位置や数、装備など、欲しい情報がかなり入ってきていることもあり、
常に先手を打てたことも幸いし、負傷者も思ったほどには出ていなかった。

このままだと、ほぼ完全な勝利が目前であるとハウレーンが思ったのも無理はない。
ネルフにそう思わせることが敵の狙いだったのだ。

最初に東と南を他方面よりも大部隊で攻め、あっけなく撃退され、
相手が油断した隙を突いて反攻に移るのがゼーレの真の狙いだったのだ。

このため、ネルフが他方面に増援部隊を送った時に、反攻を開始する手筈になっていた。
そこに、北と西に増援部隊が派遣されたのである。

ゼーレの予想と違って、予備兵力を全部投入した訳では無かったが、
それでも東方面に展開出来る部隊が減ったことには変わりなかった。
ゼーレは、最後の1部隊に反攻するよう指令を発したのである。


***


「痛っ!」

渚カヲルは、戦いの最中に、頭痛を覚えた。
頭の中に何かが入って来るような感覚を覚えた。
そして、ある言葉が浮かび上がってきた。

「ワレワレハ、ハンコウヲ、カイシスル。」

カヲルは、頭の中に浮かんできたその言葉を、何回も繰り返し言った。

こうして、最後の1部隊の反攻が開始された。
この時点でハウレーンの部隊の運命が決まってしまったとは、誰も知るはずもなかった。


***


「ハウレーン隊長!敵が反攻を開始しました。」

「何っ!」

ハウレーンは首を捻った。
これだけ戦力差が開いたのだから、敵にはここに止まって戦う意味が無いと考えていたからだ。

ハウレーンは、どうするか考えた。
一気にカタを付ける方法が好きなのだが、いつも父親に猪突猛進は慎むように言われていたため、
安全策を採って遠巻きに攻撃を仕掛けることにした。

これならば失敗しても味方の損害は少ないし、なによりもほぼ勝ちが見えたこの時点では、
危険の高い賭をしてもメリットは無いと考えたからだ。
ハウレーンのこの考えは正しかったのだが、不幸なことに、敵の能力は予想を遥かに超えていた。


「ドギューン!ドギューン!ドギューン!」

「ドギューン!ドギューン!ドギューン!」

「バン!バン!バン!バン!バン!バン!」

「ババババババババババババババババババ!」

ゼーレの残る1部隊を遠巻きにして、ヴァンテアンの兵士達は、
ライフル、拳銃、自動小銃と、各自が手持ちの武器の弾を、雨あられと銃弾を撃ち込んだ。
これで、敵兵士は倒れるはずだった。しかし、…。

「おい、何かオレンジ色の光が見えなかったか。」

「ああ、俺も見た。あれは、一体何だったんだ。」

「そんなの、気にしてもしょうがないだろ。」

そんな会話を兵士達がしていた時だった。

「ババババババババババババババババババ!」

ゼーレの部隊が居た方向から、自動小銃の弾が撃ち込まれてきたのだ。

「ぎゃああ!」

「ぐおっ!」

何人かが逃げ遅れて、銃弾を体に浴びて倒れていった。

「クソッタレ!みんな、散れっ!」

さすがに歴戦の強者達である。すぐに隊形を整えて、反撃に移った。
何人かは、被弾した仲間を担いで、戦列から離れていく。

「一体、どうしやがったんだ。あれだけの銃撃でも倒れないとは、奴らはバケモンかっ!」

「いや、あれを見ろっ!オレンジ色の光が、弾を跳ね返しているぞ。」

「おい、俺は夢でも見ているのか。」

「いや、そうではないらしい。おい、誰か隊長に知らせろっ!
こいつらは、おそらく黒竜部隊だ。奴ら、今まで猫を被っていやがったんだ。」

こうして、ヴァンテアンの兵士達は、絶望的な状況で戦うことになった。



「ハウレーン隊長!大変です!最後の1部隊は、黒竜部隊のようです!
幾ら銃弾を撃ち込んでも、全部弾かれてしまいます!」

「何だと!」

ハウレーンには、思い当たるものがあった。ATフィールドである。
そうなると、相手は使徒ということになる。それならば、人間では勝ち目は無い。

だが一方で、このまま撤退すると背後の中学校にいる、大勢の一般人から多数の死傷者を出してしまう。

「だれか!本部に黒竜部隊のことを、知らせるんだっ!」

「駄目ですっ!通信が途絶していますっ!」

「ちくしょう!やられたっ!」

ハウレーンの頭には、クラスメート達の顔が浮かんでいった。

「短い付き合いになってしまったな。」

ハウレーンは、時間稼ぎをするため命を捨てる覚悟をした。


***


「ア、アスカ。一体どうしたんだよ。」

シンジは情けない声で言った。
シンジは、今体に何一つ付けていない。
アスカに全部脱がされたからだ。

「それを言う前にちょっとおまじないね。」

アスカはそう言うと、シンジにキスをした。

(こ、この展開は。き、期待してもいいのかな。)

シンジも最初は驚いたような顔をしていたが、下心が膨らむにつれて、
徐々に幸せそうな顔に変わっていった。
シンジは、アスカがチョコレートの代わりに、何か良いことをしてくれると期待していたのだ。

だが、1分ほどキスした後、アスカは紙袋の中から服を取り出した。

「シンジ、つべこべ言わないで、すぐにこれを着るのよ。急いでっ!」

(えっ!これだけ期待させておいて、あんまりだよ。うううっ。)

シンジは何を想像していたのか、期待が大きく外れたと分かると心の中で滝のような涙を流したが、
アスカの勢いに負けて、言う通りにするしかなかった。

シンジが着はじめると、アスカも急いで着替え始めた。
胸をタオルに似た布で巻き、迷彩服の上下を着て、頭からマスクを被り、
革のグローブと変わった靴を身に付けた。
最後はゴーグルで目を覆い、ベレー帽を被った。
シンジも基本的に同じ格好である。

「シンジ、似合っているわよ。」

表情は見えないが、アスカの声は笑っている。

「ねえ、アスカ。一体これはなあに。何でこんな格好をするのさ。」

「ねえ、シンジ。一度しか言わないから、良く聞いて。
今、ゼーレの特殊部隊がアタシ達を目指してやって来ているのよ。
しかも、頼みの傭兵達は、苦戦しているのよ。
だから、アタシ達が出張る必要があるのよ。」

「えっ、分からないよ。特殊部隊なんか、戦えないよっ。歯が立つ訳無いじゃないか。」

シンジは、アスカの言うことが理解出来なかった。
そんなに強い敵ならば、自分達が行っても役に立たないと考えたからだ。

「相手の特殊部隊は、10人いるの。それが、10人とも、ATフィールドを使えるのよ。
だからシンジの言う通り、普通の人間じゃあ全然歯が立たないのよ。」

「えっ、ATフィールドを使うって?まさか…。」

「そうよ。シンジのお気に入りのあいつが来たのよ。渚カヲルがね。
シンジ、前に言ってたよね。夢を見たって。
カヲルが来るけど記憶を失っているかもしれないって。
シンジに会えば思い出すからって。」

「う、うん。」

確かに以前シンジはアスカにそう言って、笑い飛ばされたことがあった。

「多分、10人中1人がシンジの知っているカヲルだと思うのよ。
だから、シンジはそのカヲルって奴の記憶を呼び覚まして欲しいのよ。どう、出来る?」

「うん、やるよ。」

「その間に、アタシは他の奴らを倒すわ。
効くかどうか分からない試作品だけど、アンチATフィールド発生装置が完成しているの。
これをワイルドウルフの精鋭部隊に持たせて、カヲルもどきをやっつけるわ。」

「えっ、じゃあ、アスカも行くの?駄目だよ、危ないよ。」

「シンジの気持ちは嬉しいけど、カヲルの目を覚ますのはシンジにしか出来ないと思うのよ。
逆に、アンチATフィールド発生装置の操作はアタシにしか出来ないの。
だから、アタシ達はちょっとの間、別れなくてはならないのよ。」

「でも…。」

「でもも、かかしもないのよ。それしか方法は無いのよ。
今奴らを止めないと、ヒカリやユキや鈴原や相田なんかが、殺されるかもしれないのよ。
シンジはそれでもいいの?」

「もちろん、良くないよ。」

「じゃあ、良いわね。
と言っても誰が本物か見分けないといけないから、
最初は二人で敵の後ろから近付いて、シンジが本物を見分けるの。
そうしたら、一旦下がって、ワイルドウルフの精鋭部隊と合流するわ。
そこでアタシとシンジは別れるの。ここまでは良い?」

「う、うん。」

「シンジは、ジャッジマンかレッドウルフと一緒にカヲルの所へ行って、目を覚ませるの。
そうしたら急いで逃げて、カヲルをワイルドウルフに引き渡すのよ。」

「えっ、なんでさ。」

「急いで逃げるのは、おそらくカヲルの目が覚めたら、新たな敵部隊が現れるから。
ワイルドウルフに引き渡すのは、他の部隊だとカヲルが殺されるからよ。」

「えっ。何でなの?」

「カヲル達はね、ヴァンテアンの部隊の連中を血祭りにあげるわ。
そんな奴を、他の傭兵達が許してくれると思うの?
速攻で息の根を止められるわ。分かった?」

「うん、分かったよ。
でも、アスカったら、何でこんな格好をしているの。
まるで兵隊みたいじゃないか。」

「シンジ。アタシ、前に一杯秘密を持っているって言ったの覚えてる?」

「うん、覚えてるよ。」

「その秘密のうちの一つがこれ。アタシは、ドイツにいた時は、傭兵もやっていたのよ。」

(えっ、アスカは、今傭兵って言ったよね。
傭兵って、お金をもらって戦う、戦争のプロじゃないか。
アスカがその傭兵だったなんて。)

「えっ!嘘!」

「嘘じゃないわ。アタシ、ワイルドウルフにいたのよ。」

アスカの言葉に、シンジは呆然とした。
急にそんなことを言われても、どう言ったら良いのか分からなかったからだ。

「ねえ、シンジ。聞いてるの?」

「う、うん。も、もしかして、アスカは人を、そ、そのこ、殺したことがあるの?」

シンジは恐る恐る聞いた。シンジにとっては、傭兵=人殺しなのだろう。

すると、アスカは少し怒ったような顔をしてこう言った。

「アタシはねえ、誰かさんがエヴァに乗りたくないって駄々をこねたから、
戦自の連中を数千人は殺してんのよ。アンタ、分かってんの!」

それを聞いたシンジの顔は、さらに蒼白になった。

(そ、そんな。僕のせいで、アスカが…。)

「アタシのことが嫌いになった?良いわよ、嫌いになっても。
アタシは、シンジに強制はしないわ。
でも、アタシは行く。今行かないと、後悔するから。」

アスカはそう言って、シンジに背を向けて歩こうとした。だが…。

(まずい!僕はまた、アスカを傷つけてしまった。
駄目だ。今度こそ口に出して言わないと、アスカが遠くへ行ってしまう。
それだけは、それだけは、絶対にいやだ!)

シンジは後悔した。
アスカが傭兵をしていたなんて聞いて驚いたが、シンジが好きになったのは今のアスカなのだ。
過去のアスカがやったことに囚われてもしょうがない。
それにアスカが理由も無しに悪いことをする筈がないと信じたかった。
それに、何よりもアスカを失いたく無かった。
そう考えたシンジは、何とか想いを言葉にすることが出来た。

「…アスカを嫌いになる訳が無いじゃないか。」

アスカの背中越しに、シンジは小さく呟いた。
シンジに心の葛藤があったため、小さな声になってしまったのだ。

「えっ。」

アスカは驚いてこちらを振り返った。
アスカの顔は、期待と不安とをごちゃ混ぜにしたような顔だった。

(今だ、今言うしかない、僕の想いを!アスカを不安にさせるなんて、僕は最低だっ!)

シンジは、自分の想いを全てアスカにぶつけると心を決め、先程よりも一際大きな声で言った。

「僕が、アスカを嫌いになる訳が無いじゃないか。
僕は、誓ったんだ。アスカが行くなら、地獄の果てでも付いていくよ。
僕は、アスカのことが好きなんだ。
僕は、世界を敵に回してでもアスカと一緒にいる。」

シンジはそう言うと、拳を強く握りしめた。

「シンジ…。」

アスカの涙腺は緩んでいた。だが、まだ不安そうな顔をしている。

(良かった。もう一押しだ。以前のアスカとは違う。
今度は、僕の言うことを聞いてくれている。
言わないで誤解されるのは絶対に嫌だ。
たとえ恥ずかしい想いをしても良い、アスカを失うことに比べたら、何てことないよ。
もう、絶対にアスカを失いたくない。)

「何度でも言うよ。僕は、アスカが大好きだ。
アスカのためなら、この手が血に染まっても良い。
もちろん、アスカの手が血に染まっていても、嫌いになんかならないよ。
だって、アスカは優しいから。意味もなく、手を血に染めるなんてことはしないから。」

シンジは、澄んだ目でアスカを見た。強い決意を込めて。

シンジの思いは、うまく伝わったようだった。
アスカは、シンジに軽くキスをすると、シンジの手を掴んで走り出した。


***


「私は、もう死ぬのか。」

戦場で、最後まで踏みとどまって戦った兵士が倒れていた。
全身血だらけで、体を動かすのもやっとの状態だった。
ヴァンテアンは30分近く持ちこたえたが、それが限界だった。
既に全部隊が壊滅し、敗走していた。

その兵士の側に、紅い目をした少年が立っていた。
少年は、兵士の頭を狙って、銃を向けていた。
その指に力がこもった時、急に後ろから声がした。

「カヲル君!」

紅い目をした少年が、はっとして振り向いたが、声の主は見えなかった。

「イマノコエハ、ナツカシイカンジガスル。」

少年が呟き、再び兵士を見ようとしたが、もうそこには誰もいなかった。


***


「隊長!駄目です。敵をくい止められません。」

「ちくしょう。何て奴らだ。こちらの攻撃が効きやしない。」

ジャッジマンは唇を噛んだ。
今は、レッドアタッカーズに加えて、ジャッジマンの部隊も応戦していたが、
それでも、敵の侵攻を足止めすることすら出来なかった。

敵の少年達は、どんな攻撃も受け付けなかった。
銃はもちろんのこと、ライフルやバズーカでも全く効かなかったのだ。
そこで、ジャッジマンは加持に作戦変更の許可を得ることにした。
今の加持の指示は、極力味方の損害を少なくせよというものだったが、
それでは敵の足止めすら出来ないからだ。

「おい、加持さんよ。何か打つ手はあるのか。」

「ああ、さっきアスカから連絡が入った。
そちらに、ワイルドウルフの部隊が到着する。
それまで持ちこたえるんだ。
ワイルドウルフが到着したら、お前達はタイミングを合わせて一斉に撤退するんだ。」

「おい、加持さんよ。ワイルドウルフは、全部で400人だろ。協力しなくて平気かよ。
今は、600人でも足止めがやっとなんだぜ。
その3分の2の戦力で、どうやって戦うんだよ。」

「ジャッジマン、そちらに向かったのは、9人だ。」

「おい、何の冗談だ。N2爆弾でも抱えさせて特攻でもするのかよっ。」

「いや、それでも、奴らには勝てないだろう。」

「おい、何言っているんだ。じゃあ、どうやって奴らを止めるんだ。」

「俺にも分からん。」

「な…。」

ジャッジマンは、あきれて物が言えなかった。
そのジャッジマンの頭上に、ヘリが到着した。
8人の少女達が乗ったヘリが。


***


ヘリからは、次々と少女達が降りてきた。

「ジャッジマン大尉。ラブリーエンジェル隊長、ブルーです。ご苦労さまです。」

ブルーとその他のメンバーは、ジャッジマンに敬礼した。一応、今は上官になるからだ。

「ああ、ご苦労。今は、ここから東、約500mの地点で応戦している。」

「では、作戦開始から5分後に総撤収をお願いします。」

「おい、どうやって戦うつもりだ。
お前さん達は、死ぬつもりか。奴らのことを知らないのか。
悪いことは言わん。死にたくなければ、今すぐに帰るんだ。」

ジャッジマンは厳しい顔で言った。
それにブルーが反論しようとした時、どこからとなく女の歌声が聞こえてきた。


「たとえこの身を裂かれても〜 地獄の業火に焼かれても〜
決して逃げずに戦うよ〜 それがアタシの〜 生きざまよ〜  

あ〜あ アタシの人生真っ暗ね〜 いっつも損な役だけど〜
仲間を守るためならば〜 命を捨てても〜 惜しくない〜

あ〜あ アタシの人生真っ暗よ〜 だけどアタシは逃げないよ〜
誰かがアタシの身代わりに〜 きっと地獄に〜 落ちるから〜」


「おい、この歌はっ!」

「『まっくらね〜』だよ!」

「あいつだっ!本当に来てくれたんだっ!」

ラブリーエンジェルのメンバーは、目を輝かせて声のする方向を見た。
すると、森の茂みの中から、二人の兵士が現れた。そして、そのうちの一人が声を発した。

「お待たせっ!紅い狼が来たよっ!」

胸を張り、手を腰に当てて立っていたのは、ラブリーエンジェルの赤い死神とも、
トップエースとも称されてきた、自称、超絶美少女戦士、惣流・アスカ・ラングレーだった。



次話に続く               
 
 
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written by red-x
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