新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS 第3部 ゼーレとの戦い−激闘編− 第41話 反撃開始 「シンジ、おはよう。」 アスカはそう言うや否や、シンジに優しくキスをした。 「はい、次は昨日は良く頑張ったから、ご褒美のキスよ。」 今度も優しいキスだった。 婚約を解消した翌日の朝からは、アスカはお目覚めのキスに加えて、 特訓に頑張ったご褒美のキスをしてくれるようになったのだ。 このため、シンジは辛い特訓にも耐えることが出来たのだ。 (アスカ…。大好きだよ…。) シンジはアスカを優しく抱きしめた。 アスカはシンジに抱かれるに任せて、抵抗する気配は無い。 最近のアスカはシンジが飽きるまでキスをさせてくれる。 そのため、シンジが止めるまでは、キスは終わらないのだ。 こうして、今朝もシンジは束の間の幸せに浸っていた。 (こうしていると、アスカと心が繋がっているような感じがする。 アスカは僕のことをどう思っているんだろう。 僕のことを好きになってくれたんだろうか。知りたい。 今は聞く時期じゃないけど、いつかは聞いてみよう。 そう、ゼーレとの戦いが終わったら…。) シンジは、そんなことを考えていたが、徐々にアスカとのディープキスに酔いしれていった。 *** 「はいはい、押さないで下さ〜い。一列に並んで下さ〜い。」 今日は3月1日の火曜日。 平日なのだが、第3新東京市で一番大きな書店の前には朝早くから長蛇の列が出来ていた。 このため、書店の店員が声を枯らして客達の列を整理していたのだ。 原因は、『救世主アスカ』だった。 文化祭で上映した映画『救世主アスカ』の評判は高く、 映画を見た者はネットの中で絶賛したのだ。 そうなると見てみたいと思うのが人情である。 ネットで流した予告編の出来が良かったこともあり、 『救世主アスカ』の人気は否応なく上がっていったのである。 その『救世主アスカ』のDISKが全世界で同時発売される日が今日だったのだ。 無論、ゼーレの妨害があり、通常ルートでは流通しなかった。 それを見越したアスカが考え出した方法が、書店での発売だったのだ。 書店で売るために『救世主アスカ』という本を売り出したのだが、 そこに付録としてDISKを2枚付けたのだ。 1枚が映画のDISK。もう1枚が映画の主題歌、歌手のニューアルバム、 映画出演者の写真集、映画の各種設定集などを満載したDISKだ。 これだけの内容なのに、価格は2千円と低価格であり、 しかも発売当日の購入者には出演者の生写真付きという特典があったのだ。 しかも、ネルフの公式ホームページに、生写真の内訳が載っていた。 生写真は2枚入で、100枚の内5枚がアスカの水着写真、20枚がアスカの写真、 30枚が出演者女性の水着写真、35枚が出演者女性の写真、 10枚が出演者男性の写真というものだった。 そこに、アスカの水着写真100枚の内1枚は下着姿であるという噂が流れたのだ。 但し後ろ向きで、胸は全く写っていないということだったが、 それでも千分の1の確率を信じて並ぶ男共が後を絶たなかったのだ。 噂を流したのはアスカであり、無論これはシンジには内緒だ。 アスカも本当は嫌だったのだが、 作戦の成功のためにと涙を飲んで下着姿の写真を入れることを決断し、噂を流したのだ。 セミヌードという話もあったのだが、 水着姿も下着姿も隠す面積は大して変わらないという結論に達し、下着姿を選択したのである。 ちなみに水着写真を撮ったのはケンスケであり、下着姿の写真だけはユキの撮影である。 なお、同じような行列は全世界で見られた。 こうして、この日だけで1億冊という驚異的な売り上げが記録されたのである。 もちろん、ネット経由で予約されて宅配されたものは別勘定である。 *** 「おい、お前どうだった?」 「へっへっへっ。惣流さんの水着写真をゲットしたぜ。 もう1枚はミサト先生の写真だったぜ。ラッキー!」 「良いなあ。俺なんか、碇の写真と洞木の写真だぜ。 洞木でもせめて水着写真だったら良かったのになあ。」 「でも、良いじゃないか。碇の写真だったら、女の子に言えば交換してくれると思うぜ。 誰かに言ってみなよ。」 「えっ、本当か。良いこと聞いたぜ。 そういえば、惣流さんの下着姿の写真が当たるっていう噂を聞いたんだけど、 当てた奴の話なんて聞かないなあ。あれってガセネタなのかなあ。」 「そうだな。噂の出所もはっきりしないしな。」 この日アスカの中学校では、この手の話題が本人のいない所で公然と囁かれていた。 実は、第3新東京市に出荷した分からは、アスカの下着姿の写真は除かれていたのだ。 とはいっても、いずれネット上で流通するのは間違いないのだが、 それでもアスカの心情としては知り合いの目に触れるのは少しでも遅い方が良かったのである。 また、別の場所では…。 「あ〜あ、碇君の写真、当たらなかったわ。がっかり。」 「で、何が当たったの?」 「ミサト先生の水着写真と惣流さんの写真よ。」 「それなら、男子に聞いてみなさいよ。 惣流さんの写真だったら、碇君の写真と交換してもらえるわよ。」 「でも、惣流さんのこの写真も捨て難いのよね。 何て言うか、明るく輝いて凛々しいと言うか、とにかく良いのよね。 誰かミサト先生の写真と交換してくれないかしら。」 「水着写真でしょ。だったら大丈夫よ。 ミサト先生なら男子に大人気だから。数も少ないみたいだしね。」 アスカの中学校は、どこもかしこもこの話題で持ちきりだった。 *** 一方、教室内ではアスカとヒカリがおしゃべりをしていた。 「ねえ、アスカ。聞いた? 『救世主アスカ』のDISK、男子生徒の半分以上が買ったらしいわよ。 お蔭で今日は遅刻者が異様に多かったらしいわ。」 「ふうん。このクラスはそうでも無かったのに。」 アスカは意外だった。このクラスの人間が買わなかったことではない。 他のクラスの男子の半分以上が『救世主アスカ』を買いに行ったことがだ。 文化祭の時に映画は見ているはずだし、今日買いに行くとしたら、 目的は生写真以外には考えられないが、まさかそれにこれほどの効果があるとは思わなかったからだ。 これならば、日本中、いや世界中でも同じような効果が期待出来る。 実は色々と事情があって、早く売れることにこしたことはないのだ。 同じ枚数を売るにしても、今日と1カ月後では全然意味が違うのだ。 そんな事情を知らないヒカリは続けて言った。 「やっぱり本人がいるし、相田君から写真も手に入るしね。 そこまでして今日是非買おうという人はいないんじゃない。」 「そうかもね。でも、良く考えると恥ずかしいわね。 自分の写真をそこら中の人が持っているなんて。ちょっと失敗したかしら。」 「なによ。私だって恥ずかしいんだから。アスカが是非にと言うから協力したのに。」 「はははっ。ヒカリごめんね。アタシが悪かった。」 「まあ、分かればよろしい。」 こうして二人は大笑いした。 そんな会話に聞き耳を立てている者がいた。言わずと知れたシンジとトウジである。 「おい、センセ。惣流の写真が全世界にばら蒔かれているっちゅうことや。 どう思うんや。キリキリと白状せい。」 「どうって言われても。僕は婚約を解消した身だし、何も言うことは無いよ。」 「心の中にため込むのは良くないっちゅうんや。ワシには正直に言うんや。」 「そういうトウジこそ、洞木さんの写真も全世界にばら蒔かれているんだよ。 どう思うのさ。」 うっ、と詰まって何も言えないトウジであった。 (まったく、トウジは素直じゃないんだから。 本当は洞木さんの写真のことが気になるくせに。) シンジは慌てふためくトウジを見て、思わず笑みをこぼした。 *** とある大学では、学生同士がアスカの噂をしていた。 「おい、例の『救世主アスカ』のDISK、見たか?」 「ああ、良かったよなあ。凄い迫力だったぜ。あの使徒って、本当にいたのかなあ。」 「おい、それよりもあのアスカって娘、物凄く可愛いよなあ。 あんなに可愛い女の子なんて、周りにいないよな。俺、ファンになっちゃったよ。」 「俺もだ。 あの蒼く大きな瞳、キリリとした細い眉、明るい笑顔、どれをとっても良いよなあ。 あんな女の子が彼女だったら、本当に幸せだよなあ。」 「なあ、アスカちゃんのアドレスが分からないから、ネルフに直接メールを送ろうぜ。 駄目で元々だしさ。」 「そうだな。おっと、それよりももう1枚のDISKを見たか? ネルフのホームページから、秘密のページに行けるらしいぜ。 そこには、アスカちゃんや他の出演者の画像がたくさんあるっていうことだったぜ。 それも、一部は日替わりらしいんだ。こりゃあ、毎日見るしかないぜ。」 「本当かよ。ちょっと見てみようぜ。」 二人は大学のコンピュータを使ってネルフのホームページにアクセスした。 すると、その中に『救世主アスカの部屋』というのがあり、 そこに入っていくとパスワードを要求された。 パスワードは、『救世主アスカ』のDISKに記されているという表示も一緒に出た。 二人は『救世主アスカ』のDISKをドライブに入れて、 そこに記されていたパスワードを入力し、秘密の部屋へと辿り着いた。 そこの表示を見ると、各出演者毎に10枚の画像データがあり、 アクセス数の多い出演者は定期的に画像データが更新されることが記されていた。 「おい、アスカちゃんの画像を見ようぜ。」 「ああ、任せとけ。」 返事をした男は、アスカのアイコンをクリックした。 すると、さらに10個のアイコンが現れた。 適当なアイコンをクリックすると、アスカの画像が現れた。 「おっ、こりゃあ可愛いや。」 そこには赤いワンピースを着てあふれんばかりの笑顔を浮かべたアスカの画像があった。 「他のも見てみようぜ。」 他の画像には、違ったアスカが写っていた。 寂しげなアスカ、自信満々なアスカ、怒ったアスカなど、様々な表情のアスカが写っていたのだ。 服装も清楚なもの、活発そうなもの、ちょっと色気のあるものなど、多種多様であった。 「おおお〜っ!かっわいいなあ〜っ。」 「やっぱり、アスカちゃんは可愛いや。とてもじゃないけど、14歳とは思えないや。」 「良し、ネルフにファンレターを出そうぜ。」 日本全国でこれと同様な光景が展開された。 元々アスカは超美少女であることに加え、薄くではあるが化粧をして、 お洒落な服で身を包めば、大抵の男は虜になってしまうほどの美しさを発揮するのだ。 色気こそ抑え目であるが、却って清楚さが際立つというものだ。 アスカは単に美しいだけでなく、知性によって磨きをかけられ、 さらに太陽の様な明るい輝きが加わるのだ。 並のアイドルなど霞んでしまうほどの輝きをアスカは持っていた。 ニブチンであるシンジでさえも気付き、惹かれたアスカの輝きに、 日本中の、世界中の男どもが引きつけられた。 そして、さらなるアスカの情報を求め、ネルフのホームページに大挙してアクセスし、 同様に大量のメールがネルフに送り込まれたのだ。 こうして、アスカは一日にして、押しも押されぬトップアイドルになった。 それも、世界規模のアイドルである。 さすがにこの事態はアスカの予想を遥かに超えていた。 *** 「駄目です!もうすぐパンクしそうです。」 「早く技術部の人を呼んで!」 その頃、ネルフの広報部は大変な事態に陥っていた。 DISKを買った者が、ネルフの公式ホームページに大挙してアクセスしていたからだ。 一応こんな事態を想定し、サーバーの容量を大幅に増強していたのだが、 想像を遥かに超えるアクセスがあったのだ。 それだけならまだしも、大量のファンレターも送られて来て、 徐々にサーバーの負荷が大きくなっていった。 このため、マヤが呼び出されて応急処理をしたが、 それでもあと1時間持つかどうかというところだった。 このままでは、MAGIの動作にも悪影響を及ぼす恐れがある。 マヤは迷わずリツコに助けを求めた。 「先輩、助けて下さい。 予想を遥かに超えるアクセスがあって、サーバーがパンクしそうなんです。 しかも、アクセスはどんどん増えているんです。 あと1時間もすれば、本当にパンクしてしまいます。 お願いします、助けて下さい。」 「分かったわ、マヤ。とにかくそっちに行ってみるわ。 アスカも連れて行くから、それまで何とか持ちこたえてね。」 「は、はいっ。」 マヤはリツコが来ると知って、満面の笑顔を浮かべた。 *** 「タタタン タ タタンタタン タンタンタータン…。」 ミサトの授業中に、いきなり携帯電話が鳴った。 「あれっ、ちょっちごめんね〜っ。」 そう言うと、授業中にも関わらず、ミサトは電話に出た。 「えっ、リツコ?今授業中なのよ。一体どうしたのよ。 えっ、緊急事態?アスカを連れて来い? も〜っ、しょうがないわねえ。」 ミサトは電話を切ると、両手を合わせて頬にくっつけた。 「みんな〜、ゴミン。ちょっち緊急事態だから、これから自習にするわよ〜ん。 それと、アスカ!急いで来て!」 こうして、ミサトはアスカを連れて風のように教室を去って行った。 「一体どないしたんや。」 トウジは首を捻る。他の転校生達も同じように不思議そうな顔をしている。 もし、ゼーレからの攻撃ならば、全員に集合がかかる筈なので、 アスカにだけ声がかかる理由が見当たらないからだ。 ただ一人、シンジだけが事態をほぼ正確に把握していた。というもの無理はない。 アスカがMAGIの運用管理の責任者であることを知っている者は数少ないからだ。 また、昨日の晩に作戦の概要を聞いており、 作戦がうまくいけばマヤに呼び出されてネルフ本部に行くであろうことも聞いていたのだ。 (作戦はうまくいっているようだね。アスカ、頑張れ。) シンジは心の底からアスカのことを応援していた。 次話に続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき 圧倒的に不利な状況ですが、アスカはゼーレに立ち向かいます。 その反撃の第一歩が開始されたのです。 written by red-x