新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第19話 土曜日−その2−


「さあて、買い物は終わったし、昼メシも食ったし、ここで解散にしようぜ。」

ちょっと早い昼メシの後、俺が解散を切り出したら、なんかケイがもじもじしだしたんだ。
どうしたんだと聞いたら、小声でこう言うんだ。

「あ、あのさあ、アサト。実は友達から貰った映画のチケットが2枚あるんだけど、暇だ
ったら一緒に行こうよ。」

「駄目だ。」

俺は即座に断ったが、急に尻が痛くなった。原因はすぐ分かった。ミライだ。

「なんだよ、いってえ〜な。」

そう、ミライは俺の尻をつねりやがったんだ。そして、俺の耳に口をつけて囁いた。

「ふん、このニブチン。映画くらい、一緒に行ってあげなよ。」

あれ、おかしいな。いつものミライだったら、絶対に行くなって言うのに。でも、そんな
ことは今はどうでもいいか。そう思いなおして、俺は反論した。

「あのなあ、いきなり言われても、俺だって先約ってもんがあるんだぜ。今日は駄目だ。」

「じゃあさ、来週だったらいいの?」

ん、来週か?確か、特に予定はないはずだよなあ。

「まあ、急用でも入らなきゃいいけどな。」

「ケイさん、聞いた?来週だったらいいってさ。」

「…アサトは、いいの?」

ん、相変わらず小声だなあ。いつもと違って変なケイ。ま、どうでもいいけどな。

「まあ、来週なら暇だから、一緒に映画を見に行くくらい全然構わねえよ。」

「ほ、ほんと?じゃ、じゃあ、約束してくれる。」

「ああ、分かった。と言いたいところだけど、何の映画だよ。それを先に聞かないとな。」

「えっと、『スターシップ・トゥルーパーズ7』なんだけど…。」

おっ、SFかあ。俺はスターウォーズやエイリアンが結構好きだから、そいつならOKだ。
確か、原作がハインラインだっけ。

「おっ、いいねえ。ショウと見に行こうと思ってたけど、まだ声をかけてなかったから、
丁度いいや。なに、ケイはこういうのが好きなのかよ。」

「え、わたし?う、うん、結構好きだよ。あの、アサトも好きなの?」

「ああ、そうだ。俺はSFやアクション物が好きなんだ。」

「そ、そう、偶然ね。わたしと好みが近いんだ。よ、良かった。」

「そうだな。じゃあ、来週な。待ち合わせ時間と場所は合わせるから、後で連絡しろよ。」

「うん、分かったよ。」

ケイは何故か顔が少し赤かった。まさか、風邪でもひいて、熱でもあるのかな?少し心配
になった俺は、早々とケイ達に別れた。

***

「もうっ、アサトったら鈍いんだから。」

俺はミライを家に送るため、いったん家に戻ることになったんだが、何故かミライが怒っ
ている。

「へっ?どうしたんだよ。」

俺は訳が分からなかった。

「あのねえ、女の子から誘われたら、普通は他の用事をキャンセルしてでもOKするのよ。
そんなの、常識でしょ。」

おいおい、勝手なことを言うなよ。それによお、なんでこいつは妹のくせに、いつも偉そ
うなんだよ。

「あのなあ、俺にだって用事ってもんがあるんだよ。それになあ、女の子から誘われたっ
て、先立つものが無いんだからしょうがねえだろ。」

「何よ、先立つものって。」

おいおい、それくらい分かれよ。俺は少し呆れて言った。

「あのなあ、お金に決まってるだろ。」

「えっ。アサトって、アタシよりも小遣いもらってるんでしょ?」

おいおい、どういうことだよ。何か、話が見えないぞ。なんだ、その驚いた顔は。

「あのなあ、家の手伝いを何もしなければ、1円だって小遣いをもらえないだろ。お金を
もらうためには必ず労働する、それが我が家の方針じゃねえか。俺は、平均すると月千円
位しかもらってねえぞ。」

「ええ〜っ、うっそ〜っ!」

ミライは、大きく目を見開いた。なに、どういうことだ。俺はピンときた。

「おい、ちょっと待てよ。お前は一体いくらもらってるんだ。」

「1日千円だよ。それに、何かイベントがあると、その都度もらっているけど。」

「げっ。本当かよ。俺なんか、ボランティアで保育園に行く時だけ別枠で、後は月千円で
やり繰りしてるんだぞ。いくらなんでも、違いすぎるぜ。そりゃねえよ。」

「そんなんじゃ、デートなんか出来ないじゃん。」

「そうだ。だから、デートなんてしたことねえだろうが。」

「えっ、アサトがデートしないのって、それが理由なの?てっきり、硬派を気取っている
のかと思ってたんだけど。」

なにい、冗談だろう。

「金の他に、理由なんかあるかよ。」

「じゃあ、来週はどうすんのよ。」

「1週間あれば、何とかなるさ。でも、今は金が無い。だから、たとえ先約が無くたって
断ったさ。」

「そうなんだ。ごっめ〜ん、アサト。知らなかった。」

「まあ、いいさ。しっかし、母さんにはしっかり騙されていたって訳か。まいったなあ、
もう。今度、小遣いの増額を要求しなくちゃな。」

「はははっ、頑張ってね、アサト。」

こうして、俺は貴重な情報を手に入れたのだった。でも母さん、あんまりだよな。

***

「おっと、待ち合わせの場所はここだったな。」

ミライを家まで送ってから、俺は待ち合わせ場所まで走って行った。ちょっと遅れたけど、
まあ、許容範囲だろう。で、息が落ち着いてから周りを見渡した。

そう、今日の先約は、シノブとの約束なんだ。シノブが指定する女の子とデートして、支
払は全て相手持ち。もしもその条件を相手の女の子が最後まで守ればシノブの勝ち。反対
に、少しでも俺が払えば俺の勝ち。

俺が払った分は、後でシノブが払ってくれる約束になっているから、俺は1銭も使わなく
ってすむんだ。何て俺に有利な賭なんだろう。

えっ、俺が賭けに負けたらどうなるかって。そしたらあと5回、シノブが指定する女の子
とデートしなくちゃいけねえんだ。でも、支払は相手持ちだから、俺には実害は無いんだ。

俺が勝ったら、俺が指定する奴とシノブがデートすることになっているが、その時はもち
ろん俺がデートするに決まっている。

賭けに勝っても負けても、デートをするだけっていうおいしい条件の賭けなのさ。

「でも、それらしき女の子なんていねえなあ。一体どうしたんだろう。」

俺が首を傾げると、後ろから声がした。

「ごっめ〜ん、アサト。遅れちゃった。」

振り返ると、なんとシノブが立っていたんだ。

「おいおい、俺がデートするはずの女の子はどこなんだよ。」

俺は首をキョロキョロさせたが、それらしき女の子なんていやしない。

「ちょっと、ドタキャンされてね。だから、わたしがデートの相手よ。」

なにい、シノブかよ。まずいな。俺が考えていた作戦は使えないかもしれないじゃねえか。

「まあ、いいけどよ。お前、金はあるのか?」

そしたら、大丈夫よ〜と言って、シノブはニコニコ笑った。そして、財布から何かを取り
出した。

「ねえ、見てよ。お母さんのカードを借りてきたの。使用制限は無し。事実上、いくらで
も使えるよ。だから、賭はわたしが勝ったも同然よ。」

はははっ、やっぱりな。最初にシノブが出した条件だと、負けた方は裸にされたうえに、
1時間勝った方に好き放題されるっていうことだったっけ。弱気になって、条件を変えて
大正解だったな。

ともあれ、俺の生まれて初めてと言ってもいいデートは、こうして始まった。


 
次話に続く

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あとがき


 さて、アサトの最初のデートが始まります。デートの相手は、幼なじみで憎からず思っ
ているシノブです。果たして、どういう結末になるのやら。
 ちなみに、ドタキャンというのはシノブの嘘で、シノブは最初から自分がアサトとデー
トするつもりだったのですが、もちろん鈍いアサトは気付きません。


written by red-x
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