新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第42話 ミラクル5


「シンジ、そろそろネルフに行こうぜ。」

ケンスケが声をかけてきた。隣にはトウジやカヲルも立っている。

「うん、行こう。」

シンジは4人でネルフへと向かった。

***

「なあ、シンジ。綾波の行方はまだ分からないのか。」

ケンスケが尋ねてきたが、シンジは悲しそうに首を振った。

「そうか。いやな、惣流が最近口癖のように言うんだ。『レイが居たら。』って。」

「えっ。本当なの。」

「ああ。惣流が言うには、指揮官になって、綾波の重要性が良く分かったって言うんだ。
綾波は、シンジほどの力量は無いけど、命令を着実に遂行するらしいんだ。
要は、確実に計算出来る戦力っていうことさ。」

「それの何処がいいのさ。」

「だって、考えても見ろよ。
球は早いけどノーコンのピッチャーと、程々の球だけど、
コントロール抜群のピッチャーと、どっちがいいと思う?」

「そ、そうか。でも、僕はノーコンのピッチャーなんだね。」

「お、おい。そうことじゃないけどな。
綾波のレベルだと、S2機関とやらが使えて、エヴァの行動範囲が物凄く広がるらしいんだ。
指揮官の言う通りに着実に作戦を遂行出来て、行動範囲も広い。
喉から手が出るほど欲しいらしいんだ。」

「そうか。僕達の生き残る可能性もそれだけ高くなるね。」

「ああ、その通りさ。
でも、もう一つ理由があるんだ。綾波は写真写りが凄く良いんだ。
惣流も認めていたけど、写真なら惣流でさえ、綾波に敵わないんだ。
ほら、惣流は行動的だから、動く絵は凄く様になるけど、
止まっていると、動いている時ほどの魅力はないだろう。」

「そう、かもしれない。」

「でな、今はネルフのホームページにたくさんの人にアクセスして欲しいらしいんだけど、
綾波の写真があれば、倍は固いと思うんだ。」

「ええっ。それはいくらなんでも多いよ。」

「惣流が言うには、綾波はそれなりの格好をすれば、物凄く綺麗になるらしいぜ。
それに、胸も惣流よりも大きいっていう話だ。
1回でいいから、ちゃんと綾波を撮ってみたかったよ。本当に残念だ。」

ケンスケが本当に残念そうな顔をしたので、シンジは苦笑した。

実は、レイについては、以前シンジの夢の中に出てきたことがある。
その時に、カヲルと一所に火星にいること、
カヲルが近い内に記憶喪失になって戻ることなどを言っていたのだ。
カヲルの件については、現実に当たっていた。

だから、シンジはレイが火星にいるかもしれないと思っていた。
本来は火星でなんか生きていけるわけがないが、
もしかしたら初号機の中にでもいるかもしれないと思っていた。
それならば、生き延びている可能性がある。

(レイ、生きているの?生きているなら、僕達を助けに来てよ。)

シンジはそう願わずにはいられなかった。

***

「みんな、ごめん。ちょっと用があるんだ。」

ネルフに中に入ると、シンジは皆と別れた。これはアスカの指示だった。
そして、第2技術部副部長室に入って行った。
部屋の中には液晶モニタがあり、そこにはエヴァのパイロット達の姿が映っていた。
シンジは画面をじっと見つめ、スピーカーの音量を上げた。



「あれっ、サーシャさん。どうしてこんな所にいるの?」

「そういうマリアさんこそ。」

ネルフ内のとある場所で、サーシャとマリアがばったりと出会っていた。
だが、そこにミリアとミンメイまでもがやって来た。

「あれっ、ミリアにミンメイさん。一体どうしてここに来たの?」

「それはこちらのセリフだ。マリアこそ何でここにいる。」

4人はお互いを見渡して黙ってしまった。だが、そこにアスカがひょこっと現れた。

「あら、全員集合ね。じゃあ、皆来てよ。」

それを聞いた4人とも驚いた。

「お、おい。私はソルトに会いに来たんだぞ。」

ミリアがつい口に出す。その時、液晶モニタに
『ソルトというのは、ミラクル5というハッカー集団のリーダーの名前です。』という表示が映った。

「えっ、あなたも。」

とマリア。

「ええっ。もしかして、皆ソルトさんに会いに来たんですか。」

サーシャも驚いたようだ。ミンメイも驚いたような顔をしている。

「まあ、いいから来なさいよ。ソルトに呼ばれた人は、アタシに付いてきてよ。」

そう言うなり、アスカはさっさと歩き出した。
4人は顔を見合わせたが、仕方なくアスカの後を付いて行った。
動くアスカ達に合わせて、次々とカメラが切り替わっていった。


アスカはエレベータを乗り継いで、人気の無い階にやって来た。
そして、ゆっくりと歩いていく。

「あれっ、諜報部部長代行室ってプレートがかかっているわ、あの部屋。」

「あれは、作戦部長室よ。」

「あっちは技術部長室よ。」

「向こうは技術部副部長室ってあるわよ。」

「さらに向こうは、諜報部副部長室になってるわよ。こんな所に来ても良いのかしら。」

「きと、ソルトって、諜報部の人間なのよ。諜報部副部長じゃないかしら。」

マリア達はやや小さな声で囁いていた。と、その時、アスカが急に立ち止まった。
技術部副部長室というプレートのかかっている部屋だ。

「さあ、入って。遠慮しないで。」

アスカはドアを開けて4人を中に入れた。

「うわあ、結構広いのね。」

「あれっ、もしかして、今まで見ていた部屋って繋がっていたのかしら。」

などと言いながら、4人は周りを見渡していた。
その4人にアスカはコーヒーを振る舞った。
そして、4人が落ち着いた頃を見計らって声をかけた。

「さあて、いきなり本題に行くわよ。
ゼーレに勝つには、アンタ達の力がどうしても必要なのよ。
だから是非協力して欲しいのよ。」

「でも、アスカ。私達はこうしてネルフに協力しているじゃない。」

マリアは不思議そうな顔をした。

「違うのよ。アタシが言っているのは、ミラクル5として協力して欲しいっていうことなのよ。」

「アスカ…。」

マリアは黙ってしまったが、ミリアが口を開いた。

「私は協力出来ない。もうあれは過去のことだ。仮にソルトに頼まれたとしても断る。」

「そう。サーシャは?」

「そうねえ。ソルトに頼まれたら考えるわ。」

「ミンメイはどうなの。」

「私もそう。悪いけど、あなたとは知り合ったばかりだし、そんなこと頼まれてもねえ。
ソルトなら話は別だけど。」

「そうよね。じゃあ、アタシも正直に言うわ。アタシが『ソルト』よ。」

「「「「ええっ!」」」」

残る4人は驚きの声をあげた。

「サーシャ、アンタに頼んだプログラムは今回の作戦のためだったのよ。
お礼に『パイロットリーダー』の写真を上げたわよね。
『救世主アスカ』のスペシャル版ディスクもね。」

「それを知っているっていうことは、アスカさんがソルトなの。
じゃあ、他の皆もプログラムの仕事を頼まれたの?」

サーシャは大きな瞳をさらに大きく開いて皆を見た。

「私も頼まれたわ。」
「私も。」
「私もだ。」

マリア、ミンメイ、ミリアの3人も頷いた。

「分かったかしら。じゃあ、『ソルト』として頼むわ。
是非、ミラクル5として協力して欲しいのよ。」

「ええ、分かったわ。私は良いわよ。」

真っ先にマリアが同意した。

「私も乗るわ。その代わり、アスカさんの写真をよろしくね。」

サーシャも同意した。

「じゃあ、私も。」

ミンメイも同意した。だが、ミリアは首を横に振った。

「私は嫌だ。あのプログラムが最後の手伝いだ。」

「まあ、良いわ。また明日返事を聞くから、考えておいてね。
今日は紹介したい人もいるし、色々と話もあるしね。じゃあ、ちょっと座って待っててね。」

アスカはそう言うなり電話をかけた。

「ああ、リツコ。こっちに来て。えっ、後5分ね、良いわよ。ミサトも一緒にね。」

「ああ、加持さん。直ぐにこっちに来て。えっ、忙しい?駄目よ。
アタシの方を優先してよ。良いわね、後5分で来てよ。」

電話が終わると、アスカはニコリと笑った。


かくして5分後にリツコ達がやって来た。

「どうしたのよ、アスカ。急に呼び出したりして。
あら、あなたはマリアさんね。それにミリアさんも。」

「あ、こんにちわ。リツコさん。」

そう言って、マリアとミリアは頭を下げた。
ヒカリの誕生会の時に顔合わせはしていたからだろう。

「え、マリアちゃんにミリアちゃん。一体こんな所でどうしたの?」

「あ、ミサトさん。こんにちわ。」

今度もマリアとミリアは頭を下げた。

そこに加持がやって来た。

「おいおい、アスカ。俺は出前じゃないんだから、気安く呼ぶなよ。
おっと、どうしたんだ。この部屋がこんなに賑やかになるなんて、初めてだな。」

「あっ、加持さん、こんにちわ。」

マリアとミリアは三度目の頭を下げた。
若い女性陣にニヤニヤする加持だったが、ミサトが一睨みすると、素知らぬ顔をして誤魔化した。


「さあて、役者は揃ったわね。じゃあ、ネルフの幹部を紹介するわ。
最初は諜報部部長代行の加持リョウジ一尉。
と言っても諜報部長は空席だから、事実上の諜報部長ね。」

「今、ご紹介に預かった加持だ。よろしくな。」

だが、マリア達は驚きのためか声も出ない。
サーシャとミンメイにとっては、本部の事実上の諜報部長と言えば雲の上の人である。
その人に会えるなどとは思っておらず、びっくり仰天という訳なのだろう。

マリアとミリアにしても、加持とは顔を会わせたことはあるが、
まさかそんな重要な役職の人間だとは思っていなかったのだろうとシンジは推測出来た。

「何、驚いているのよ。次は加持さんの婚約者で、作戦部長の葛城ミサト三佐。」

「ミサトよ〜ん。よろしくね。」

「え〜っ!」

マリア達はまたもや驚いてしまった。
ミサトと言えば学校の担任の先生である。それがよもや作戦部長とは思わないだろう。
だが、今回はミリアだけは驚かなかった。救世主アスカのDISKを見て、知っていたのだろうか。

「次は技術部長の赤木リツコ一尉。」

「赤木リツコです。よろしくね。硬くならなくてもいいわよ。」

「は、はいっ。」

ミリアだけがようやく返事を返すことが出来た。マリア達は呆然としている。

「で、最後はアタシ。ソルトこと、惣流・アスカ・ラングレー。ネルフの技術部副部長よ。
今は、実質的に技術部長みたいなものね。」

「「「「え〜っ!」」」」

今度こそ、ミリアも驚いた。それもそうだ。
サーシャとミンメイは、アスカの裏の顔が作戦部のオペレーターであると教えられていたし、
ミリアにしても、アスカが元エヴァンゲリオンのパイロットであることを知っていたにすぎない。
それがいきなり技術部の副部長で実質的に技術部長だと言うのだ。驚かない方がどうかしている。

シンジは驚く皆を見ながら、おかしくて笑いそうだった。

「ねえ、アスカ。技術部長本人の前で、そんなこと言っていいの?」

マリアが心配そうに言ったが、それにはリツコが応えた。

「あら、本当よ。ここだけの話だけど、今は実質的な技術部長はアスカなの。
私はそのお手伝いっていう訳。」

「そ、そうなんですか。」

マリアの顔が引きつる。だが、ようやく信じたようだった。

「じゃあ、次はマリア達の紹介を始めるわ。
彼女達は、昨日正式にエヴァンゲリオンのパイロット候補生から正規の予備役パイロットに格上げされたわ。
最初は、そうね、マリアからね。ドイツ支部から来たマリア・カスタード。
ワイルドウルフのウォルフの娘よ。そして、アタシの友人よ。」

「マリア・カスタードです、よろしくお願いします。えっ、アスカ。今、何て言ったの。」

「聞こえなかった?
あなた達は、正式にエヴァンゲリオンのパイロット候補生から正規の予備役パイロットに格上げされたのよ。」

「ど、どうしてなの?」

「アタシの独断と偏見よ。アタシはエヴァンゲリオン部隊の指揮官よ。
部下を選ぶ権限があるわ。それとも、不服かしら。」

「ううん、そんなことはないわ。でも、良いのかしら。」

「もちろん、良いに決まっているでしょ。そんなことは、マリアは気にしなくて良いのよ。
言っておくけど、アタシは私情を挟んでいる訳じゃあ無いからね。そこは誤解しないで。」

「う、うん。分かったわ、アスカ。」

「じゃあ、次はミリアね。ブラジル支部から来た、ミリア。」

「ミリアです。よろしく。」

ミリアはリツコ達に向かって頭を下げた。

「次はサーシャ。エジプト支部から来たわ。」

「サーシャです。よろしくお願いします。」

サーシャもミリアに倣い、頭を下げた。

「最後は、リン・ミンメイ。中国支部から来たわ。」

「リン・ミンメイです。よろしくお願いします。」

「これで一通り紹介が終わったわね。じゃあ、紹介の続きね。
アタシ達5人は、ミラクル5というハッカーのグループだったの。
もちろん、プログラムを作るのなんか、朝飯前ね。
今回の作戦のためのプログラム作りにも、彼女達には協力してもらっていたのよ。」

「おいおい、アスカ。
ミラクル5って言ったら、MAGIをハックしたことがあるという、伝説のハッカー集団のことか。」

加持は目を丸くしていた。

「良く知っていたわね。さすがは加持さんね。」

「その実力をゼーレに対して発揮しようって訳か。」

「そういうこと。特に今回の戦いは、通常戦力で言ったら勝ち目は無いわ。
だから、サイバーネット戦で勝利を収めるしか勝利の道は無いのよ。」

アスカの言うサイバーネット戦とは、インターネットを利用した戦いのことだ。

「そうか。じゃあ、俺からもお願いする。
アスカに協力してやってくれ。俺もまだ死にたくないんでな。」

それを聞いたマリア達は強く頷く。ミリアを除いて。

「ミリアは、もうちょっと時間が欲しいみたいなの。だから、今日は何も言わないで。」

アスカがすかさずフォローした。


こうして、アスカは今後の見通しと作戦について、1時間ほど説明した。
敵の戦力が思っていたよりも遥かに強大であること、3月中には総攻撃を受ける可能性が高いこと、
敵がやって来る前に何らかの方法で叩く必要があること、等々である。

さすがに軍事訓練も受けたことがあるメンバーであることもあり、
問題の深刻さを理解するのも早かった。

「ねえ、アスカ。こんなんで本当に勝てるの?
映画のDISKなんて売っている余裕なんかないわよ。」

マリアの問いにアスカは少し呆れて答えた。

「あのねえ、あれは重要な作戦なの。そんなことも分からないの?」

「えっ、作戦って。」

「サイバーネット戦と情報戦を同時に仕掛ける布石なのよ。
どれだけうまくいくか見当がつかないけど、アタシ達には他に有効な方法が無いわ。」

「じゃあ、どうするのか教えてよ。」

「いいわ。そのために集まってもらったんだもの。」


こうして、アスカはその場の全員に作戦の詳細を説明した。
そして、各部の協力を要請した。各部の責任者が快く頷いたのは言うまでもない。
シンジは、アスカが何をシンジに伝えたかったのか、いま一つ分からなかったが、
作戦が着実に進行していることが分かって、ほんの少しではあるが、安心することが出来た。



次話に続く
 
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あとがき

 徐々にアスカの作戦の輪郭が見えてきました。ゼーレとの戦力差を一体どうするつもり
なのか、今後のアスカの活躍に期待してください。なお、レイを出すと、美味しい所を全
てかっさらっていく可能性が高いので、現時点では第3部には出さないつもりです。もし
かしたら、最後まで出ないかもしれません。


written by red-x



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