新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセS

第3部 ゼーレとの戦い−激闘編−

第51話 決戦!第3新東京市


「おい、ケンスケ。森川とはどうなってるんや。」

トウジは、ケンスケを問い質した。
今日は3月18日の金曜日で、つい先程卒業式が終わり、シンジ達は教室に戻ったところである。
ちなみに、アスカ達の姿はまだ見えない。

「そ、そんなこと言われたって、まだ付き合うのをOKされてから、4日しか経っていないんだぜ。
それに、学校の後は訓練三昧だし、メールの交換をする位しか出来ないさ。」

「そう言われりゃ、そうやなあ。」

トウジも、勢い込んで聞いてみたものの、よくよく考えてみれば、
最近のケンスケはトウジやシンジと朝から晩まで一緒にいるのだ。
ユキとゆっくり会っている時間など無い事は、よく考えれば分かる筈なのだ。

もっとも、朝はユキとケンスケとで朝食を作っているし、話す時間が全く無い訳ではないのだが、
シンジやケンスケらは、夕食は以前と違ってネルフの食堂で食べるのが常となっており、
一緒に過ごす時間は減っているのも事実である。

トウジも状況は似ており、ヒカリとは朝食を共にするけれども、
学校で別れたら翌朝まで会えない状況が続いている。
したがって、ネルフに入れないヒカリとユキは、一緒に夕食を摂っているのだ。

ケンスケは苦笑しながらも、言葉を続けた。

「全ては、戦いに勝ってからさ。だから、俺は全力を尽くすよ。
俺が手を抜いたせいで、森川が死んだり、大怪我をしたりしたら、一生後悔するものな。
でも、シンジは凄いよ。
今までは、エヴァのパイロットって、格好良いもんだと思っていたけれど、とんでもない。
自分の肩にかかる責任の重さっていうのが、痛いほど感じられて、
格好良いなんて気持ちなんてどっかに行っちゃったよ。
シンジは敵と戦うだけでなく、こんな責任まで背負いこんでいたんだな。
それでいて、そんなことは微塵も感じさせなかった。
俺とシンジは根本的に違うって、良く分かったよ。」

「ケンスケ、それは僕のことを買いかぶりすぎだよ。」

「いや、そうじゃない。
お前は自分でも分かっていないようだけど、とても強い心を持っているんだ。」

「なに言ってんのさ。僕はとても弱いんだよ。
何かあると直ぐに逃げ出すような人間なんだよ。」

だが、トウジが反論した。

「いや、そんなことはあらへん。
シンジが弱い奴やったら、ワイらは生きていないんや。
ワイには分かる。最初にエヴァに乗った時、ワイはごっつう怖かったんや。
多分、小便どころか、大きい方もちびったかもしれへん。
同じエヴァに攻撃されて、生命が縮まる思いやった。でも、思ったんや。
シンジは、いつももっと訳の分からん、エヴァよりももっと怖い敵と戦って来たやないか。
こりゃあ、ワイには真似が出来へんてな。
シンジが逃げへんで、踏みとどまって戦ってきたから、ワイらが無事だったって、分かったんや。」

「ト、トウジも何だよ。」

「どうやら、トウジも同じ意見みたいだな。
でもな、シンジ。こういうことは、素直に認めた方がいいぞ。
そうじゃないと、俺達が腰抜けみたいじゃないか。」

「あっ。ご、ごめん。」
(そうか、アスカが前に言っていたっけ。
『意味も無く自分を責めないで。』とか
『誰かが傷つくかもしれないっていうことを良く考えてから言って。』って。
僕はまだまだアスカには及ばないのか。)

シンジは少し俯いた。

「おいおい、何で謝るんだよ。」

「ごめん、僕は何て言っていいのか、分からなくて。」

それを聞いて、ケンスケは呆れたように言った。

「近くに良いお手本があるじゃないか。
惣流みたいに、『アタシにまっかせなさ〜い。』
なんていう風に、陽気に言ってれば良いんだよ。」

「そ、そういうもんなのかな。」

「そういうもんさ。」

「分かったよ。じゃあ、言うよ。アタシにまっかせなさ〜い。」

「ぷっ。お前、天然だったんだな。」

「あははははっ。シンジには、まだ無理か。」

「な、なんだよ。言えって言ったのはそっちじゃないか。
それなのに笑うなんて酷いよ、もう。」

そう言ってむくれるシンジをよそに、ケンスケとトウジは暫くの間、笑い続けた。

***

「ねえ、シンジ君。今日は一緒に行きましょう。たまには良いでしょう?」

いつもと同じように、ケンスケやトウジと一緒にネルフへ行こうとしていたシンジを、
ミサトが呼び止めた。

「ええ、良いですよ。」

シンジはトウジやケンスケも一緒だと思っていたが、そうではなかった。
ミサトの話によると、リツコも一緒だと言うのだ。
それでは一人が余るので、トウジとケンスケはそこで別れた。

「さあ、行くわよ。」

ミサトが言った瞬間、携帯電話が鳴った。

「ちっ、緊急事態ね。飛ばすわよ。」

それを聞いて、自分の不幸を呪うシンジであったが、悪い事ばかりでは無かった。

「あっ、アスカがいたわ。一緒に乗っけて行くわよ。」

ミサトの声に、シンジの顔が一瞬綻んだ。


こうして、ミサトはアスカも乗せて、ネルフへと向かった。

***

「リツコ、状況はどうなっているの?」

「分からないわ。今調べているところよ。」

アスカは、ルノーに乗るなり、リツコに状況を聞いてきたが、
リツコも何ら情報を掴んでいないので答えようが無かった。
だが、リツコは懸命に携帯端末を叩いて、少しでも情報を得ようとしていた。

「あっ、分かったわ。どうやら敵の先陣がやって来たみたいね。」

「数はどれ位なの?方角は?距離は?」

「そうね、今の所は大した数ではないわ。空母が2にその他の艦艇が30といったところかしら。
でも、どんどん数が増えているみたいね。方角は、東と南よ。距離はまだかなり離れているわ。
アスカの言う通り、有人索敵網を張りめぐらしておいて、大正解だったわね。
レーダーでは、まだ敵を把握出来ていないわよ。
敵さんは、かなりステルス性能の高い装置を持っているようね。」

実は、アスカの発案で、敵がステルス性の高い兵器で攻撃してきても見逃さないように、
有人索敵網を構築していたのだ。
それが、今回は大当たりだったという訳だ。
もし、敵の発見が遅ければ、奇襲を受けてしまう。
最初の攻撃で最大火力を投入されたら、それだけで全滅ということがあり得るのだ。
無論、エヴァが発進する前に攻撃を受けたら、ひとたまりもないだろう。

「そう、やっぱりね。そうなると、違う方角から、陽動部隊が出てくるわね。」

「そうね。間違いないでしょうね。戦自には注意を呼びかけておくわ。」

「ええ、お願いね。今日は長い1日になりそうね。そうだ、シンジ。
ネルフに着いたら、速攻でエヴァに乗る準備をするのよ。早ければ早いほどいいわ。」

そこまで言うと、アスカはシンジの耳に口を近づけた。そして、小声でこう言った。

「シンジ、絶対に攻撃をためらったら駄目よ。
もし、攻撃するかどうか迷ったら、アタシの死体を思い浮かべて。
アンタが敵への攻撃をためらったら、それが現実になるのよ。
良いわね。敵の死体とアタシの死体、選ぶのはシンジよ。これだけは忘れないでね。」

「そ、そんな・・・。」

シンジは絶句した。だが、アスカは諭すように言った。

「良い、シンジ?これは殺し合いなのよ。
いくらこちらが白旗を掲げても、アタシ達が生かされることは無いわ。
非情だけど、これは生きるか死ぬかの戦いなのよ。
もし、シンジが口先だけでなく、本当にアタシのことを好きなら、アタシを守るために力のかぎり戦ってよ。
悔しいけど、今のアタシはシンジに頼るしかないの。
それに、アタシは意気地なしは嫌いだから、そうじゃないことを証明して。

出来る事なら、アタシがシンジの代わりに戦って敵を倒したい。
でもね、そうするとアタシの命は間違いなく失われるわ。
アタシはまだ死にたくないの。だから、シンジ、お願い。
世界のために戦ってとか、みんなのために戦ってなんて言わない。
アタシのために、アタシの命を救うために戦って・・・。」

アスカはそこまで言うと、シンジの手を固く握り、シンジの目を見た。
シンジもアスカの目を見つめ返した。

「分かったよ。僕は、命懸けで戦う。アスカを守るために・・・。」

シンジは既に、何でアスカがエヴァに乗れないのか、何で乗ったら死ぬのかを聞いていたのだ。
だから、その言葉は本心から出たものだった。

シンジもアスカの手を固く握った。
アスカは、そんなシンジをちょっぴりだけど、頼もしく思うのだった。
と同時に、女の子として、嬉しくも思っていたのだが、シンジがそれに気付くことはなかった。

***

ネルフに着くと、一行はそれぞれ別れた。
アスカはアスカルームに、シンジは更衣室に、ミサトとリツコは発令所である。
シンジは更衣室の中で手早く着替え、着替え終わると、ケージへとすっ飛んで行った。

シンジがケージに到着して5分経って、パイロットが全員集合した。
と言っても、ケージで集合する訳ではなく、エントリープラグに全員搭乗している。
シンジは、無線で全員に作戦についての基本的事項を再度説明した。

これには、いつ出撃するか分からないパイロット達の精神的疲労を防ぐ目的もあった。
とりあえずシンジの話を聞いていれば、余計な事を考えないだろうとのアスカの発案だったのだ。
無論、それ以外にも、現在の敵の動向を伝え、それに沿った作戦を実行するためでもあったのだが。

そして、パイロット達は、出撃の時間を前に特に緊張することなくシンジの話を聞いていたのである。

そこへ、アスカから全機緊急発進の命令があった。

「みんな、いくよっ!」

シンジの掛け声と共に、エヴァンゲリオン全機が発進した。

***

 シンジが更衣室に着いた頃、アスカはアスカルームに到着した。

「お待たせ!」

アスカルームには先客がいた。アールコートである。
彼女はシンクロ率が起動指数に達しないため、パイロットからは外されていたのだ。
マックス、アリオス、キャシーらは別の任務に就くことになっている。
特に得意なものがないアールコートは、アスカの手伝いをすることになったのだ。

「こんにちは、惣流さん。」

「どう、状況は?」

「はい、今スクリーンに映します。」

アールコートの声と共に、正面に据えつけられた100インチのプラズマディスプレイに、
日本地図と敵戦力の配置が映った。

敵戦力は、3方面からやって来ている。
北東から空母2にその他25隻の艦隊、
東からは空母1にその他15隻の艦隊、
南西からは空母2にその他20隻の艦隊だ。

「ふうん、思ったよりも多いじゃない。」

アスカは唇を噛んだ。それは、空母の数が多いからだった。
事実上、空母以外の戦力は、ネルフにとって脅威ではない。
近寄ってくる前に叩いてしまえば良いからだ。
だが、空母はそうはいかない。こちらの射程外から航空兵力を発進させて来るからだ。

一応、空母に対する備えはあるが、相手に通じるかどうかは分からないのだ。
しかも、まだ発見出来ない潜水艦の脅威も残っているし、爆撃機からの攻撃もあり得るのだ。

「まあ、いいわ。やってやろうじゃないの。」

アスカは不敵に微笑んだ。

***

「日本海側から、SLBMが発射されましたっ!」

「数は20っ!高速で接近してきますっ!」

発令所は、喧騒に包まれていた。予想外の攻撃が北側からあったからだ。
ミサトはすぐにアスカと連絡を取った。

「アスカ!日本海側から、SLBMが発射されたわっ!
これから戦自に迎撃を要請するわねっ!」

だが、アスカの答はNOだった。

「待って。戦自には、やり過ごすように要請して。」

「な、何ですって。」

「いいから、お願い。戦自には、戦力を温存してもらわないといけないのよ。
その代わり、エヴァを全機発進させるわ。」

「分かったわ。任せたからねっ。」

こうして、最初の敵の攻撃は、その殆どが無傷で第3新東京市へと向かってきた。
だが、ミサトも言葉と裏腹に、全てを任せてはいなかった。
万一のことを想定し、マコトに迎撃準備を命令した。
この命令は結局無駄になるのだが、責任者としては、当然の処置であった。

***

地上に出たエヴァは、3機1組となって、それぞれの配置場所へ集まった。
いずれも小高い丘や山の上である。

第1小隊ミンメイ、第2小隊サーシャ、第3小隊ケンスケがそれぞれポジトロンライフルを持って、砲手となった。
各小隊にポジトロンライフルは2丁配備されているが、1丁は遠距離狙撃用、もう1丁が近距離攻撃用だった。
遠距離攻撃用のは砲手が担当し、近距離攻撃用のは、地上戦担当の者が使うのだ。

「みんな、落ちついて撃ってほしい。
難しい事は、コンピュータが全部やってくれるから、心配しなくても良いよ。
僕だって、最初の1発目こそ外したけど、2発目は命中したもの。
だから、きっと大丈夫だよ。」

「おい、シンジ。1発目は外したのか。」

ケンスケは心配そうな声で尋ねたが、シンジは笑って言った。

「だって、しょうがないよ。相手から攻撃してきたんだもん。
でも、今回はそういうことは無いから、心配しなくて良いよ。」

「な、何だ。それを早く言ってくれよ。」

ケンスケのため息に、他のパイロット達から笑いが漏れる。
だが、その笑いも長くは続かない。
アスカから、攻撃開始命令があったからだ。

「本当かよっ。ミサイルなんて、影も形も見えないぜ。」

ケンスケの呟きに、ミンメイが応えた。

「見えてからじゃあ、遅いんですよ。大丈夫です。コンピュータを信じましょう。」

「ああ、分かったよ。」

ケンスケは苦笑しながら答えた。

本来は、高速で動く物体を撃つというのは至難の技なのだが、
そこはMAGIの力をもってサポートすれば、決して難しいことではなかった。
だが、ミンメイやサーシャと違って、ケンスケはそこまでの信頼をコンピュータに期待していなかったのだ。


「サーシャ、撃ちます。」

ケンスケとミンメイが会話をしていた僅かな間に、
サーシャが第一撃をSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に放っていた。
元々、ポジトロンライフルは、衛星軌道上の敵を狙撃出来るほど射程距離が長い。
従って、遥か遠くでSLBMの爆発するのが見えた。

「良し、俺もやるぞ。」

ケンスケとミンメイもサーシャに倣い、次々とライフルを撃った。
こうして、ゼーレの攻撃第1陣は、あっけなく防ぐことが出来たのである。


次話に続く


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ネルフの迎撃体制について

発令所

・ゲンドウ、冬月、リツコ、マヤ、シゲル
・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用
              ・加持 :傭兵部隊の指揮
アスカルーム

・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮、全体の指揮(実質)
・アールコート

エヴァンゲリオン部隊

・シンジ:現場指揮官、第1小隊長 
・ミンメイ、マリア:第1小隊 
・カヲル、ミリア、サーシャ:第2小隊
・トウジ、ケンスケ、ハウレーン:第3小隊


written by red-x

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