新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS 第3部 ゼーレとの戦い−激闘編− 第49話 告白 「ねえ、アスカ。ちょっと目をつむってよ。」 「どうして?」 「いいから、お願い。」 「これで良いの?」 シンジは、アスカが目を閉じると、その可愛らしい唇にキスをした。 ちょっとだけ、アスカの体が強張ったが、特に嫌がる様子は無い。 (良し、いいぞ。アスカは喜んでくれるかな?) そして、キスをしながら、アスカの口の中に何かを入れようとした。 「んっ、一体何よ?」 「バレンタインのチョコレートのお返しのクッキーだよ。」 シンジは、アスカが驚いたかなあなどと思っていたが、アスカの反応は苛烈なものだった。 「シンジのバカッ!」 「バシッーン!」 哀れ、シンジの頬には、真っ赤な紅葉が出来ていた。 「ど、どうして…。」 いきなりではなくて、事前に了解を得ていれば、良かったかもしれない。 或いは、最初は手で口に入れて上げて、それからだったら喜んだかもしれない。 だが、ムード作りの下手なシンジのなせる技、クッキーの口移しを唐突に行ってしまったことから、 アスカにデリカシー無しと判断されてしまったようである。 (ええっ、どうして駄目なのさ?) 鈍いシンジに乙女心が分かる筈も無く、シンジはがっくりと肩を落した。 *** 「あれっ、碇君、どうしたんですか?顔が赤いようですが。」 翌日の3月15日、火曜日の朝。皆で食事をしている時、ユキがシンジの顔が赤いことに気がついた。 「ううん、何でも無いよ。」 シンジは笑って誤魔化そうとする。 「惣流さんは何故だか知っていますか。」 ユキは、これ以上シンジに聞いても無駄だと判断し、矛先をアスカに変えた。 「言っていいのかしら…。」 アスカの呟きに、シンジは珍しく即答した。 「止めて欲しい。」 シンジは俯いていた。 昨日のことを人に知られたら、本当に顔から火が出るほど恥ずかしいからだ。 「と、言う訳よ。残念だけど、教えられないわ。」 「ええっ、そんなのずるいです…。」 だが、アスカの眉が少しだけつり上がったのを見て、ユキは追及を諦めた。 「…やっぱり、いいです。」 少し落ち込んだようなユキに苦笑しながら、アスカは皆に話しかけた。 「みんな、食べながら聞いてね。 おそらく、今度の週末かその前後に、ゼーレの連中が攻めて来るわ。 今度の戦いが最後の大きな戦いになるわ。 アタシは必ず勝つつもりだけど、勝負は時の運だから、何が起こるのか分からないわ。 もしかしたら、ここにいる全員が死ぬかもしれないし、何人かが生き残るかもしれない。 全員が無事という可能性は限りなく低いわ。だから、思い残すことは無いようにしておいてね。」 「おいおい、アスカ。あんまり驚かすなよ。そこのユキちゃんの顔が引きつっているぞ。」 加持は苦笑している。 「そうよ〜、アスカ。あなたが頼りなんだから。そんなことを言わないで。」 ミサトはちょっとくだけた口調だ。暗くなった雰囲気を明るくしようというのだろう。 「うん、ごめんね。ちょっと暗い話題だったわね。でも、アタシは楽観論者じゃないから。 今行動しないと、手遅れになることがあるかもしれないから、だからあえて言うのよ。」 アスカの言葉に、その場はシンとなった。 だが、一人だけ雰囲気を理解していない者がいた。ほかならぬシンジである。 「だ、大丈夫だよ。ゼーレだって、使徒よりも弱いんだから。 その使徒に勝った僕達が負ける訳ないよ。ねえ、カヲル君もそう思うでしょ。」 「そうだね、シンジ君。 でも、今回の勝敗は、僕達エヴァンゲリオン部隊の働きいかんに掛かっているのさ。 特に、シンジ君の働きにね。」 (えっ、そうなの?) 「そ、そうなの。ちょっと心配になっちゃったな。」 それを聞いて、皆、吹き出してしまった。 *** 「森川、僕は君のことが好きだ。付き合って欲しい。」 その日の昼休み、意を決したケンスケは、ユキに告白していた。 朝のアスカの言葉に後押しされたのだろう。だが…。 「ごめんなさい、相田君。 でも、相田君のことが嫌いな訳じゃないんです。 私は妹達の面倒をみなくてはならないの。 だから、男の人と付き合うことは出来ないんです。 本当にごめんなさい。」 ユキは頭を下げると、ケンスケに背を向けて去って行った。 「ちぇっ、やっぱり駄目だったか。」 ケンスケは肩を落す。そして、とぼとぼと重い足どりでその場を去った。 *** 「あ〜あ、やっぱり駄目だったよ。」 ケンスケは、シンジとトウジを前にして、気落ちした様子で言った。 「まあ、元気出せや。女なんて、他にもいるさかいな。」 「そうだよ。元気出してよ。」 だが、彼女がいる男に言われても、何の慰めにもならない。 「あれっ、電話や。誰からかいな。」 トウジは携帯電話を手にした。 「ん、なんや、惣流か。お前とは話すことはないんや。 えっ、何っ。う〜ん、そう言うことならワイも協力せなあかんな。」 トウジは、電話を切るとケンスケに向き直った。 「おい、ケンスケ。もう一回、森川に告白する気はないんか。」 「えっ、どういうことなんだよ。」 「惣流がな、森川と話をつけるって言うてんのや。駄目で元々で、試してみいや。」 「それは良い考えだね。そうしなよ。」 二人の後押しを受けて、ケンスケは再びユキにアタックすることにした。 *** 「ユキ!ちょっと話があるんだけど、良いかしら。」 アスカはユキを追いかけ、頃合いを見計らって話しかけた。 「ええ、良いですよ。」 ユキはにっこりした。 ユキはアスカに強く憧れているため、アスカと話をするのは大歓迎なのだ。 「実はね、朝の話を覚えている?」 「ええ。」 「あれはね、実は男共に言ったのよ。好きな女の子がいたら、アタックしろってね。」 「そ、そうですか。」 心なしか、ユキの声は震えていた。 「そこでね、ユキにお願いがあるんだけど。 まあ、万が一の話だけど、相田がユキに告白したら、断らないで欲しいのよ。」 「えっ、どういうことですか。」 ついさきほど、既に断ってしまっているユキの顔は、少し青ざめていた。 「実はね、今度の戦いで、相田はエヴァンゲリオンのパイロットとして戦う予定なのよ。 あっ、これは軍事機密だから、絶対に誰にも言っては駄目よ。もちろん、ヒカリにもね。 朝にも言ったけど、今度の戦いは半端じゃないのよ。 だから、エヴァンゲリオンのパイロットには何の迷いも無く戦って欲しいのよ。 それが、女の子に振られて落ち込んで、 それが原因で負けましたなんていうことになったら、シャレにならないでしょ。 負けないまでも、味方の死亡者がケタ違いに増える可能性もあるのよ。 だから、お願いね。」 「でも、私は嘘はつけません。」 ユキの声は少し震えていた。 死亡者がケタ違いに増えるという、アスカの言葉に驚いたためであろうか。 「嘘をつかなきゃいいのよ。 アタシも、もしシンジに告白されたら、こう言うつもりなの。 『20歳になったら、アタシの全てを捧げるわ。それまで待ってね。』ってね。 もちろん、嘘にするつもりは無いわ。だって、そうじゃない。 エヴァンゲリオンのパイロットは、アタシ達のために、命懸けで戦うのよ。 それくらいのことをしてあげても、バチは当たらないと思うのよ。」 アスカは、大まじめに大嘘をついたが、ユキにそんなことが分かる筈も無い。 ユキはハッとしたような顔をした。 「惣流さん…。ごめんなさい。私は、自分のことばかり考えていました。」 「でもね、相田のことが嫌いだったらいいのよ。 そんなことをする位だったら死ぬなんて言われても嫌だから。 でね、ユキの本音を聞きたいのよ。 ユキは、相田のことをどう思っているのよ。」 「まだ、自分でも良く分からないんです。 相田君は仲の良い友人で、嫌いじゃないですし、どちらかと言うと、好きな方に入ると思います。 でも、私は妹達の生活の面倒も見なくてはならないんです。 だから、恋愛なんてまだ早いって思っているんです。」 「そう。でも、妹さん達のことがあるなら、断らない方が良いわね。 もし断ったために、相田が敵にやられて、妹さん達が巻き添えを食って死んだらどうするの? 一生後悔することになるわよ。」 「そ、そんな…。」 「それに、嫌いじゃないなら付き合いなさいよ。 あいつはネルフから給料をもらう身だから、生活に関しては心配する必要はないわ。 仮に今、相田と婚約すれば、アタシと同じマンションに一緒に住むことも出来るし、 金銭的にも何の問題もないわ。ユキの妹達の生活費や学費について心配する必要は全く無いのよ。 それに、もし相田と別れた場合は、アタシが生活費については責任持つから、心配しないでいいのよ。」 「そ、そんなことをしてもらわなくても良いです。」 「い〜え、アタシがそうしたいの。 それに、そこまでする必要があるのよ。敵に勝つためにはね。」 「…分かりました。相田君に告白されたら、断るのはやめます。 それに、惣流さんの言う通り、相田君とおつきあいをしてみることにします。 でも、もし別れることになったら、惣流さんにご迷惑がかかるんでしょうか。」 「ううん、そんなこと無いわよ。 でもね、アイツは思った以上に良い奴よ。 軍事オタクだから少し嫌だなあ、なんて思っていたけどね。 ここだけの話、ネルフは、相田に協力してもらって、敵の動向を掴んだのよ。 もし、相田にがいなかったら、ネルフは負けていたかもしれないのよ。 でも、アイツったら、そんなこと一言も言わないでしょう。少し見直したのよねえ。」 「へえ、そうなんですか。」 「まっ、とにかくお願いね。 今月中だけでも相田にいい顔をしてもらえばいいからさ。お願いね、ユキ。」 「はい、分かりました。」 こうして、二人は別れた。 *** 「うまくいったわね、アスカ。」 物陰から、ヒカリが出てきた。一部始終を見ていたのである。 「まあ、このアタシにかかれば、これ位ちょろいわよ。」 「でも、あの相田君がエヴァンゲリオンのパイロットだなんて、知らなかったわ。」 「ごめんね、ヒカリ。一応、軍事機密だったから。」 「でも、良いの?そんなことを話しちゃって、アスカが罰を受けたりしないの?」 「ばれなきゃいいのよ。」 「そりゃそうね。でも、軍事機密か。鈴原も教えてくれなかったわ。 そんなに大切な秘密なのかしら。」 「そうね。友情や愛情とは別物なのよ。 例えば、ミサトと加持さんがそうよ。 お互いに仕事上の機密を持っているけど、絶対に話したりしないわ。 おそらく、結婚しても同じよ。 機密というのは、それ位重要なことなのよ。」 「そうかあ。でも、ちょっと残念だわ。 アスカと碇君が最近口をきかないのも、そういう秘密が関係しているのかしら。」 「ええ、そうよ。アイツも結構我慢しているわ。可哀相な位にね。 でもね、人の命がかかっているからしょうがないのよ。」 「そうか、アスカも大変なのね。良く分からないけど、頑張ってね。 鈴原がアスカのことをとやかく言わないように、釘は打っておいたから。」 「うん、ありがと、ヒカリ。 ゼーレとの戦いに決着がつけば、シンジとも元通りになると思うわ。それまでのことだから。」 アスカはそう言って、にっこり笑った。 *** 一方、ネルフにおいても、マコトがリツコに告白していた。 「赤木さん。僕は、赤木さんのことが好きになってしまいました。 どうか、おつきあいしてください。」 「こんなおばさんじゃなくて、もっと若い子の方が良いわよ。」 「そんなことは無いです。でも、それは、お断りの言葉と受け取った方がいいんでしょうか。」 「違うわ。忠告よ。でも、少し考えさせて欲しいわね。 あなたが良い人だっていうのは分かっているわ。 アスカもシンジ君も、皆、あなたのことを誉めているしね。 でもね、私があなたに相応しいかどうか、分からないの。だから、もう少し時間が欲しいの。」 「ええ、良いですよ。僕は、いつまでも待ちます。」 「悪いわね。」 リツコはそう言うと、マコトに背を向けて歩き出した。 マコトは、しばらくリツコの背中を見ていたが、リツコの姿が見えなくなると、携帯電話をかけた。 「ああ、アスカちゃんかい。今、告白したけど、OKはもらえなかったよ。 えっ、断られなければOKと同じだって?そうかなあ。 えっ、落ち込む必要は無いって?ああ、分かったよ。僕も男だ。少し位待つさ。 えっ、協力してくれるって。いつもありがとう。うん、じゃあまたね。」 マコトは電話が終わると、シゲルの所へ向かった。 *** 「森川。ついさっき断られたばかりなのに、ずうずうしいって思うかもしれないけど、 僕はやっぱり森川のことが好きなんだ。だから、もう一度言いたい。 僕と付き合って欲しい。頼む。」 ケンスケは、放課後になって、再びユキに告白した。 「私のどこが良いんですか?」 「笑顔が可愛いところと、きょうだいの面倒見が良い所かな。」 「そうですか。私は、妹達の面倒を見なくてはならないんです。 だから、もし私と付き合っても、それが全てに優先されますけど、それでも良いんですか。」 「ああ、もちろんさ。僕も一緒に手伝うよ。」 「そこまで言うのなら、分かりました。 こんな私で良かったら、お付き合いさせていただきます。」 「えっ、本当に良いの?」 ケンスケの顔が、目に見えて綻ぶ。 「ええ、でも、条件がもう一つあります。 私とのお付き合いが、惣流さんに迷惑がかからないようにして欲しいんです。 例えば、惣流さんに何か頼まれたとして、私との約束を優先して、 惣流さんの頼みを断ったりするようなことはしないで、惣流さんに協力して欲しいんです。」 「ああ、分かった。約束するよ。」 「それでは、これからよろしくお願いします。」 「ああ、よろしく。」 かくして、ついにケンスケに春が来たのである。 次話に続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき アスカとシンジ、ヒカリとトウジ、さてケンスケの相手はと考えると、レイやマナでは、 ちょっと…。結果的にユキになりました。えっ、山岸さん?私は彼女のことを良く知らな いので、止めました。 さて、大人の方もリツコとマコトの組み合わせになりそうです。リツコとゲンドウとい う組み合わせをしないために、リツコには記憶喪失になってもらったようなものなのです。 あと、ご都合主義で、この話の中では、リツコは綺麗な体ということになります。だって、 そういうシーンは、ミサトと違って無かったので、ゲンドウとの仲は精神的なものだった ということにしました。これで、マコトも少しは救われるでしょう。 written by red-x